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加藤実秋の本棚

  1. インディゴの夜
  2. インディゴの夜 チョコレートビースト
  3. モップガール
  4. インディゴの夜 ホワイトクロウ
  5. ヨコハマB−side
  6. インディゴの夜 Dカラーバケーション
  7. 風が吹けば

インディゴの夜 東京創元社
 第10回創元推理短編賞を受賞した「インディゴの夜」を含む4編からなる短編集です。
 健康実用書のゴーストライターをしている高原晶が、大手出版社の編集者・塩谷に漏らした「クラブみたいなハコで、DJやダンサーみたいな男の子が接客してくれるホストクラブがあればいいのに」という思いつきの一言から二人で始めたホストクラブ「インディゴ」。このホストクラブ「インディゴ」を巡って起きる事件に晶や塩谷、そしてホストたちがストリートを駆け抜けます。
 この作品の魅力といったら、何といっても個性豊かな登場人物たちでしょう。まずは何と言ってもオーナーの片割れ高原晶です。その気っぷの良さには、僕自身もつい惹かれてしまいます。こういう気の強い女性好きなんですよね。そして、彼女をからかいながらも裏で支える塩谷、さらには年齢不詳、本名さえ知らない謎の人物であるマネージャーの憂夜をはじめ、アフロ頭のジョン太、キックボクサーでハーフのアレックス、犬というより小猿というルックスの犬マン、DJの経験も興味も皆無だというDJ本気等のふざけた源氏名のホストたち。とにかく個性豊かというより強烈な彼等が仲間のために事件解決に向けて突っ走ります。そうそう忘れてはいけません。この人もいました。彼等が飲みに行く中華ダイニングバーの経営者、ニューハーフのなぎさママです。彼女(?)の思わぬ特技には脱帽です。
 池袋のストリートを描くのは石田衣良ですが、渋谷のストリートを描くのは加藤実秋となれるのか、今後のシリーズ化を期待したい作品です。最後まで明かされなかった憂夜の正体も知りたいし、ぜひお願いしたいですね。
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インディゴの夜 チョコレートビースト 東京創元社
 ホスト探偵団シリーズ第2弾、表題作を始めとする4編からなる連作短編集です。
 第1作の「インディゴの夜」の感想に、池袋のストリートを描くのは石田衣良、渋谷のストリートを描くのは加藤実秋となれるのかと書いたとおり、作品の雰囲気は石田さんのI・W・G・Pシリーズに通じるものがあります。第1作はそんな比較をしながら非常におもしろく読むことができました。
 しかしながら、今作は第1作に比べるとインパクトが弱かった気がします。この作品の魅力は、語り手である無鉄砲なまでの気の強い高原晶を助けてストリートを駆け抜けるホストたちの、強烈なまでの個性にあると思うのですが、今回はそれがあまり描かれていませんでした(第1作は初めてなので、登場するだけで印象的だったのですが、今回はすでに知っているだけに作者としては読者に前回より強い印象を与えるのは難しかったのかもしれません。)。ただ、このままでは、単にI・W・G・Pの二番煎じに過ぎないとの評価を得るだけか、今注目を浴びているホストという職業を題材にしたその時だけの作品に終わってしまいそうです。
 そんな中でも、心臓に病気があるというキャラクターに頼った部分はありますが、今回印象的だったのは、最後の「真夜中のダーリン」に初めて登場する吉田吉男でしょうか。また、インディゴのマネージャーである憂也は相変わらず秘密めいた雰囲気であり、今後彼の正体がどのように明かされるのかが、シリーズの一つの楽しみになったといえるでしょう。それともう一人、忘れてならないのは、50過ぎのニューハーフのなぎさママです。ホント、その強烈な出で立ちが目に浮かびます。
 ミステリ的には、1番目の「返報者」にしても2番目の「マイノリティ/マジョリティ」にしても、先が読めてしまってちょっと弱いかなという感じがありました。シリーズ次回作に期待です。
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モップガール 小学館
 ホストの活躍を描いた「インディゴの夜」シリーズの加藤実秋さんが映像化用原作として執筆した作品です。
 主人公は職を求めて、掃除会社に就職した長谷川桃子。この掃除会社、わけあり物件も清掃するということで、殺人現場や自殺現場の清掃も行うという会社だった。そんな事件・事故現場を清掃しているときに桃子に不思議な症状(見たこともない映像が頭に浮かぶとか、何を食べても「赤いきつね」の味がするとか、同じ匂いがするとか、暑い季節なのに寒さを感じてしまうとか)が表れてしまい、それがどうも掃除をした事件の現場に残された被害者の思いのせいらしい。症状を回復するためには事件を解決しなければならないというわけで、桃子や同僚たちが奮闘するというストーリーです。
 テレビ化の話を知っていた娘が、この話はアメリカのテレビドラマ「トゥルーコーリング」のパクリだよと言っていたので、ネットで検索してみました。「トゥルーコーリング」は、「主人公の女性が大学卒業後、病院で研修をするはずがモルグ(=死体安置所)で働くことになり、死体の呼び声によって時間を遡り、一日をやり直す能力が開花。助けを求めた人の死を防ぐことが自分の役目と信じて奮闘する」というもの。あれ?これじゃあ、「モップガール」とはちょっと違うなあと思って、番組のホームページを見てみると、ストーリー紹介には「遺体に出会うと時間をさかのぼる「タイムリープ」という能力を身につけた桃子が、思いを残した死者を救っていく。」というもの。あれれ、これではパクリと言われても仕方がないですね。テレビは加藤さんの原作をかなり脚色しているようです。
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インディゴの夜 ホワイトクロウ 東京創元社
 インディゴの夜シリーズ第3弾、表題作ほか3篇からなる連作集です。
 今回、クラブ・インディゴは改装中、仮店舗での営業をしています。そんな中で、ジョン太、アレックス、犬マンが巻き込まれた事件と、ラストの表題作は店舗の改装に関わる事件が描かれます。
 ミステリ色は前回よりもさらに薄まって、表題作を除けばジョン太らがプライベートで関わった事件ということもあってか、渋谷の街を駆け回るホストたちの個人的な人間ドラマが中心のストーリーとなっています。このシリーズの特徴は、個性豊かなホストたちが渋谷という眠らない街で起こった事件を解決するところにあるのですが、今回はどうもストーリーに惹かれるところがありません。ホストたちのキャラがあまり生かし切れていない気もします。単に風貌が個性的なだけでは魅力は長続きしません。
 オーナーの一人高原晶が動き回るのもラストの「ホワイトクロウ」だけですし、また正体が謎めいているマネージャーの憂也も今回は表立った活躍を見せません。ファンとしては残念なところです。マンネリにならずにぜひ石田さんのIWGPシリーズに対抗できるようなシリーズにしてもらいたいですね。次回に期待です。
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ヨコハマB−side 光文社
  「インディゴの夜」シリーズで銀座の街を駆けるホストたちの活躍を描いた加藤さんが、今度は横浜の街を舞台に若者たちの生きる姿を描きます。
 横浜駅西ロビブレ前広場にはさまざまな男女が集まってきます。ティッシュ配り、屋台のハンバーガー屋、見習い美容師、カラオケボックスの店員、女性のお笑い二人組等それぞれ誰もが横浜という街の中で一生懸命に生きています。そんな彼らに起こつた出来事を描いていく連作短編集です。
 ティッシュ配りは結婚相談所で紹介され交際していた女性と連絡が取れなくなり、必死に行方を捜す男を助け、屋台のハンバーガー屋は同居していた女性に家出され、ハンバーガーのタレのレシピが作れなくて右往左往し、見習い美容師はカットのモデルになってくれた美しい女性のある行動を止めようとし、カラオケボックスの店員はカラオケボックスに一人で来て歌も歌わず時間を過ごす女子高校生の行動を気にし、お笑い二人組は連続暴行犯の被害者としてやらせ番組に登場し等々ビブレ前広場で生きる彼らが様々な事件に巻き込まれていきます。
 一つ一つの話は完結しますが、それぞれの話の中でビブレ前広場の周辺で起きる連続暴行事件の話を挿入し、ラストでパニッシャーと呼ばれるようになった暴行犯のエピソードで終了です。単に暴行犯を捕まえる話ではないところがミソ。
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インディゴの夜 Dカラーバケーション 東京創元社
 クラブ・インディゴのホストたちが渋谷の街を駆け巡って事件を解決するシリーズも、これで第4作になりました。今回も4編からなる連作短編集です。
 風営法の改正により、新たな営業形態として、今までのホストは夜の1部に、昼の2部には新しいホストが入ったことにより、1部と2部のホストたちとの間に溝が生まれる中で新たな事件が起きます。
 今回は、DJ本気、ジョン太、アレックス、犬マンたちお馴染みのホストたちのキャラはあまり目立ちません。それより脇役のなぎさママや、表題作の「Dカラーバケーション」に登場する野本や志津香、空也の方が印象的です。
 表題作は、謎めいたマネージャーの憂也の過去の一端が明らかとなる、シリーズ・ファンとしては気になる作品となっています。上述したように、個性的なキャラが大勢登場し、おもしろく読ませる一作となっています。ただ、4編の中で一つを選ぶとすれば、僕としては、捜査情報を漏らした疑いがかけられた渋谷警察署の豆柴の無実をホストたちが明らかにしようとする「一剋」が一番です。豆柴の刑事としての、いや男としての矜持がかっこいいですよ。
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風が吹けば 文藝春秋
 1984年の時代にタイムスリップした高校生の矢部健太。父親の紹介でカメラマンのアシスタントのバイトを始めた健太。撮影場所を探して入ったビルの窓から転落したことがきっかけで1984年の時代にタイムスリップしてしまう。タイムトラベルもので、その上青春ものとなれば大好きなジャンル。これは読まないわけにはいかないと思って、読み始めたのですが・・・。
 現在での友人たちの若き頃に出会い、つっぱりメンバーたちとの交流の中で主人公が自分の生き方を考え、成長していく姿を描いた作品ですが、パターンとしてはよくある話で、内容もただそれだけ。これといって惹きつけるものがありません。ささっと読むことはできるのですが、評価としては、いまひとつというのが正直な感想です。
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