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小嶋陽太郎の本棚

  1. 放課後ひとり同盟
  2. 友情だねって感動してよ

放課後ひとり同盟  集英社 
 初めて読む小嶋陽太郎作品です。5編からなる連作短編集です。ミニスカートで空に向かって足を蹴り上げる女子高校生の姿が描かれている表紙が強烈です。
 通学の電車で痴漢され、認知症の祖母からは額に花瓶を投げつけられるで散々な林は何か護身術を身に着けたらというコタケさんに連れられパルコの屋上にいる“蹴り男”に蹴りを習いに行く。空から落ちてくる不幸を落ちないように蹴り返していると言う男は、林に、頭の上にたくさんの不幸があると言う。その後、空に灰色のものを見るようになった林は彼と同じように空に向かって蹴りを入れるようになる(「空に飛び蹴り」)。
 男に生まれたが女性として生きたいと願う性同一性障害のミサキ。母親にそのことを告白して以降二人の間はうまくいっていない。そんなミサキを気にせず接してくれるのが外見に頓着しない夢姫(ユメ)だったが、好きな人ができたらしく急に女の子らしい服を着るようになる。ミサキ自身もクラスの原田君が気になるが・・・(「怒る泣く笑う女子」)。
 母親が再婚し義父とその連れ子と暮らし始めたみさ子。理想的な家族を演じる三人の関係に馴染めないみさ子は、家に居場所を見つけることができず、連れ子である妹が飼い始めた子犬にも馬鹿にされる始末。好きな男の子との関係も望んだようには進まない・・・(「吠えるな」)。
 小学生の頃、優れているところはひらがなを書くのが上手なところと同級生の女の子に言われた相田は、それ以来手持無沙汰の時はいつもひらがなを書いていた。そんな相田は大学の同級生の中にその女の子に似ている女子学生を見つけたが、声をかけることもできずにいた(「ストーリーテラー」)。
 性同一性障害の兄を持つ小学4年生の三崎。兄のことが大好きな三崎は「女の子になる」と宣言してからうまくいかない兄と母親との間をどうにかしようとしていた。ある日、三崎が給食当番のときに転んでミネストローネをぶちまけ、その場から消えてなくなってしまいたいと思ったときに「どんまい」と言って気持ちを軽くしてくれたのが転校生で河童に似た栗田君だった。そんな三崎には兄や栗田君の体の中に黒いぐるぐるがあるのを見えるが・・・(「僕と定規とぐるぐると」)。
 高校生を主人公に悩み多き青春時代を描く物語かと思いましたが、後半2編は大学生と小学生が主人公です。それぞれの登場人物が交差することによって連作短編集の体をなしています。題名は“ひとり同盟”のとおり、主人公たちは自分はひとりだ、孤独だと考えているのですが、実は彼らは決してひとりではありません。クラスメートであり、アルバイト仲間であり、そして家族であるなど、彼らのことを思う誰かが存在していることにやがて気付きます。
 登場人物の中で、「僕とじょうぎとぐるぐると」の主人公・三崎の弟が本当にいい子です。兄がいわゆる“オカマ”なのに、それを決して嫌がらないし、友達から馬鹿にされても兄を決して疎んじない素敵な小学生です。この短編集の中の好感度最高のキャラです。それに対して「ストーリーテラー」の相田はかなり危ないキャラです。この話だけはほのぼの青春ストーリーとはとても思えません。 
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友情だねって感動してよ  新潮社 
 6編が収録された短編集です。それぞれの作品にストーリーの繋がりはありませんが、6編とも舞台となっているのは神楽坂で、どの作品にも象が二段重ねになった滑り台のある象公園が登場します。この公園は、表紙の次のページにも写真が掲載されていますが、実在の公園のようです。それに、作務衣姿でギターを抱えて歌を歌っているおじさんも顔を出しています(このおじさんは「恋をしたのだと思います」で重要な登場人物ともなります。)。
 6編のうち、前半の3編と最後に置かれた表題作は高校生が主人公の作品です。
 「甲殻類の言語」は、クラスで孤立している可児遥香と、彼女の世話を焼くことで好印象を他人に抱かせるという計算高い海老原莉子との一人の男子・貝原京一を巡る物語です。カニとエビが貝を取り合ってオセロで対決です。
 「ディストラクション・ガール」は、同じいじめられっ子なのにいじめられても泰然自若としている西野が気になる早乙女と彼の幼馴染でありクラスの女王として君臨する松岡の物語です。この作品はエロさ爆発です。
 「或るミコバイトの話」は、叔父が宮司を務める神社で巫女のバイトをすることになった女子高校生・小田きみ子の恋の物語です。極度の男性不信の幼馴染のめくちゃんが唯一口をきくことができる男子生徒・朝長くんが次第に気になってしまうが、めくちゃんも朝長くんもお互いに好きではないかとひとり気をもんでしまうきみ子が描かれます。このきみ子が収録作の中で一番まともなキャラではなかったでしょうか。男子生徒の朝長くんのキャラもほわっとした感じで好感が持てます。6編の中ではこの作品が個人的にはお気に入りです。
 この前半の3編は、どれも主な登場人物は、女・女・男の組み合わせであり、となれば一人の男を巡っての二人の女性のさや当てかと思いますが、そう単純ではありません。というより登場するキャラクターは変わっているし、その心の有り様が複雑すぎます。
 「象の像」は、恋人に別れを告げられた脚本家志望の男子大学生の物語。一歩間違えば犯罪者になるところまで落ちようとした男がどうにか這い上がってくる物語。次の「恋をしたのだと思います」は、自分の意見というものを持たない女性が、男からの結婚の申込みを前にして、占い師に恋してしまう物語です。この占い師が実はそれまでの話の中にも登場した公園にいる作務衣姿の男だったわけですが、この作品でメインの登場人物になってもまったく正体がわかりません。
 表題作の「友情だねって感動してよ」は、前半3編と同じく高校生3人の物語です。こちらの組み合わせは男・男・女。昼ごはんのときに人形と向き合って食事をする湯浅という奇妙な男子高校生と、彼の陰口を言っていた女子たちを一喝した吉川を好きになった倉田との物語です。
 どうせなら、6編全部が高校生の青春物語で良かったのではないでしょうか。大学生が主人公の「象の像」はまだしも、銀行員の女性の「恋をしたのだと思います」が、恋を描いているにしても特に6編の中では異質な感じがします。 
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