奥田英朗さんの「サウスバウンド」を読んだあとだったせいでしょうか、書店で「ヘルメットをかぶった君に会いたい」という題名が目に入ってきて、思わず購入してしまった作品です。
劇作家であり演出家の鴻上尚史さんの初めての小説です。帯に「これは“小説”です」と書かれていましたが、内容は1969年当時の映像に映ったヘルメット姿の女性に魅了された鴻上尚史が、彼女を探しながら、それを集英社の「すばる」誌上に掲載していくというのですから、ノン・フィクションかと思ってしまいます。実際主人公の鴻上尚史は1958年生まれで早稲田大学に入学し、その後劇団を旗揚げするというのですから、これは作者の鴻上さんそのものですし、いったいどこまでがフィクションで、どこからがノン・フィクションなのか、その境界がはっきりしません。ただ、これがノン・フィクションであれば、鴻上さんはこの本の発表とともに警察に連行されたでしょうがね(ただ、大隈講堂の前にいた“ヘルメットをかぶった君”は実際の人物のようですが)。
1958年生まれの鴻上さんも僕らと同じように学生運動には乗り遅れた世代です。学生運動は内ゲバの印象から怖ろしいものとしか思っていなかった僕としては、大学に入学したときに、キャンパスの立看板の少なさにホッとしたものでした。ただ、あの60年安保の際のデモのニュースから感じられる学生運動の熱気には、ただ単に学生運動イコール過激派という印象とは異なったものがあると心の片隅で思っていたことも事実でしたね。
この作品は、そんな乗り遅れた世代の鴻上さんが、ヘルメットをかぶった女性活動家を探すことで、乗り遅れた世代としてあの時代を振り返ったものなんでしょうね。政治的理由でなく、ヘルメットをかぶった君に会いたいという思いが読者をストーリーに引き込みます。 |