春のほとりで ☆ | 講談社 |
初めて読む君嶋作品です。 高校生の頃といえば、いわゆる青春時代の真っ感りのとき。この作品は、そんな青春時代の高校生を描いた5編が収録されています。私自身は高校時代、クラブは文化系クラブに籍を置いたもののいわゆる幽霊部員で、実際は帰宅部でした。そんな大きな出来事もなく、受験勉強をしていたなというくらいの高校生活の印象ですが、それでも、ほんのちょっとしたたわいもない記憶がいくつも残っています。ああ懐かしいなあと温かい気持ちで振り返ることができるのは、やはり青春時代だからでしょうか。 同性の同級生の野球部の秋津悠馬が好きな佐倉。部活が終わり秋津と一緒に帰るために放課後教室に残っている佐倉だったが、そこに秋津が好きだという新藤梓が現れ、話をするようになるが・・・(「走れ茜色」)。 小学生の頃、太っていたことをからかわれ、切れて相手に暴力をふるい転校したことがあった南波和香は、今では痩せてかわいいと思われるまでになったが、高校になって再会した当時を知る大房雀子に過去のことを暴露されるのを恐れて、彼女が昼ご飯を一緒に食べようという誘いを断れないでいたが・・・(「樫と黄金桃」)。 太って勉強もスポーツも今一つの長見月斗は見た目が老けて見えるため、名前をもじってクラスメートの安東らからおっさんと呼ばれ、毎日購買に昼食を買いに行かされ、更に不良とされる小村からは高校生に見えないからとタバコを買いに行かされる毎日を送っていたが・・・(「灰が灰に」)。 常にクラスの中心にいないと気が済まない椎名赤彦は、友人の早見のSNSが評判を呼んでクラスメートから注目されるのに嫉妬し、どうにか彼を貶めようと画策するが・・・(「レッドシンドローム」)。 漫画家になりたいと願う舞沢雛は、出版社の賞に応募していたが、なかなか結果が出ないでいた。ある日、雛が図書館に忘れたネームの描かれたノートを見たクラスメートの遠野華乃子は自分も漫画を描いていると言い、見せられた絵の技量に雛は圧倒される。やがて、遠野と漫画を見せ合うことが雛の楽しみとなるが・・。(「真自のまぼろし」)。 鹿島絢子と三宅睦月は放課後、教室で話をすることを楽しんでいた.そんな二人の姿を見たクラスメートによって、二人は付き合っているという噂が立ち、二人の関係はぎくしゃくしてしまう。そんな時、学園祭の好きな人に告白するという催し物に三宅は出場させられることになる・・・(「青とは限らない」)。 担任の名前が冬木先生ということで、この作品が同じ学校を舞台にして描かれている連作だということがわかります。そして、作者の君嶋さんはこの物語に単なる青春物語だけではない(あるいは青春物語らしいと言った方がいいかもしれません)、ある仕掛けをしており、最後に明らかになったときは、そういうことだったんだぁ、やられたなぁと脱帽です。 |
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