| 神の光 | 東京創元社 |
| 5編が収録された短編集で、その5編どれもが消失トリックを扱ったものとなっています。「このミス」で第7位、「本格ミステリ・ベスト10」で第1位となった作品です。 「一九四一年のモーゼル」・・・1986年、レニングラードの「英雄」という酒場に入った若い猟師は、客の老人から第二次世界大戦中に起こった不思議な話を聞かされる。独ソ戦のさなか、狙撃兵だった老人は、ロシア皇帝ピョートル1世がドイツ皇帝ヴィルヘルム1世から贈られた宝石装飾のなされた「硝子の間」がある館を監視し、ナチス兵に盗まれるのを阻止する任務を命じられる。初日の監視を終え、休憩地点に戻って一夜が明けた翌日,監視地点に行くと、そこから見えていた館が消え失せていた。果たして、館はどうやって消えたのか・・・。消失トリックは大掛かりで印象的でしたが、それ以上に消えたという事実が戦中から今に続くドラマになっていることがわかるラストが感慨深いです。 「神の光」・・・バーのカウンター席で「俺」は男に自分が抱える謎を男が解けるか賭けをする。「俺」の祖父は若い頃、一攫千金を狙ってラスベガスにやってきて、会員制カジノの存在を知り、そこに潜り込んで大金を得る。すぐにバイクで立ち去ろうとするが、バイクが故障し、砂漠にあった小屋で夜を明かすと、カジノのあった町そのものが消え失せていることに気づく。町があった場所に向かうが、めまいがして彼は気を失ってしまう・・・。町が消えたトリックとしてはそんなことも可能かなとは思いますが、そんな理由のために、町を作って、そして消しますかねえと首をひねってしまいます。これを読んで映画の「メン・イン・ブラック」を思い浮かべる人も多いのでは。 「未完成月光 Unfinished moonshine」・・・大学で英文学講師をしている私が友人である作家の藤堂に家に呼ばれる。藤堂はニューヨークに住んでいた時に、エドガー・アラン・ポオの未発表原稿を手に入れた言い、手に入れた場所がポオの破産管財人が住んでいた家であったこと、未完成の作品「灯台」と同じ紙に書かれていたことから間違いないと言う。藤堂はその続きを書いて作品を完成させようと考えるが、物語には主人公が山中で見つけた山小屋から出てきた少女が突然死し、やがて小屋が一夜にして跡形もなくなくなるということが書かれており、この謎を解かなければ続きを書くことができないと探偵小説好きであった私を呼び出したということだった・・・。これは消失トリックが明らかにされても個人的にはすっきりするものではなかったです。ラストのホラーテイストもどうなのかなあと思ってしまいました。 「藤色の鶴」・・・2055年、内戦が勃発したカザリア共和国で基地が消え去る。1055年の平安時代の日本では陰陽寮における地位をめぐって賀茂家と藤原家の争いが起き、賀茂家の襲撃を受けた藤原家に連なる青年と折巫女が逃げる最中に折巫女が逃げ込んだ社が突如として消え去る。1999年、スランプに陥ったバイオリンの神童と呼ばれた少年は親せきの住む田舎の村で夏休みの間暮らすことになる。その村の祭りの日、式行列と呼ばれる白装束に神のお面をつけて行進する人々が向かった先の鳥居が忽然と消える・・・。3つの時代の消失の謎が1つのトリックでなされたものだということが明らかにされますが、あまりに幻想的で、ミがステリとしてのトリックではなかったです。 「シンクロニシティ・セレナーデ」・・・「わたし」は昔から白い館が霧の中で消えるという夢を見ていた。ある日、その夢のことをSNSに投稿したところ、夢を研究しているという大学教授・浅見四郎から連絡を受ける。彼によると、自分と同じ夢を見ている人がほかにもいることを知らされる。夢の中の家と同じ建物が現実にあることを調べた「わたし」は、その建物を訪ねるが・・・。ラスト1行で建物の消失が語られますが、この消失トリックは物理的な説明がつくものですが、そこに至るストーリーはミステリというより幻想小説といっていいものです。 消失トリックの作品集でしたが、3話目の「未完成月光」からミステリというより、幻想的な部分が大きい話に変わってきましたね。 |
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