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加納朋子の本棚

  1. ななつのこ
  2. 魔法飛行
  3. 掌の中の小鳥
  4. ささらさや
  5. 螺旋階段のアリス
  6. レインレインボウ
  7. スペース
  8. てるてるあした
  9. モノレールねこ
  10. 七人の敵がいる
  11. はるひのの、はる
  12. トオリヌケ キンシ
  13. 我ら荒野の七重奏
  14. カーテンコール!
  15. いつかの岸辺に跳ねていく
  16. 二百十番館にようこそ

ななつのこ  ☆ 東京創元社
 北村薫の私と円紫さんシリーズと同じ日常の謎路線の作品。女子大生駒子が気づく日常の謎を思わず気に入って買った本の作者へのファンレターに書いたところ、作者から「解決編」が送られてくる。こうして、駒子と作家佐伯との手紙のやり取りが始まるが・・・。僕としては駒子より「私」の方がファンである。加納さんごめんなさい。
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魔法飛行  ☆ 東京創元社
 加納朋子さんのデビュー作「ななつのこ」に続く、駒子シリーズ第2作です。今回、駒子は前作で知り合った瀬尾さんに手紙を書きます。手紙には、いくつもの名前を持った女の子の謎、道路の高架の柱に書かれた子どもの絵が一夜にして骸骨の絵に変わった謎、学園祭で知り合ったテレパシー能力を持つ双子の謎が語られていますが、それぞれ一応瀬尾さんの手紙により謎は解決します。しかし、各話と話の間に意味不明の手紙が挿入されます。果たしてこの手紙は誰が、何のために駒子にあてて出したのか・・・。それぞれの話に伏線が張られていて、手紙の主は誰なのかという最終話に突入していきます。(それにしても魔法飛行に登場するはきはきしている野枝さんはとっても可愛い女の子ですね。)
 このシリーズは北村薫さんの「私」と円紫さんシリーズと比較されますが、円紫さんは既婚者、瀬尾さんは独身男性ということで、それぞれ主人公の探偵役の男性に対する気持ちが異なるように思います。駒子の瀬尾さんに対する恋心はこれからどうなっていくのでしょうか。
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掌の中の小鳥  ☆ 東京創元社
 冬城圭介と穂村紗英の二人を主人公とする、表題作を始めとする5編からなる連作短編集です。二人の間柄がとってもいい感じです。性格がはっきりしていて、ちょっと勝ち気な紗英は、男性からみると、「なんだこんな女」と思われがちですが、僕としては、こうした、はっきりものを言う女性は大好きです(^^) カクテル・バーでそんな彼女とミステリな話をするのに憧れてしまいます。
 春には桜の枝が頭上を飾り、秋にはススキの穂が揺れるという、とても素敵な雰囲気のカクテル・バー「エッグ・スタンド」で二人が語る、いわゆる"日常の謎"を圭介や魅力的な女性のバーテンダー泉さん、常連客の老人も話に加わって解き明かしていきます。最後の話でそれまで見事に謎を解き明かしてきた圭介が、謎を解けなかったのはどうしてか・・・。お薦めの作品です。
作中で圭介が言います。「きっかけというのはね、つまらない偶然プラス、ちょっとした作為だってことさ。」この話のような、しゃれた"ちょっとした作為"というやつをしてみたいですね。
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ささらさや  ☆ 幻冬舎
 妻と生まれたばかりの息子を残して交通事故で死んだ・・・はずの俺。ところが、ゴーストとなって、妻子を見守り、不思議な事件が起きるたびに他人の姿を借りて現れる。ゴーストとなった夫と、その妻さやと息子を取り巻く8つの謎を描いた連作短編集。
 作者がデミ・ムーア主演の映画「ゴースト ニューヨークの幻」を念頭において書いたという作品である。謎はともかく、底辺に流れる話はお決まりのパターンであるが、やっぱりせつなく悲しい。夫とさやとの永遠の別れまでを迎えるまでの日々が描かれているはずだが、どうも続編があるらしい。こういう結末を書いてしまって、どういう形で続きの話が始まるのか、それも興味深い。
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螺旋階段のアリス  ☆ 文藝春秋
 会社のリストラ制度に乗ってサラリーマンから念願の探偵業を開いた男仁木が主人公の7編からなる短編集。探偵業を始めたが、一向に現れぬ依頼者に暇を持て余していた主人公の事務所のドアを開いたのは真っ白い猫を抱いた、まるで不思議の国のアリスの世界から抜け出してきたような一人の美少女だった。
 加納さんの作品らしくいわゆる「日常の謎」の作品。お決まりと言うべきか、探偵としての才能を発揮するのは主人公ではなく"アリス"の方である。
 しかし、いくら1年間の給料が保証されるからといっても、いくら探偵をすることが夢だったといっても再出発に探偵をやろうとするかなあ?奥さんも理解あるよなあ、やっぱり奥さんも仕事持っているからだよなあ、と心でけちをつけながらも話には引き込まれてしまった。
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レインレインボウ  ☆ 集英社
 高校時代ソフトボール部だった女性7人が同じソフトボール部だった一人の女性の突然の死に集まります。そこに来なかったのは死んだ女性と一番仲が良かったと思われていた女性・・・。
高校卒業後、それぞれの道を歩む7人の女性の人生が描かれます。それに交錯する死んだ女性の人生。7人の女性を主人公に7編からなる連作短編集です。最後にはミステリとしての着地も見せてくれます。
 それぞれ性格の違う7人の女性の生き方をおもしろく読みました。「ひよこ色の天使」の佳寿美や「青い空と小鳥」の陶子を始めとしてみんな魅力的な女性ですが、僕としては人前では毅然としているけれど、深夜に給水塔の影で泣く「緑の森の夜鳴き鳥」の緑に魅力を感じてしまいます。話としては「雨上がりの藍の色」がなかでもおもしろかったでしょうか。
 蛇足ですが、7人の女性の一人として登場しているソフトボール部のキャプテン片桐陶子は「月曜日の水玉模様」の主人公です。書評で指摘されているのを読むまで全く気づきませんでした。さっそく本棚の奥から引っ張り出してみると、確かにそうでした。最後のページに読了した年月日を書いているのですが、それによると読み終えたのは平成10年11月です。5年も経つとすっかり記憶から抜け落ちてしまうのですねえ。歳をとった証拠なのでしょうか。おそろしい。
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スペース 東京創元社
 駒子シリーズ第3弾です。「スペース」と「バックスペース」の2編からなります。
 前作の「魔法飛行」の刊行から10年以上がたちました。「瀬尾さんはつい最近までニュージーランドに行っていた」と書かれても、読むこちらの時間では10年たっているのだから、なんだか変な感じです。
 今回の作品も、謎はやはり「手紙」です。「スペース」では、駒子から託された手紙の謎を今回も瀬尾さんは鮮やかに解き明かします。謎を秘めた手紙を瀬尾さんに託す駒子の気持ちがせつないです。「バックスペース」は「スペース」を裏側から書いたといっていい作品です。ミステリというよりは、女の子の自分探しの話であり、恋の話です。こんな偶然あるわけないよなあと思いますが、でもそれはともかくとして、とても心温まる作品となっています。そして、最後に思わぬことが明らかになります。
 ファンとして気になるのは駒子と瀬尾さんの関係です。シリーズを重ねていくうちに、しだいに二人の距離は近くなってきたのですが、今後どうなっていくのでしょうか。作者によると、シリーズは4部作ということなので、次作での二人の関係の結末(?)が楽しみです。
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てるてるあした  ☆ 幻冬舎
 あの「ささらさや」の続編が出るということは前から聞いていたのですが、「ささらさや」のラストから考えると、果たして続編が書くことができるのか危惧しながらも、加納さんがどんな続編を作るのか楽しみにしていました。
 今回の主人公は、サヤではなく、照代という名の少女です。彼女は、経済観念の全くない親が借金を抱えて夜逃げするに際し、遠い親戚を頼りなさいと言われて、一人で前作にも登場した元教師の久代の元にやってきます。
 そんな彼女に関わってくる人物として、サヤとその子ユウスケ、エリカとダイヤ、夏、珠子と前作のメンバーが勢揃いします。
 無責任な親のためにせっかく合格した高校にも進めず、知り合いのいない佐々良にやってきた照代は、誰に対してもとげとげしい態度を取ってしまいます。周囲の人からすれば、本当に嫌な女の子です。しかし、まあ無理もありませんねえ。15歳で世間に一人で投げ出されてしまったのですから。それも理由が自分を守ってくれるはずの母親と父親のいい加減さによるものとなれば、他人に対して突っ張ってしまうのも本人だけの責任ではないのでしょう。
 物語は、そんな照代が、サヤたち周りの人たちとの関わりの中で自立し、成長していく姿を描いていきます。そして、その過程の中で起こる不思議な出来事が、物語にファンタスティックな味付けを施します。
 前作のラストでは思わず涙が浮かんできてしまいましたが、今回も本当に心温まるストーリーとなりました。ぜひ、加納さんには、この「佐々良」を舞台の物語をシリーズ化していただきたいものです。
 表紙のイラストも素敵です。セーラー服の後ろ姿は照代でしょう。そんな照代に両手を差し出しているのはユウスケなんでしょうね。
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モノレールねこ  ☆ 文藝春秋
 8編からなる短編集です。今回は連作ではなく、様々な媒体に発表した作品をまとめたものです。文藝春秋のホームページでは、「家族の絆」がテーマとありましたが、表題作の「モノレールねこ」と「ちょうちょう」を除けばそういうことになるでしょうか。
 短編集だから時間つぶしに読めるところまでと思って、読み始めたのですが、ひとつ読むとまた次も読みたくなって、結局いっきに読破してしまいました。本当にどれもハート・ウォーミングな、そしてちょっと泣けてしまう作品ばかりでした。
 表題作の“モノレールねこ”とは、太っているため、塀の上に座って、両脇から垂れた脂肪でがっちり塀を掴んでいる姿が、「モノレール」そのものであるところからのネーミング。加納さんがこのネーミングを考えたのなら、そのセンスには拍手したいですね(どうなんでしょう?)。ストーリーは、そんなデブ猫の首輪に挟んだ手紙でやりとりをする少年とタカキとの話。ラストは予想できましたが、ほんわかした僕好みの話でした。
 娘を亡くした女性が毎年同じ日にホテルの一室で亡き娘との再会をする「セイムタイム・ネクストイヤー」。この短篇集の中では一番ミステリ的な作品です。その謎が明らかになったときには人々の優しさを感じさせてくれる作品でした。いいですねぇ、こういう物語。同じように「マイ・フーリッシュ・アンクル」と「シンデレラのお城」も、大切な人を失う話。そんな辛さを家族の誰かが癒してくれる話です。
 「ポトスの樹」は、加納さんとしては珍しく“俺”という一人称で書かれた作品です。こんな父親が実際にいたら本当にむかつきますが、それを魅力的な人間に描いてしまうところが加納さんならではでしょうか。あまり登場しませんが、“俺”の奥さんがとても魅力的です。(でも、子供のためには死んだりはしないでしょうが、やっぱり子供が川で溺れたら助けるでしょうね。) 
 バルタンと名付けられたザリガニが水槽の中から家族の姿を見守るちょっとコミカルな感じの「バルタン最期の日」。ラストには泣けてしまいましたね。
 思わず手に取ってみたくなるブサイクな猫が描かれたカバー絵。章扉イラストとともに菊池健さんの作品ですが、どの絵もとても魅力的です。
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七人の敵がいる  ☆ 集英社
 編集者という職を持っている働く女性、山田陽子が、自分の前に立ち塞がる「女」「義母義家族」「男」「夫」「我が子」「先生」「(PTA)会長」という"7人の敵"を相手に、PTA活動や自治会活動に奮闘する姿を描いていく作品です。
最近は子育ては母親だけではなく、父親も共に行うべきという考えが定着してきました。ところが、いまだに授業参観に来るのは圧倒的にお母さんの方が多いし、父親の育児休暇も、取るとなるとなかなか取れないというのが現実で、相変わらず子育ては母親に大きな負担がかかっています。
 そんな中で、PTA活動にしろ自治会活動にしろ、あまり積極的に関わりたくないと思うのは、仕事を持つ主婦だけでなく、専業主婦にしても同じ。この作品で書かれている役員選出の大騒動もどこかにありそうな話です。
 陽子の夫は、まったくPTA活動等には協力的ではありません。自分は仕事を休めないけど、妻ならどうにかなるだろうという、まったく相手のことを考えてあげない男。ホイホイと自治会長を引き受けてきながら、あとは妻にまかせるという、いいかっこしの男。男にも負けない性格の陽子がどうしてあんな男と結婚したのだろう、陽子の性格では間違って結婚しても離婚を考えるだろうし、話を面白くするためにこういう設定にしているのだったら、ちょっと、この本の読み方も変わるよなあと思っていたら、実は・・・(ネタばれになるのでここまで)ということでしたね。
 男にも負けず編集者としての仕事をきっちりこなし、そのうえ、「キツい感じの美人」と評される容姿では、専業主婦のお母さんたちからやっかみ半分で嫌われるのもやむを得ないところでしょうか。だいたい、陽子のように相手の逃げ道を塞いで、畳みかけるように話されては、弱肉強食の仕事ではいいですが、PTA活動では相手はたまりません。でも、そんな陽子がしだいに仲間を作って"敵"に対していく過程がおもしろくて、ページを繰る手が止まらずいっき読みです。
 幼い子供を持った働くお母さん必読です。
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はるひのの、はる  ☆ 幻冬舎
 「ささらさや」、「てるてるあした」に続く、東京から離れた町“佐々良”を舞台に描かれるファンタジー第3弾です。8年ぶりの続編、今回の主人公は、「ささらさや」の時には生まれたばかりだっだサヤの息子・ユウスケです。
 物語は、幽霊を見ることができる能力を持ったユウスケが5歳の頃、草摘みにサヤと行った河原で不思議な少女に出会うことから始まります。彼女は“はるひ”と名乗り、女の子を助ける手助けをしてほしいとユウスケに頼みます。ユウスケが成長していく中で、その後も何度がはるひはユウスケの前に現れ、そして消えていきます。“はるひ”は、いったい何者なのか。そして、いったい何をしようとしているのか・・・。
 終章で、はるひの正体、そして、はるひの行動の理由が明かされますが、“風が吹いたら桶屋が儲かる”みたいな理由で(作品中でもユウスケが言っていましたが)、それはどうかなあと正直のところ思ってしまいました。でも、“幽霊”に“あれ”(ネタバレになるので隠します)の話とくれば大好きなテーマですから、あっという間に読了。ただ、柔軟性のなくなってきた頭には、少しややこしい部分もあって、読み終わってから再度ページを戻って頭の中を整理することに。
 前作の登場人物も顔を出しますが、前作を読んでいなくても十分楽しめる作品になっています。
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トオリヌケ キンシ  ☆ 文藝春秋
 6編が収録された短編集です。どれもが、加納さんらしい温かな気持ちになって読み終えることができる話となっています。
 ある日、気まぐれに“トオリヌケキンシ”と書かれた札がある道とは思えないほどの狭い道に入った小学生の田村陽。道の先には偶然同じクラスの川本あずさの家があり、それがきっかけで、時々あずさと話をするようになる。高学年になってからあずさとは自然に疎遠になり、引っ越しをしてから一度も会ったことがなかったが、高校生になって引き籠もりとなった陽を訪ねてきたあずさの口から意外なことが語られる・・・(「トリヌケキンシ」)。知らない間に他人の助けになっていたとは。
 “共感覚”という特殊な感覚を持つ澤木。彼女に“共感覚”ということを教えてくれた生物の先生が飛行機事故で行方不明とという新聞記事を見た彼女は、そのときになって初めて自分が先生のことが好きだったということに気づく。その後、普通に結婚し、生まれた子どもと夫との3人で旅行に出かけたときに思わぬ事件に巻き込まれる・・・(「平穏で平凡で、幸運な人生」)。いやぁ〜そうだったのかぁと読者をホッとさせるラストです。
 子どもの頃、優しかった母親が突然変貌し、虐待されていたタクミ。そんな彼の支えになっていたタクヤという男の子がいたが、誰もその子のことは知らないと言う。子どもの頃のトラウマから大学生になっても義母に馴染めない中で、唯一の友人ともいうべき先輩が語ったところは・・・(「空蝉」)。これは、人間の記憶の不思議なところですね。
 人の顔が認識できない相貌失認という障害を持つ佐藤。高校生になって、そんな彼に告白をしてきた女の子がいたが、実はその子は・・・(「フーアー・ユー?」)。人の顔が区別できない、いったい、その人にとって他人の顔がどう見えているのだろうなんて、とても理解できるものではありません。
 老妻が亡くなり、一人暮らしになった老人に見える子どもの姿。彼は、座敷わらしがいるのかと亡き妻の知り合いの主婦に相談に行くが・・・(「座敷童と兎と亀と」)。座敷わらしの正体がこういうことだとは、それを見させる人間の身体のメカニズムも不思議なものですね。
 どの作品も主人公やその周囲の人が“共感覚”という特殊な感覚や“相貌失認”などの一般的にはあまりお馴染みでない障害を持っていたり、“引き籠もり”や“児童虐待”という、ちょっと普通とは違う状況にあったりします。しかし、それらの障害等とうまく折り合いをつけながら前を向いて生きていこうとする姿が描かれます。
 最後の「この出口の無い、閉ざされた部屋で」は、大病をした加納さんだからこそ書くことができた作品と言えるでしょうか。他の作品に比べ、ちょっと辛すぎる結末でした。
 どれも素敵な作品ですが、中では「フー・アー・ユー?」が好みです。主人公のいう「僕には人の顔はわからなくても、人を見る眼があるんだよ」はカッコいいセリフです。
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我ら荒野の七重奏  ☆  集英社 
 「七人の敵がいる」の主人公であった編集者の山田陽子さんが再登場。前作では様々な敵に立ち向かう陽子さんの活躍に拍手喝采でしたが、今回も相変わらずバイタリティ溢れる陽子さんの活躍(というかその暴れぶりに)大いに笑わせてもらいました。
 父親の上司の息子に憧れる陽子の一人息子の陽介は、彼がトランペットを見事に吹く姿を見て、彼と同じ中学を受験してトランペットを吹きたいと言い出し、中学受験をすることとなる。ところが・・・。
 今回、陽子が大暴れする舞台は息子がクラブ活動で入部した吹奏楽部の親の会。そこに君臨する女帝エガテリーナ(読むとわかりますが、ぴったりの命名ですよ)など手強き母親たちを相手に、息子のためにと“ミセス・ブルドーザー”の渾名どおり、前にある障害をなぎ倒していきます。教師からすれば、一人息子の陽介のことなら見境のなくなる陽子はモンスター.ペアレントそのもの。他のお母さんからすれば、背が高くて美人で目がつり上がった気の強そうな顔をしている上に、その外見どおりに気の強い陽子はできれば関わり合いになりたくない母親ですよね。
 陽子以外のキャラも愉快です。陽子の言うことを右に左にと聞き流しその奮闘ぶりをおもしろがる茶髪で美女の五十嵐礼子さん。陽子の唯一のママ友であり、陽子の性格を見抜きうまく操縦する玉野遥さん。この玉野さんと陽子の会話が抜群におもしろいです。更に「七人の敵がいる」で描かれた事件以降陽子を崇拝する村辺千香さん。母親に代わって孫のために親の会に参加する赤西のおじいちゃん。このおじいちゃんが寡黙だけどやるときはやるという感じで素敵な老人です。ラストでは思わぬ姿を明らかにしてくれます。
 何度もニヤニヤし、通勤バスの中で読んでいて笑いを堪えるのに苦労しました。おすすめです。 
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カーテンコール!  新潮社 
 経営不振で閉校することになった萌木女学園。しかし、単位が取得てきずに卒業ができない者がいた。このままでは中退になってしまうため、角田理事長兼学長は、卒業できない学生の単位取得のため、4月から半年間、彼女らを敷地の片隅の寮に外出禁止、ネット禁止で缶詰にして単位取得のための補講を行うこととする。
 この物語は、訳ありで卒業できなかった者たちを主人公に、彼女らが単位を取得して卒業するまでを描く連作短編集です。
 冒頭の「砂糖壷は空っぽ」は既刊のアンソロジー「惑う」に収録されていた作品です。この連作短編集のあらすじを前もって読んでからこの話を読み始めると、「なぜこの話が収録されるの?」という疑問が湧きますが、ミステリーとしての仕掛けが施されており、やがておっと言う展開が待っています。
 次の「萌木の山の眠り姫」以下は補講を受けることになった女子学生たちのそれぞれの理由と同室者との関わりを描いていきます。朝起きることができない、どこでも急に意識を失ってしまう、卒業間際にやりたいことをしたいがために半年間休学してしまう、通学の電車や歩きが億劫等々の理由の中で「プリマドンナの休日」に登場する優等生そのものの菜々子の理由が凄すぎます。ラストの1行がミステリーらしい驚きです。
 最後に置かれた「ワンダフル・フラワーズ」では、加納さんは、死にたがりの女学生を登場させることで、読者にこの先の展開を推測させながら、見事にうっちゃります。やられましたねえ。更にここで、理事長が昔話を語ることによって、なぜここまでして訳ありの彼女たちを卒業させようとしているのかがわかる形になっており、感動の締めくくりとなっています。 
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いつかの岸辺に跳ねていく  ☆  幻冬舎 
(ちょっとネタバレ)
 幼馴染の森野護と平石徹子の物語です。護が語り手となる「フラット」と徹子が語り手となる「レリーフ」の二部構成になっています。
 「フラット」では、人間関係を築くのが不器用な徹子を見守る護という幼馴染二人の小学生から社会人までの時の流れが護の視線で描かれていきます。クラスメートに馬鹿にされている徹子を気遣って声をかけたり、彼女に一方的に想いを抱く下級生に意見したり、徹子に頼まれて彼女の友人にまとわりつく痴漢を追い払ったりと、護は徹子のために頑張ります。徹子が負担に思わないような形で彼女を見守ってきた護に最近音信不通だった徹子のある話が伝わってきたところで「フラット」は終わりますが、ここまで読んで、いいなあ〜青春物語だなあ〜、このあと二人の関係はどうなるのだろうと「レリーフ」を読み始めると・・・。
 冒頭から、徹子のある秘密が明かされ、「フラット」で護の視点で語られてきた出来事が徹子の視点で語られると、また別の意味を持っていたことが明らかとなります。自分より他人のことばかり考える徹子の人間関係の不器用さの裏には彼女の苦悩があったことが明かされます。ほんわか温かかった「フラット」とは異なった暗い雰囲気がラスト近くになって一転します。護を始め、護の高校時代の友人の根津くん、そしてヤンキー夫婦の高倉正義・弥子とその友人の大城健治の登場にそれまで張りつめていたものがふっと緩みます。
 ラストのエピソード、ああ、ここで何気なく語られていた出来事の意味が明かされるのかぁと、胸にじ〜んときて、ホロっとしてしまいました。護って、本当に素晴らしい男ですね。 
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二百十番館にようこそ  ☆  文藝春秋 
 “俺”は大学卒業後就職活動に失敗し、20歳後半になる今では自分の部屋に引きこもってオンラインゲーム三昧の毎日を送っていた。ある日、会ったこともない伯父が亡くなり、“俺”にとある離島にある館を遺産として遺したと聞き、これでゲームの課金も気にせずゲーム三昧できると喜んで弁護士に連れられて小さな島にやってきた。しかし、弁護士が帰った後、島民から「引っ越し荷物はどんくらいだ」と言われ、びっくりして両親に電話するが使用されていないというアナウンスがあって繋がらない。弁護士に連絡すると、両親は家も売り引っ越したという。ここにきて、“俺”は自分が両親に見捨てられたと気づく・・・。
 物語は両親に見捨てられたニートの主人公(いくら息子とはいえ、親に対してあんな態度では見捨てたくもなりますねえ。)が、島の老人たちの手助けを受けながら、食べるために、研修施設に自分のようなニートを集めて生活していく様子を描いていきます。
 施設の名前の「二百十番館」は「ニート」から名付けたものということで、集まってきたのは、社会の中で生きることに自信を失っていた者や社会からはみ出てしまった者たちばかり。母親の過保護のせいで社会適応性が養われず、人と関わることが苦手なヒロくん、産科医であったが急患で受け入れた妊婦を助けられなかったことから医者を辞めたBJ、女性に告白していい返事をもらえなかったとき以来女性を嫌悪するマッチョなサトシというかなり濃いキャラの者たちが、周囲の人との交流の中で、やがて社会の中でうまく生きていくことができるようになるのは、よくあるパターンのストーリー展開ですが、読んでいて嬉しくなります。
 ラストには思わぬ感涙の事実が明らかとなり、そういうことだったんだ、だからそうなのかという事実(ネタバレになるので伏せます。)がわかって大団円。気持ちが優しくなれる作品です。 
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