主人公竜崎は、東大卒のエリート警察官僚。警察庁長官官房総務課長として出世争いのためにひとときも心が休むことがない毎日を送っている。そんなある日かつての殺人事件の加害者が殺されるという事件が連続して起きる。マスコミ対策に追われる竜崎だったが、そんな折、東大以外は大学ではないと主人公から責められ、有名私大に合格しながらも浪人していた息子が、日頃の鬱屈した心から逃れるためにヘロインに手を出してしまう。
物語は、連続殺人事件の真相に気付いた竜崎が、自己の出世の妨げとなる息子の不祥事に心揺れながらも正義を貫こうとする姿を描いていきます。近年注目を浴びる少年事件の凶悪化と少年法の問題が事件の発生に大きな要因となってはいますが、話のテーマは警察組織を守ろうと奔走するキャリアの正義の闘いです。東大が絶対という一般の人から見れば鼻持ちならない主人公ですが、警察の権威を守るために下した決断には感動します。ただ、僕ぐらいの歳になると、主人公が最後にとった決断はあまりにかっこよすぎると思ってしまいもするのですが・・・。息子の犯罪を知って悩み、幼馴染みの伊丹刑事部長のアドバイスにすがりつく方が父親の本当の姿ではないでしょうか。
警察のキャリア官僚の物語といえば、横山秀夫さんもその作品の中で書かれていますが、なかなか官僚の世界は厳しいようです。東大卒でなければ出世は望めず、同期入庁の一人が事務次官になると他の人たちは全員辞めて関連法人に天下るというシステム。最近官僚への批判が高まる中でこうした制度も見直しが求められていますが、頭がいい官僚たちが素直に既存システムの変更に応じるのでしょうか、疑問です。
第78回吉川英治文学新人賞受賞作品です。 |