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香納諒一の本棚

  1. 幻の女
  2. 贄の夜会

幻の女 角川文庫
 2004年最初の読了本です。99年の日本推理作家協会賞を受賞したほか、99年版「このミス」で第6位にランクインしています。
 弁護士の栖本は不倫関係にありながら5年前突然自分の前から姿を消した瞭子と偶然再会します。用事があると言われ、その場は別れた二人でしたが、翌日警察から瞭子が殺害されたことを知らされます。痴情のもつれということに疑問を感じて瞭子の周辺を調べる栖本でしたが、やがて、瞭子は戸籍上の本当の瞭子ではなかったのではないかと感じ始めます。
 「幻の女」といえば、有名なコーネル・ウールリッチの作品があります。自分の無実を証明するため、一緒にいた女を捜そうとするという話ですが、この作品は、殺された自分の愛する人は本当は誰だったのかを探っていこうとする男の話です。

(ネタばれ注意)

 事件の根底にあるのは、政治家、業界、やくざの癒着というハードボイルド作品にはよくあるパターンですが、これが真実と思えばまた新たな真実が浮かび上がってくるという具合で物語がかなり錯綜していて、結局700頁という厚さでしたが、飽きずに読むことができました。なぜ瞭子が別人になって生きなければならなかったのかという理由は悲しいものがありましたが、かつて愛していた人を思って、警察が痴情のもつれによる殺人ですましたものを、あそこまで調べ直す意欲がわくのでしょうか。
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贄の夜会 上・下 文春文庫
 女性を殺害し、その両腕を切り取って持ち去るという猟奇殺人事件が発生。現場では、もう1人の女性が頭部をコンクリートにたたきつけられて無惨に殺害されていた。捜査に当たった警視庁捜査1課の大河内は、二人の女性が殺害される直前に出席していた「犯罪被害者家族の集い」のシンポジウムのパネリストの弁護士・中条が、19年前に起こった連続殺人事件の犯人だったことを知り、彼が怪しいと捜査を始める。
 一方、巻き込まれて殺害された女性の夫・目取真渉は、警察署で事情を聞かれた後、姿を消す。実は彼の正体は金で殺しを請け負う殺し屋だった。猟奇殺人者、犯人を捜す警察、妻の敵を討とうとする殺し屋の三つ巴の戦いが始まります。
 昨年刊行された「この警察小説がすごい!」(宝島社)で、第15位になった作品です。少年時代に殺人を犯した弁護士については、酒鬼薔薇事件をモデルにしていることがわかります。ただ、この作品では、少年法の是非をテーマにしているわけではなく、その点はエンターテイメントに徹しており、少年法の問題点には焦点は当てられません。
 三者の戦いだけでなく、警察と暴力団の癒着という点も描かれ、いったい警察の中で誰が黒幕なのかという謎解きもあ
るほか、また、殺し屋・目取真渉の悲しい生い立ちも描かれるなど、内容は盛りだくさんです。
 最後まで緊迫感溢れる設定で話が進んだ割には、ラスト、謎が明らかになるところはちょっとあっけなかったかなという気がします。おもしろかったですが、謎がそのままで終わってしまったという消化不良の点も残ったのは残念です。
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