深淵のテレパス | 東京創元社 |
PR会社の営業部長を務める高山カレンは部下の館花ゆかりに誘われて、彼女の大学生の弟が入っているオカルトサークルの怪談の会に参加するが、その中の出演者である女子大生の話を聞いて以来、部屋で暗闇から聞こえるばしゃりという異音や床に残された水たまり、どぶ水のような異臭に悩まされるようになる。彼女を心配した館花ゆかりはここならカレンの考え方に合うのではないかとネットで怪奇現象を調査する「あしや超常現象調査」を見つけてくる。「あしや超常現象調査」を運営するのは普段は同じ映画宣伝会社で働く芦屋晴子とその部下の越野草太。依頼を受けた二人は奇怪な現象を調べていくうちに、何回か開催された怪談の会の参加者の中に失踪した人物がいることを知る。更に彼らを辿ると、最初に失踪したのがオカルトサークルの部長・石村であり、彼はどこかの心霊スポットに行って、そこにあったものを持ち帰ったらしいことがわかる。晴子らは石村が行った場所を探して彼が持ち帰ったものをそこに返そうとする・・・。 「このホラーがすごい!2025年版」、第1回創元ホラー長編賞、ベストホラー2024国内部門第1位となった作品です。 戦前の霊能力者の話も出てきて、怪奇現象としては映画の「仄暗い水の底から」を思い起こさせる「リング」系のホラーという感じです。宝塚の男役を想像させる芦屋のキャラもかっこいいですが、その彼女に強く依存する越野という二人の関係もなかなか印象的です。 越野は倉元より晴子のことを気にしてほしいと依頼されるが、なぜ彼女が仕事の傍ら「あしや超常現象調査」を立ちあげたのかは今回は語られていません。「あしや超常現象調査」の芦屋と越野の活躍を描く第2作がすでに刊行されているので、そちらでそのことが語られるのかもしれませんね。 |
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ポルターガイストの囚人 | 東京創元社 |
「深淵のテレパス」に続く芦屋春子と越野草太が活躍する「あしや超常現象調査」シリーズ第2弾です。 ヒーローもので人気を博したものの、知らずにやくざと一緒に撮った写真から、非難を浴び、干されてその後鳴かず飛ばずの売れない役者の東城彰吾は、アパートの家賃にも事欠き、病気になった父親が介護施設に入ったため、40歳を前にして空き家となった故郷の家に戻ってくる。引っ越した日から家の中で起こる物音やひとりでにつく電気、大きなこけしが転がる様子に悩んだ東城はマネージャーの提案で「あしや超常現象調査」に調査を依頼する。芦屋と草野は住宅工事のプロに軒下や天井を見てもらったり、定点カメラや電磁波測定器を設置したりして、現象の正体を明らかにしようとする。やがて、調査の結果を基に対策を講じ、怪現象は収まったかと思われたが、突如、東城が姿を消してしまう・・・。 今回も芦屋と越野に加え、探偵の倉元と超能力者の犬井、そして前作での事件で知り合った桐山楓が調査に協力します。怪現象がその人に起こるのか否かは、オカルトを肯定するのか否定するのかにも大きく関わってくるというのが、さもありなんという感じですね。物語は途中からある屋敷に閉じ込められた男が同じ屋敷の中に閉じ込められている女性を救って逃げ出そうとする様子を描いていきます。この落差のある物語に、作者はミステリにはよくある、ある仕掛けを施しています。ちょっと騙されてしまいますよね。幽霊やおばけというとどこか昔とか古いという印象があるのですが、この怪異現象が行くつく先は理系の知識が必要です。 この作品でも芦屋春子がなぜ超常現象の調査に拘るのかの理由は説明されていません。作者の上條さんのインタビューによると、このシリーズは3部作を考えているそうなので、いよいよ最終作となる次作で、このことも明らかとされるのでしょう。期待したいです。 |
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