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貴志祐介の本棚

  1. 悪の教典
  2. 雀蜂

悪の教典 文藝春秋
(ちょっとネタばれあり)
 昨年の「このミステリーがすごい 2011年版」国内部門第1位、週刊文春「2010年ミステリーベスト10」国内部門第1位に輝いた作品です。上下2巻で発売されていましたが、今回新書版として1冊に纏められての発売となりました。
 なんて言ったらいいのでしょうか。先の展開が気になって700ページ近い大部でしたが、ページを繰る手が止らずあっという間に読了しました。ただ、大きな声で「おもしろい!」と言っていいのか、憚れる作品です。作者自身も自分の子どもには中学生以上にならないと読ませたくないとインタビューで答えていましたが、読者にはかなり強烈なインパクトを与えます。今後、教師が何か事件を起こすと、本棚にはこの本が並んでいたということがありそうな本です。
 主人公の高校教師・蓮実は他人に共感を覚えるということのない男。そのうえ、自分の利益のためなら殺人も躊躇せず行えるという恐ろしい男です。蓮実という男、これはもう、「怪物」としかいいようがない人間(?)ですが、見た目はハンサムで、頭もいい、話術も抜群ときているのですから、なお―層の恐ろしさを感じさせます。そんな蓮実が自分の思いのまま学校を支配していこうとする様子を描いていくのですが・・・。
 読後感は最悪です。読んでいてこの男に鉄槌を下す者は現れないのかと、そういう展開になるのを期待してページを繰っていたのですが・・・。
 ラスト200ページでは凄惨な殺戮が繰り広げられます。スプラッター・ムービーのようです。映画化したら賛否両論がわき起こった「バトル・ロワイアル」のように非難を受けるんだろうなあというシーン満載です。バトル・ロワイアルより
たちが悪いです。生徒は教師の蓮実が殺戮者だとは知りませんし、武器を持っているのは彼だけなんですから。唯―の救いは、「悪」が教師である点です。これが同じ生徒であったら話に救いようがありません。ここでは、あくまで生徒は「悪」に対して「善」の位置にあります。
 読み終えても、これで果たして終わったのかと恐ろしさを感じてさせてしまうほどの強烈な蓮実のキャラクターでした。
 それにしても蓮実だけでなく他の教師も凄すぎます。女生徒へのセクハラなど当たり前の体育教師、生徒とセックスする養護教諭等々この学校にはまともな教師がいるのかと思うような顔ぷれでした。特に釣井のキャラは異様過ぎます。

※蓮実の好きな「モリタート」のジャズCDを引っ張り出してきて聞きました。この曲って、そんな劇の劇中曲だったとは知りませんでした。
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雀蜂 角川ホラー文庫
 11月下旬の八ヶ岳山麓。別荘で安斎が目覚めると、一緒にいた妻は姿を消しており、外は吹雪という季節にもかかわらず、部屋の中ではスズメバチが飛んでいた。安斎は昔、蜂に刺されたことがあり、今度刺されると、アナフィラスキー・ショックにより死に至る可能性があると医者から言われていた。果たして、彼はスズメバチから逃れることができるのか、そして誰が彼を殺そうとしているのか・・・。
 文庫書き下ろし作品です。240ページ弱の作品なので、余計な部分がなくあっという間に読了です。とにかく、内容はいかに彼がスズメバチからの攻撃を避けるのかということに費やされます。
 夏から秋にかけて、ハイキングしていた人がスズメバチに襲われたというニュースはよく聞きますし、家の軒下や屋根裏に作られた大きな巣を駆除する様子もテレビで放映されます。部屋に普通の蜂が1匹紛れ込んできただけでもパニックなのに、次々と襲いかかってくるスズメバチは見ていても恐怖です。そうした恐怖、特に今度刺されたら死に至る状況にある主人公の恐怖はよく描かれているのですが、ただそれだけで、残念ながら「悪の教典」を読んだときのような衝撃はありませんでした。ラストの“どんでん返じについても、衝撃度という点からはいまひとつ。期待が大きかっただけにちょっと残念。
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