本作品は、第19回日本ファンタジー大賞優秀賞受賞作です。作者の久保寺さんは、今年この作品ばかりでなく「みなさん、さようなら」(幻冬舎)で第1回パピルス新人賞を「すべての若き野郎ども」で第1回ドラマ原作大賞を受賞するなど、新人としては驚くべき活躍です。
この作品は、手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」の主人公であるブラック・ジャックになりたかった少年の物語です。
主人公和也は小学校三年生。彼は「ブラック・ジャック」に夢中になるあまり、母親にねだって買ってもらった女性用の黒いロングコートを黒いレインコートに見立て、髪はヘアリキドとヘアスプレーでブラック・ジャックのような髪型にして学校に通います。当初は学校でも認められていた和也のブラック・ジャックへの傾倒に対する同級生の見方も、父親の事業の失敗、母親の失踪という状況の中、転校をした新しい学校生活でがらりと一変します。
作者の久保寺さんが「自分の体験と重ねた1970年代の空気感や風景」と言うように、物語の背景はどこかノスタルジーを感じさせます。今ではテレビゲーム全盛ですが、70年代の子どもといえば、放課後になると友達と校庭や団地の広場でいろいろなゲームをして遊んだものです。和也の場合はちょっと度が過ぎているところもありますが、多かれ少なかれ、幼い頃はヒーローになることを夢見て、その真似をして遊んだというのは誰にも経験があることですよね。
親の離婚、学校でのいじめという和也の周りの環境は暗いものがありますが、少女漫画に夢中の宮内君と作家を目指す泉さんという、和也と同じようにクラスで浮いた存在の二人との心のふれあいが描かれているため読後感は爽やかです。できれば、幼い頃の恋を成就させてもらいたかったなあ。大人になった二人が、小学校時代を振り返るというのであれば最高だったのですが・・・。幼い頃の恋はうまくいかないものでしょうかね。 |