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桐野夏生の本棚

  1. 柔らかな頬
  2. 残虐記
  3. 夜の谷を行く

柔らかな頬 講談社
 「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞を受賞した著者の直木賞受賞作。不倫をしている最中幼い娘が失踪。罪の意識にさいなまれながら娘の行方を追う母親。果たして娘は生きているのか。死んでいるのか。終わり方が賛否両論あったようだが、僕としても消化不良であった。
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残虐記 新潮社
 エドガー賞にノミネートされた桐野さんの最新作です。
 僕としてはこういう作品は苦手です。途中で一度読むのを中断して数日放っておいたくらいです。話はどうしても実際に起きた新潟の少女監禁事件を思い起こさせます。桐野さんが何を描こうとしたのかを理解する以前に、娘を持つ父親としては、どうしても読んでいて嫌悪を感じるストーリーと言わざるを得ませんでした。少女と誘拐犯の青年との関係もあんなになるわけがないと思いますし、いくら女の子というのは男の子より大人といっても、あの年齢で二人の関係を冷静に分析し、コントロールできるわけがないと僕は思ってしまうのですが・・・。
 後半、彼女が助けを求めたのに助けられなかった理由がわかったときは、さらに本を投げ出したくなりました。読んだことが辛い作品でした。
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夜の谷を行く  文藝春秋 
 先頃、1971年に起こった渋谷暴動事件で警察官に火炎瓶を投げつけて殺害したとして指名手配されていた中核派の容疑者が逮捕されました。50年近く仲間に匿われながら逃げていたのですが、半世紀前の学生運動が激しかった頃のことなど知らない人も多く「いったい何のこと?」と思った人も多かったのでは。
 この作品は、同じ頃に起こった連合赤軍事件の当事者てあった女性を主人公にしています。僕らにとっては仲間をリンチで殺してしまうという衝撃的な事件でしたが、あの当時のことを知らない人にとっては、なかなか手に取りにくい本かもしれません。
 主人公の西田啓子は63歳。連合赤軍事件の際、啓子はメンバーとして山岳ベースでのリンチ殺人事件に加わったが、山岳ベースから脱走、逮捕されて5年の懲役を受けて服役。出所後は教師としての経験を活かして学習塾で生計を立てていたが、塾生の減少により塾をたたみ、今はカルチャーセンターに通いながらひっそりとひとりで生きていた。そんな啓子だったが、フリーライターからの接触や連合赤軍最高幹部の永田洋子の死、更にはかつて同士であり夫であった男との再会により、過去と向き合うこととなる・・・。
 階級社会を批判していた彼らが連合赤軍という組織の中でヒエラルキーを作り、幹部と末端のメンバーとの間に格差を設けているという矛盾に、おかしいと思わない彼らのことを理解することはできません。女であることを鼻にかけているとか、革命戦士としての自覚がないとかという理由でリンチを加えるなんて、まるで子どもと同じです。どうして、あれだけ高学歴の男女がそういう行動に走ってしまったのでしょうか。当時、まだ中学生だった僕らにも強烈に記憶に残った“総括”という名の残忍なリンチ。何を言おうと、仲間をリンチし、それを“総括”と称して正当化することは許されるものではありません。
 物語の中でも啓子の生き方は姪の佳絵に理解されませんが、僕自身もいまだに自分を正当化しているような啓子に対しては、彼女が目の前にいれば佳絵同様批判してしまうかもしれません。社会をよくしようと思ったはずの彼らがなぜ内輪の殺し合いを始めたのか、この本を読んでも全く理解できませんでした。
 警察に追われた連合赤軍の残党は、あさま山荘事件を起こすわけですが、逮捕された中の1人は、日本赤軍によるクアランプール事件によって超法規的に釈放されていまだに国際指名手配になったままですし、彼が逮捕されない限りは連合赤軍事件は終わったとはいえないのでしょう。 
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