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金城一紀の本棚

  1. GO
  2. レボリューションbR
  3. フライ・ダディ・フライ
  4. 対話篇
  5. SPEED
  6. 映画篇
  7. レヴォリューションbO

GO 講談社
 金城一紀のデビュー作にして直木賞受賞作である。
 主人公の父は元在日朝鮮人、今は韓国に国籍を変え、在日韓国人となっている。この父親が非常に魅力的だ。元日本ランカーのボクサーで、ときに主人公を叩きのめすが、ニーチェを諳んじるという一面を持っているのだから。だいたい、国籍を変更する経緯がユニークである。
 主人公は、こうした男を父親に持つ高校生である。中学校までは朝鮮学校に通っていたが、自らの意思で朝鮮高校へ進学する仲間と別れて日本の普通高校に進学する。そのため、仲間からは裏切り者扱いされ、一方高校では部外者扱いされている。この小説は、もちろん在日の人が抱える問題が描かれている。日本人に手を出される朝鮮学校の女の子を助けようとして刺されてしまう主人公の友人、正一の話は痛ましい。特に最近の北朝鮮と日本との関係もあり、いわゆる「在日」の人の問題は、正直のところ僕には身近な問題ではないのだけど、日本人として本当は避けて通れない問題である。
 でも、主人公が言っているように、この物語は主義主張には関係なく、基本的に主人公の恋愛の物語である。主人公の生き方や友情、恋愛を描いたとてもおもしろい作品だった。
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レボリューションbR 講談社
 同じ著者の「フライ・ダディ・フライ」がとても面白く、そこに出ている4人の高校生たちを主役にした小説ということで思わず買ってしまった作品。落ちこぼれ高校生たちが近くの名門高校の学園祭にどうにかして潜り込もうとする話を中心にした短編集。それぞれの高校生たちが個性豊かに描かれており、4人以外の「フライ・ダディ・フライ」に出てくる高校生も登場していることから、「フライ・ダディ・フライ」を楽しめた人にはきっと面白く読める本である。
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フライ・ダディ・フライ 講談社
 男に理不尽にも乱暴された娘にうまく対応できず、娘がさしのべた手を握れなかった主人公。主人公の性格が自分を見ているようで、その後娘の復讐を誓って体を鍛える主人公に自分を重ね合わせて一気に読んでしまった作品。主人公を応援する4人の高校生たちもいい。今のところ今年度(2003年度)のマイベスト3に入る作品。
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対話篇 講談社
 装幀が素晴らしい。真っ白いカバーに小さく「対話篇 金城一紀」と書かれている。小さいけれど、逆に書店の平台に置かれていると目を引く。僕に言わせれば、よしもとばななの「デッドエンドの思い出」と共に今年の思わず手に取りたくなる装幀のナンバー1を争う。表紙を開けると、たぶん水彩画だと思うが花の絵が描かれている。それもまたセンスがいい。
 内容は3編からなる短編集。「レボルーションbR」や「フライ・ダディ・フライ」とちょっと雰囲気が異なる作品集である。どれもいわゆるラヴ・ストーリーと言うべき話といえるだろうか。中では、28年前に別れた妻の遺品を受け取りに、東京から鹿児島までかつての新婚旅行と同じく自動車で向かう弁護士とバイトで同乗することになった青年との間で、妻との思い出が回想として語られていく3作目の「花」が、最も余韻を残す。
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SPEED 角川書店
 ゾンビーズ・シリーズ第3弾です。今回の物語は、停学になっている期間中にバイトをしていることから、時系列としては、第1作「レヴォリューションbR」の次、聖和女学院の学園祭に突入して停学になっていたときのことだと思われます。
 前作「フライ,ダディ,フライ」でゾンビーズが手助けしたのは、破綻した世界を取り戻すために四苦八苦する平凡な中年サラリーマンでしたが、今回は家庭教師が自殺したことに疑いを抱く真面目な女子高校生です。彼女が落ちこぼれのゾンビーズの面々と出会い、触れあうことによって、今まで知らなかった世界に足を踏み出し成長していく姿が描かれます。
 ゾンビーズは今回も脇役です。したがって、彼らの個性が思う存分描かれていないのは残念ですが、相変わらず不幸を一身に背負ってしまう山下は健在ですし、舜臣は相変わらずのかっこよさです。そして今回は今まで登場するシーンが少なかったアギーが最初から最後まで登場し、自宅も公開、お母さんまで登場するという、アギーファンにはたまらない作品となっています。
 読んでいて爽やかな気分になれる本です。ゾンビーズたちとの出会いはこれで終わりでは寂しいです。もう少し、彼等の活躍を読みたいと思うのは僕だけではないでしょう。
 このシリーズ、帯の惹句がいつもいいです。本の中の言葉を抜き出したものですが、「レヴォリューションbR」では“君たち、世界を変えてみたくないか?”、「フライ,ダディ,フライ」では“おっさん、空を飛んでみたくはないか?”、そして今回は“いつか、おまえのジュテを見せてくれよ”です。この帯だけで惹きつけられますよね。編集者のセンスの良さが感じられます。
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映画篇 集英社
(ちょっとネタバレあり)
 映画好きの金城一紀さんによる映画をモチーフにした4つの短篇と1つの中編からなる作品です。
 モチーフとなった映画は「太陽がいっぱい」「ドラゴン怒りの鉄拳」「恋のためらい フランキーとジョニー」「ペイルライダー」「愛の泉」の5作です。5作の中で観た映画は「太陽がいっぱい」と「ペイルライダー」だけですが、映画を観ていなくても楽しく読むことができます。
 友情、正義、ロマンス、復讐、そして笑いと感動というエッセンスが詰め込まれた5つの作品です。
 最初の「太陽がいっぱい」は、金城さんの学生時代をモデルにしたような作品です。在日朝鮮人の「僕」と龍一との友情物語です。中学時代にふたりで映画館に通いつめたが、高校から別々の道を歩むことに。やがて小説家になった「僕」は、久しぶりに同級生の女性と再会し、龍一のことを思い出します。物語の力で現実を変えようとするラストが胸を打ちます。
 そのほか恋愛ストーリーやハードボイルド風ストーリーなどそれぞれの作品の作風は異なりますが、どれも素敵な作品です。
 それぞれは独立した作品ですが、最後の中編「愛の泉」にそれまでの登場人物がある映画の上映会に集まって、みんなで映画を観るという体裁をとっています。やはり、そんな仕掛けのあるラストの「愛の泉」が一番素敵な作品だったでしょうか。祖父を亡くして元気のなくなった祖母のために、二人が若い頃初デートで一緒に見た映画の上映会を企画する孫たち。それぞれ皆性格は違うけど、祖母を大切に思う気持ちは同じで、力を合わせて、上映会を実現するところは予定調和的な話ではあるけれど、読む者の気持ちをやさしくしてくれます。思わぬオチがあるのがまた楽しい。上映作品がオードリー・ヘップバーン主演のある映画というのも納得のいく選択ですね。今でも恋愛映画のベスト10には必ず入る作品ですが、僕らより年代の映画好きの人たちにとっては、恋人同士で見る映画の定番だったのでしょう。
 金城さんがダ・ヴィンチ9月号のインタビューで「不思議なことに、面白い映画を観た時のことを思い出すと、当時がすごく幸せだったように思えてくるんです。現実には、嫌なことがたくさんあって、つらい時期だったとしても。優れた映画、ひいては優れた物語にはそんな《浄化作用》があると思うんですよね。」と言っていますが、まったくそのとおりです。現実逃避と言われるかもしれませんが、そうではなく映画を観ることによって、現実に立ち向かっていけるのなら、こんないいことはありません。
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レボリューションbO 角川書店
 ゾンビーズシリーズ第4弾。帯の惹句によると、これでシリーズ完結のようです。とはいえ、時系列では今回の作品がシリーズの一番目の位置を占めます。
 オチコボレ高校に入学早々、仲間とともに停学処分をくらい、処分が明けて学校に戻ってきた南方らに突きつけられたのは、1年生全員による団体訓練合宿。合宿中の教師たちの容赦のない罵声と暴力の裏に、学校側のとんでもない思惑が存在することを知った彼らは、ある計画を実行する。
 100ページちょっとの短さなのであっという間に読了です。ゾンビーズを構成する舜臣、萱野、山下らを始め、日本人とフィリピン人とのハーフのアギーなど前作までに登場した個性的なキャラが勢揃いです。それまで、高校生活に悶々としていた彼らが、ここから羽ばたいていくスタート地点となる作品です。
 “君たち、世界を変えてみたくはないか?”いいですよねえ。この本は僕のような中年ではなく、ぜひ若い人たちに読んでもらいたい1冊です。
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