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金子玲介の本棚

  1. 死んだ山田と教室
  2. 死んだ石井の大群
  3. 死んだ木村を上演
  4. 流星と吐き気

死んだ山田と教室  ☆  講談社 
 男子校である穂木高校2年E組の山田が夏休み終了直前の8月29日に飲酒運転の車にはねられて死亡する。新学期が始まり、勉強ができ、面白くて、誰にでも優しく、クラスで一番の人気者だった山田が亡くなったことで暗いムードの教室で担任の花輪が席替えを提案すると、教室のスピーカーから山田の声が聞こえてくる。なんと、山田の魂はスピーカーに憑依したらしい。騒がれたくない、2Eのクラスメートとだけ話すことができればいいという山田の希望で、このことは担任の花輪と2Eのクラスメートだけの秘密となる・・・。
 第65回メフィスト賞受賞作です。物語は10話からなり、それぞれスピーカーに憑依した山田とクラスメートたちの交流が描かれていきます。ひとつひとつは本当にどうでもいい、たわいもない青春真っただ中の男子高校生の日常の話です。山田に話しかけるときの合言葉が「おちんちん体操第二」なんて、いかにも男子校の生徒らしくて笑ってしまいます。でも、ところどころにスピーカーに憑依した山田の本当の姿が垣間見えてきて悲しくなります。その上、生きているクラスメートたちは時間の経過で進級し、高校の卒業を迎え青春時代も終わっていくことになりますが、山田の時間は青春真っただ中で止まったまま。クラスメートたちもいつまでも高校時代のままで止まっているわけにはいきませんものね。どう展開していくのか気になってページを繰る手が止まりません。
 山田がクラス全員のことをひとりひとりをきちんと見ていたことがわかる席替えの提案。それだけで、山田が他人のことが理解できるいい奴だったことがわかります。でも、この提案がラストで明かされる事実をすでに語っていたものであるとは、気がつきませんでした。ラストはあまりに悲しい。「死んだ山田と教室」という題名はそういうことだったんですねえ(ネタバレになるので伏せます。)。これはおススメです。 
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死んだ石井の大群  ☆  講談社 
 第65回メフィスト賞を「死んだ山田と教室」で受賞した金子玲介さんの第2作です。
 物語は14歳の石井唯を主人公に、首に爆破装置を巻かれた333人の石井姓の人々が、0失敗したら即爆死のデスゲームに参加させられる様子と、舞台の公演の最終日に突然失踪した役者の石井有一の行方を彼の才能を評価する劇団の主宰者から捜すことを依頼された探偵の伏見とその助手の蜂須賀の捜索の様子を交互に描いていきます。
 デスゲームに参加させられたのは333人もの石井姓の者たち。会場に聞こえてきた声は、最後に生還できるのは一人だけだと告げます。ドッジボール、しりとリゲームにより残ったのは6人。最後はじゃんけんとなるが・・・。一方、石井有一のアパートを探し当てた伏見らは、部屋の中にデスゲームの資料が残っており、どこかでデスゲームを開催しているのではと考えたが・・・。
 333人の石井姓が集まったデスゲームの話しという、前作とは全く異なる雰囲気で物語は始まります。前作で死んだのは“山田”一人ですが、今作ではゲームに敗れた石井は次々と爆死させられていきます。確かに「死んだ石井の大群」です。物語のキモは、333人の石井姓の人物、それも子どもから大人まで、男女問わずの石井がゲームに参加させられていること。なぜ、みんな「石井姓なのか。いくら何でも333人の石井姓の人物を拉致するなんてできないでしょうと思ったら、なるほど、そういうことだっらんですね。
 さて、次は「死んだ木村を上演」。どんな雰囲気の作品になるのか、今から楽しみです。 
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死んだ木村を上演  講談社 
 かつて啓栄大学の演劇研究会に所属していた今では有名女優となった咲本寧々、演劇界の芥川賞というべき岸田賞を受賞した劇団を主宰する羽鳥芽以、売れない舞台俳優をしている庭田悠成、そして演劇から足を洗いサラリーマンとなった井波郁人の4人の元に、「誰が木村を殺したのか。8年前の真実を知りたければ雛月温泉の宿・極楽に来い」という脅迫状が届く。木村は彼らと同じ研究会の仲間であったが、8年前の研究会の合宿の際、川で水死体で発見され、自殺と判断されていた。極楽にいたのは木村の妹・璃佳を名乗る女性で、兄の死の真相を明らかにするために8年前に5人が行った合宿の状況を再現しろという・・・。
 「死んだ山田」「死んだ石井」ときて、3作目は「死んだ木村」です。デビュー作の「死んだ山田と教室」が青春小説風、「死んだ石井の大群」がサスペンス風、今回はミステリ風とそれぞれ作風が異なっています。
 4人がなぜこんなにも璃佳の言葉に唯々諾々と従って当日の様子を演じていくのかという点に、明らかとなってみれば会話劇としてのトリックが隠されていましたね。
 これだけ作風を変えて続けざまに作品を発表すること自体に驚きがありますが、個人的にはやはり第1作の「死んだ山田と教室」には及びません。 
 
流星と吐き気  講談社 
 5話が収録された連作集です。
 遥也は友人に流星の観測に誘われたが、当日体調を崩した友人の代わりに空港に迎えに来た女性を見て驚く。彼女は高校時代の美術部の先輩で初めて交際し、その後別れた千瀨だった。結婚しているという千瀨に今でも彼女のことを想っていると告げるが・・・
(「流星と吐き気」)
 千瀨は人気の覆面作家のマンガに描かれている女性が自分そっくりだと思い、もしかしたら覆面作家は元カレで、自分をモデルにして描いているのではないかと彼に会いにサイン会に行くが(「リビングデッドの呼び声」)。
 漫画家である理久斗はゲイとして編集者の竜平と交際していたが、竜平から好きな女性ができたので別れてほしいと切り出され、ショックから漫画が描けなくなってしまう。彼は竜平に分かれないでくれとすがりつくが・・・(「種」)。
 編集者の竜平はこのところ、以前交際していた亜由梨から名古屋でデートクラブに勤めている自分の現状を訴えるLINEが怒涛の如く送られてくる。彼女から死を仄めかされた竜平は・・・(「消えない」)。
 亜由梨は以前金沢旅行に行った際、兼六園で絵をかいていた遥也と出会い、意気投合して何日問か二人で過ごすが、ある朝亜由梨が目を覚ますと遥也は姿を消していた。ところが偶然彼女の前にかれはお客として現れる・・・(「プラネタリウム」)
 恋愛をテーマにした作品集かとは思いましたが、本の帯には“嫌愛”短編集と書かれています。とにかく想いが一方的です。主人公と元カレ、元カノの話ですが、一方は既に別れて相手に対し何も思っていないのに、他方はいまだに相手のことを思っているという関係の二人を描きます。何とも思っていない方からすれば、これはいい迷惑ですよね。しかし、この物語、冒頭の表題作「流星と吐き気」と次の「リビングデッドの呼び声」を読んでわかるとおり、どっちもどっちという感じです。「流星と吐き気」で既に結婚しており、元カレにいまだに想われるのは迷惑だと思う千瀨が、次の「リビングデッドの呼び声」では、元カレがいまだに自分のことを想ってくれているのではないかと期待して会いに行ったりするのですからねえ。 
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