探偵は教室にいない ☆ | 東京創元社 |
第28回鮎川哲也賞受賞作です。4編が収録された連作短編集となっています。ジャンルでいえば、中学校を舞台にした“青春ミステリ”であり、“日常の謎”ミステリに属する作品です。 中学校のバスケ部に所属する海砂真史、栗山英奈、田口総士、岩瀬京介の4人に関わる謎を、真史の幼馴染である引き籠りの中学生・鳥飼歩が解き明かしていくとパターンになっています。この歩ですが、引き籠りといっても、学校でいじめにあったからではなく、「中学校レベルの学問をわざわざ教師から教わる必要なんてないし、同級生との生活で得るものもないから」と言って、積極的に登校を止めているという、ちょっとした変わり者です。好きな甘いものを食べるためにはどこへでも出かけていくのですから、いわゆる“引き籠り”という言葉でくくるには相応しくないかもしれません。そんな歩が真史の持ち込む謎を嫌々ながら解き明かしていきます。 描かれる“謎”は、冒頭の、差出人の名前が書かれていない海砂真史へのラブレターの差出人は誰か(「Love letter from・・・」)から始まって、合唱コンクールのクラス練習に端を発した岩瀬京介の発した言葉の意味は何か(「ピアニストは蚊帳の外」)、田口総士が交際している女の子とのデートをキャンセルしたり、他の子と相合傘をしたりするなど不審な行動をしているのはなぜか(「バースデイ」)、父親と喧嘩をして家出をした真史が帰れなくなったと電話してきた場所はどこか(「家出少女」)といったもので、どのストーリーも、「ああ、青春だなあ」と思うようなものばかりです。これが、この作品の大きな魅力かもしれません。 そして、魅力といえば、「Love letter from・・・」と「ピアニストは蚊帳の外」のラストの1行。この1行があって、それまでのストーリーがより生きてくるという感じです。 普通の中学生が考え、悩み、行動する姿を描いた、ちょっと素敵な青春ミステリです。真史ら普通の中学生として青春を生きる4人とは異なり歩のキャラだけが特異というのもスパイスが効いていていいです。昨年度の鮎川哲也賞を受賞し、大きな話題を呼んだ「屍人荘の殺人」と比較すれば地味な印象を受けてしまいますが、こうしたストレートな青春ミステリも個人的には大好きです。 |
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探偵は友人ではない | 東京創元社 |
「探偵は教室にいない」の続編です。今回も海砂真史が自分に解けない謎を、幼馴染であり、中学校に通う理由がないと家にいるお菓子好きの鳥飼歩に聞きに行くという基本的パターンは同じです。ただ、前作に比べて、真史と歩の関係性が一歩進みそうだなという印象を持つことができる連作短編集となっています。 冒頭の「ロール・プレイ」は、真史が持ち込んだ謎の解明ではなく、歩が小学生のころ唯一話をしていた同じ塾に通う鹿取との関係が壊れた理由を歩が語るという話になっています。それが二人が通っていた塾で当時講師をしていて、今は真史の学校で臨時教員をしている女性の行動を明らかにすることに繋がります。 続く「正解にはほど遠い」は、鹿取の妹であり真史を慕う下級生・彩香の親が営む洋菓子店が主催する暗号クイズを歩が解き明かすという話ですが、クイズを解き明かす裏に彩香のある思惑が込められているという話、「作者不詳」は、美術教師の不可解な行動と美術教室での奇妙な出来事の謎を歩が解き明かす話となっています。 ラストの「for you」では喫茶店で2時で止まっていた時計がいつの間にか12時で止まっている謎を歩が解く話ですが、話の中心はこの謎解きではありません。「わたしたちもっと、友達らしい理由で会うことがあってもいいじゃない」とふと思った真史と、ある嘘をついた歩により、二人の関係性が変わっていくのかが今後のお楽しみというところでしょうか。 |
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