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川瀬七緖の本棚

  1. 女學生奇譚
  2. 四日間家族

女學生奇譚  徳間書店 
 フリーライターの八坂駿が、オカルト雑誌の編集長・火野から依頼されたのは、竹里あやめという女が持ち込んできた「この本を読んではいけない・・・」から始まる警告文が挟まっていた古書について探って欲しいというもの。その古書の本来の持主であるあやめの兄は失踪して、現在も行方不明となっていた・・・。
 発行が昭和3年という奥付があるその本は、ひとりの女性・佐也子の独白によって語られていきます。女學生だった佐也子が、どういう経緯か、ある屋敷に拉致されて閉じ込められている中で書かれたものという設定です。拉致されたのは彼女だけではなく、何人もの女學生がいて、彼女たちがひとりまたひとりと座敷牢を出て行ったまま戻ってこないという目常が描かれます。やがて、ハ坂は調査の中で書かれていることが戦前に現実に起こった女學生失踪事件について書かれているものではないかと気づきます。
 川瀬七緒さんの作品を読むのは初めてです。「よろずのことに気をつけよ」で第57回江戸川乱歩賞を受賞しており、現在は法医昆虫学捜査官シリーズという作品が人気のようですが、本作品はノンシリーズ作品です。
 オカルトの様相を見せる警告文から、果たしてストーリーはそのままオカルト系へと向かうのか、はたまたミステリに変わっていくのか、気になって読み始めました。なかなか先の見えない展開にぐいぐい引き込まれていったのは川瀬さんのリーダヴィリティのなせるところでしょうか。飽きさせません。ところが、あと少しで謎が明らかになると思ったら、このラストはいったい何なんでしょう。川瀬さんは、続編を書くつもりなのでしょうか。これで終わりとしたら、いっきに梯子を外されてしまったとしかいいようかおりません。消化不良です。ラスト直前まではオススメだったのですが・・・。
 主人公の八坂という男が特異なキャラです。ウルバッハ・ビーテ病という染色体異常の病気で“怖れ”を感じることができない人間です。そんな男でありながら料理をすることが大好きという面も持っているというある意味理解不能な男です。彼の周りの登場人物も180センチの長身で男勝りのカメラマン篠宮や、火野のかつての相棒で“独眼竜”という渾名を持つ臼井、民間の鑑定機関に勤める異常なほどの潔癖症の相原といった具合に、普通ではない人ばかり。そんなところも、この作品がホラーなのか、ミステリなのかはっきりさせない隠れ蓑にもなりましたね。 
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四日間家族  ☆ 角川書店 
 ネットで集団自殺を呼び掛け集まった4人の男女。鉄工所を経営していたがコロナ禍の不況で計画倒産した60歳の長谷部康夫、経営していたスナックをコロナ禍の中で内緒で営業し、クラスターで6人の老人を死なせた73歳の寺内千代子、16歳の高校生の丹波陸斗、そして、語り手である28歳の坂崎夏美の4人。4人は練炭自殺を図ろうと車で山の中に入ったが、そこに1台の車がやってきて降りた女性が森の中に入リ、リュックサックを置いて立ち去るのを見る。赤ん坊の泣き声がするのを聞いた4人は森の中に入り、そこでリュックサックの中に入った赤ん坊を見つける。再び女性が戻ってきた様子から、赤ん坊が殺されると思い赤ん坊を連れて逃げた4人だったが、ネットでは4人が赤ん坊をさらって逃げたという話が拡散されていた・・・。
 赤ん坊はなぜ殺されそうになったのか。赤ん坊を捨てた女たちは何者なのか。物語は4人の逃走の4日間を描きます。
4人の年代も自殺の理由も異なる男女が、一人の赤ん坊の命を守るために自殺を思い止まり、協力して逃走します。ネット民によって追い詰められる中、陸斗や夏美の機転で危機を脱しながらの逃避行がちょっと感動です。
 4人を引っ張る夏美の人を手のひらで転がす話術は凄いです。ただ、夏美が口だけで多くの人を手玉にとってきたという過去が語られますが、なぜ彼女はそういう人生を送ることになったのかの背景や、また、彼女を追うヤクザの村で彼女が何をしたのかもはっきりとは描かれず、そこは中途半端な感じがして残念です。
 そんな夏美に加え、陸斗がボーイスカウトの最高章である富士章の持ち主であるほどの頭脳と技能を有していることで、彼らの逃走劇が違和感を覚えさせません。
 最初は自分勝手な中年男と老女だと思っていた長谷部と千代子も本当にいいキャラになってきて、4人の関係が最高です。
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