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梶尾真治の本棚

  1. 黄泉がえり
  2. クロノス・ジョウンターの伝説
  3. 精霊探偵
  4. この胸いっぱいの愛を
  5. 時の“風”に吹かれて
  6. きみがいた時間 ぼくがいく時間
  7. つばき、時跳び
  8. 穂足のチカラ
  9. 杏奈は春待岬に
  10. 黄泉がえり again
  11. クロノス・ジョウンターの黎明

黄泉がえり 新潮文庫
 九州の熊本で、死者が蘇ってくるという現象が起き始めます。それも死んだ当時の姿のまま家族の元に現れます。彼らはなぜ蘇ったのか。
死者が蘇るというと、ゾンビみたいでホラーかなとも思ったのですが、SFファンタジーというところでしょうか。
 物語は、生き返ってきた人と家族との物語が群像劇のように描かれ、感動を呼びます。死者が蘇るということで戸惑う周囲ですが、この作品中には悪意の人が全然登場してきません。家族は蘇ってきた者を違和感なく受け入れていきます。実際は蘇ってこられても困るという人もいるかもしれません。遺産相続をしてしまったとか、愛する人が死んだので別の人と結婚してしまったとか・・・。しかし、ひたすらこの作品では家族のつながりの素晴らしさを描いています。
 草薙剛主演で映画化されました。小説とは登場人物の設定が異なっていますが、ちょっと涙が出てきてしまいました。
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クロノス・ジョウンターの伝説 ソノラマ文庫
 サイトを見ていただいている“ななよさん”から教えていただいた作品です。
 クロノス・ジョウンターと名付けられた正式名称「物質過去射出機」、いわゆるタイムマシンによって、過去に旅立った人を巡る3つの物語と、「外伝」と名付けられたクロノス・ジョウンターと並行して開発されていたクロノス・コンディショナーによって過去へと行った女性の物語です。
 通常考えるタイムマシンと異なって、クロノス・ジョウンターには大きな問題点があります。それは、過去から戻るのが出発時点より未来になってしまうということ。それも過去に行けば行くほど戻るときにはより遙か未来になってしまうことです。このことが、主人公たちに残酷な運命をもたらすことになります。
 4話のなかでは「吹原和彦の軌跡」が一番好きです。主人公吹原は、愛する人を事故から救うために何度も過去に行きます。愛する人が助かったとしても、二度と会うことはないということをわかりながら・・・。こうした物語を読むと、どうしても自分に身を置き換えて考えてしまうのですが、僕にはきっとできないだろうなあと思いながら、物語にずっぽりはまってしまいました。愛する人のためには自分の命さえ省みない吹原の行為には、思わずじーんときてしまいました。あ~なんというラストでしょう。
 この1話だけでなく、残りの3話すべてがSFであるとともに、ラブストーリーでもあります。もちろん、他の話も素晴らしくて、感動します。
 タイムマシンものは大好きです。文庫の解説にも書いてあった、ハインラインの「夏への扉」、筒井康隆「時をかける少女」、ジャック・フィニイ「ふりだしに戻る」、広瀬正の「マイナス・ゼロ」、宮部みゆき「蒲生邸事件」はどれもお気に入りの作品です(なかでも「マイナス・ゼロ」は最高です)。この本もお気に入りの1冊になりました。
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精霊探偵 新潮社
 交通事故で妻を亡くした新海。その事故以来彼は人の背後霊が見えるようになります。妻の死に生きる気力をなくして引きこもり状態の新海に、マンションのオーナーであり、1階で喫茶店を開いているマスター夫婦が人捜しを仲介します。
 “探偵”という題名がついていたので、てっきり背後霊の力を借りて不可思議な事件を解決していく私立探偵の話だと読む前は思っていました。違いましたね。単純にそんな話ではなかったです。不可思議な事件を解決するという点ではミステリですが、話はミステリというよりSF色が強い作品でした。

(以下ネタバレがあります)

 この作品は系列的には、あのジャック・フィニイの有名な作品の系列であり、近年では恩田陸さんにも同じ系列の作品がありましたね。 話の展開が早いので、帯に「涙腺ゆるむサプライズまで一直線」とあったように、一晩で一気に読み終わってしまいました。いくら背後霊のおかげで、失せ物探しができたとはいえ、デザイナーだった男、それも生きる気力をなくしている男が人捜しを始めるなんて導入としては唐突すぎるなあと思いながら読み始めたのですが、さすが梶尾さん、飽きさせませんでした。
 話はSFでありながら、昔の日本の言い伝えが関わってきたりしています。○△なんて名前には、えぇ~と絶句です。頭の中に侍の姿が浮かんでしまいました。これでは高橋克彦さんの世界、あるいは 歴史伝記ものではないかとも思ってしまいましたよ。
 新海自身が見ることができない自分の背後霊が誰であるのか、この点はミステリです。ラストで明らかとなったときには、もう一度最初からページを繰って確認してしまいました。う~ん、なんとなく、アレが書いてないのは不思議とは思ったんですけどね。
 探偵助手を自称する小学生の女の子小夢ちゃんが主人公より個性的。小学生でありながら主人公と同じ年代のように話すところが、こまっしゃくれていて、なかなかのキャラクターです。
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この胸いっぱいの愛を 小学館文庫
 映画の原作者梶尾真治さん自身によるノベライズ化という、ちょっと変わった形での出版です。映画は原作「クロノス・ジョウンターの伝説」とはかなり違ったものになっていましたので、それを原作者がどうノベライズ化したのか、非常に興味がありました。
だいたい映画では、過去の時代に行ったのは偶然のことでしたが、原作では愛する人のために自分のことを捨ててまで過去に行くのです。もうこれだけでも映画と原作とはまったく違う作品になったといえます。そのうえ、映画には原作の題名にもなった「クロノス・ジョウンター」というタイムトラベルのための機械も登場しません。
 ところがこのノベライズでは、基本的には映画のストーリーを踏襲しながらも梶尾さんの手により何点かの変更がなされています。その一つはクロノス・ジョウンターが登場することです。原作のような大がかりな機械ではなく、持ち運びのできる機械としてですが。そのために、なぜタイムトラベルしたかの理由があいまいだった映画とは違って、ある理由でクロノス・ジョウンターが作動したため20年前の過去にタイムトラベルしたことがわかります。
 さらには原作にも登場する吹原の名前も出てきますので、原作を読んだ者にとっては、おもしろく読むことができます。
 最近DVDで見た「バタフライ・エフェクト」でテーマであったカオス理論も出てきて、映画とはまた違う結末になっていますので、映画を見た人は比べてみるのも楽しいでしょう。僕としては、梶尾さんのノベライズの方に軍配を上げますが。
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時の“風”に吹かれて 光文社
 さまざまな雑誌等に掲載された作品を集めた短編集です。ジャンルはSF、ホラーをはじめ、ノスタルジックな作品、これは作者がきっと笑いをとろうとしたものだろうという作品や手塚治虫さんの鉄腕アトムへのオマージュ作品まで、種々雑多な11のお話です。
 表題作は、想う女性のためにタイムトラベルをする男を主人公としたストーリー的にはよくある話です。期待のタイムトラベルものでしたが、ラストがいまひとつ理解できず、僕の評価としてはいまひとつです。それよりタイムトラベルものとしては「時縛の人」のほうがおもしろかったですね。タイムマシンのエネルギーがなくなった過去で主人公がタイムマシンの燃料としたのは・・・。想像がつきましたが、最後の落ちがうまかったですね。
 都市伝説である口裂け女を材料にしてうまく料理がされているのが「わが愛しの口裂け女」です。てっきり感動のラストかと思ったら最後の1頁でひっくり返されました。 特に終わりから3行目には思わず笑いながら「見事!」と言ってしまいました。
 あと、「柴山博士臨界超過!」も女性の恐ろしさを描いて印象深い作品でしたね。
 題名がタイムトラベルを想像させますので、梶尾さんお得意のタイムトラベルものを集めた作品かと思って購入すると大間違いですが、いろいろなジャンルの梶尾さんの作品を楽しむことができる短編集でした。。 

※表題作の「時の“風”に吹かれて」に登場した“機敷埜”という珍しい名前は、同一人物ではありませんが“あの”作品にも出ていなかったでしたっけ。
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きみがいた時間 ぼくがいく時間 朝日ソノラマ
(ちょっとネタバレあり)
 梶尾真治さんお得意のタイム・トラベルをテーマにした短編集です。
 メインは書き下ろしの表題作「きみがいた時間 ぼくのいく時間」です。この作品は、あの「クロノス・ジョウンターの伝説」の最新作といっていいでしょう。物語は、吹原和彦が恋人を助けに過去に行ったまま戻ってこない、布川輝良も実験で過去に行ったままという時の話です。P・フレックスの野方課長も登場しますし、もちろん「クロノス~」のもう一人の主人公鈴谷医師も登場します。
 ストーリーとしては「クロノス~」の中の「吹原和彦の軌跡」と同じく、愛する女性を救いに過去に行こうとする男の話です。ただ今回、過去に行くのに使う装置は、クロノス・ジョウンターではなく、クロノス・スパイラルと呼ばれる装置です。当初は、クロノス・ジョウンターで過去に行こうとしたのですが、あることからクロノス・ジョウンターが使用できなくなってしまいます(「クロノス・ジョウンターの伝説」を読んでいる人には理由はわかります。この物語をよりいっそう楽しむためにも、「クロノス・ジョウンターの伝説」を読んでおいた方がいいでしょう。)。
 愛する人のために遙かな過去にタイムトラベルをしようとする男という設定に、そこまでするか?と思いながらも自分が主人公になったつもりで感動してしまいました。過去に行ってからの主人公の困難な生活をもっと書き込めば、ラストはいっそうの感動だったのではないかと思います。短篇という制約があったのでしょうか、簡単に過去の住民として生きることができてしまう点がちょっと都合よすぎですね。
 「クロノス~」の中の最高傑作(!)「吹原和彦の軌跡」と比較すると、感涙という点では「吹原和彦の軌跡」にはかないませんでした。とにかく、愛する人のためなら自分はどうなってもいいという吹原和彦の自己犠牲の心には誰も勝てません。
 「美亜へ贈る真珠」は、梶尾さんのデビュー作だそうです。未来へのタイムカプセルというべき“航時機”に乗った男を何十年も見守り続ける恋人。最後の2ページで明らかにされる事実に(読んでいる最中に予想がついてしまうのですが)、わかっていながら感動してしまいます。

※キャラメルボックス「クロノス」脚本・演出の成井豊さんと梶尾真治さんの対談は「クロノスTALK&PHOTOBOOK」に収録されていたものです。
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つばき、時跳び 平凡社
 梶尾さんお得意のタイムトラベルものです。舞台は梶尾さん御自身が住む熊本。
 主人公の井納惇は、サラリーマンを辞めて専業作家の道を歩み始めたばかり。今は空き家になっている実家に住み始めるが、そこには女性だけに見える女の幽霊が出ると言われていた。ところが、ある日、女性だけに見えるはずの幽霊が出現。実は女性はつばきという名の江戸時代の女性で、何らかの手段によって、未来へとタイムトラベルしてきたことがわかる。
 タイムトラベルものといっても、タイムトラベルは主人公惇と江戸時代の女性つばきとが出会うための手段でしかありません。この作品をジャンル分けすればラブ・ストーリーに分類した方がいいですね。時を隔てて愛し合うことになってしまった二人の、今の時代からすれば爽やかすぎる愛を描いていきます。あまりに純なラブ・ストーリーです。
 へそ曲がりの読者である僕としては、つばきの生きる江戸時代からは、この100年以上で日本人の体型もかなり変わっているはずなのに、つばきに現在の女性用の服がピッタリとはちょっと思えない、無理があるとか、そんなに簡単に江戸時代の女性に一目惚れしてしまうことがあるのかとも思うのですが、そんなこと考えると話を楽しく読むことができません。時を隔てた男女の恋の物語として楽しむのが一番です。
 ラストは賛否両論があるでしょうね。ちなみに僕自身はこちらのラストが好きですが、現実としては決してそんな純粋な恋をすることはできませんね。残念ながら。
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穂足のチカラ 新潮社
 認知症気味の祖父、うだつの上がらない父親、パチンコ依存症の母親、引きこもりの長男、そして父親のいない子どもを生んだ長女とその子・穂足の6人家族の海野一家。いつ崩壊してもおかしくない家族が穂足の怪我をきっかけに変わっていく様子を描いていきます。
 穂足が意識を失っていたとき、穂足に触れた家族の誰もに、それぞれがこれまで抱えていた悩みや劣等感を裏返しにした力が与えられる。そしてその力は家族に触れたものにも次々と伝わっていき・・・。
 プロローグで語られる海野家の消滅。表紙のカバー絵に描かれた海野一家はどうなったのだろうと、最初から物語の中に引き込まれてしまいました。家族の崩壊と再生というだけの話だと思ったら、キリストの生まれ変わりだ、救世主だという話も出てきて、こりゃあスケールの大きな話になってきたなあとびっくり。
 そのうち海野一家の周りのみんながどんどんいい人になってきて、これでめでたしめでたしかと思ったら、突如出現してきたあるものとの戦いまであって、内容は盛りだくさんです。
 みんなが幸せになって争いのない世界になっていくハッピー・エンドのファンタジーとしておもしろく読むことができましたが、天の邪鬼な僕としては、そんないい人ばかりの世界になるって、いったいどうなんだろうと逆にちょっと怖いなあという気がしないでもありません。
 海野一家を助ける三人の老人の一人として、大好きな「クロノス」シリーズにも登場する機敷埜風天という名前の老人が登場しています。ファンとしてはうれしいですね。
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杏奈は春待岬に  新潮社 
 小学生の春休みに祖父母の家に遊びに行った白瀬健志は、春待岬と呼ばれる岬に1軒の洋館が建っていることに気づく。その洋館に向かった健志は、そこに美しい少女がいるのを見て、なんとかして彼女と言葉を交わしたいと思ったが・・・。
 梶尾さんの作品は映画化もされた「黄泉がえり」を読んだのが初めてでしたが、何と言っても舞台に興味を持つ大きなきっかけとなった「クロノス・ジョウンターの伝説」、特にその中の「吹原和彦の軌跡」が一番です。劇団キャラメルボックスの舞台の原作となったこの作品の主人公・吹原の、自分が遙か未来にはじき飛ばされても愛する人を助けたいという気持ちに心うたれましたが、この作品もタイムトラベルを題材にした同じ系統の作品です。子どもの頃、ふと心惹かれた女性のために人生を賭ける男の話でした。梶尾さんの作品に登場する男たちはみな純情で一途です。
 まぁ~ませているというのか何と言ったらいいのか。自分より年上の少女・杏奈(おそらく高校生の年齢だと思われます)に心惹かれて、ひたすら逢いたいと思い続ける健志にかけるべき言葉が見当たりません。杏奈が相手になってくれたからよかったけれど、一歩間違えばストーカーです。自分を想ってくれる女性がいるのだから、普通は身近にいる現実の女性に惹かれると思うのですがねぇ。梓がかわいそうです。あんな事実が明らかになってみれば、なおいっそう梓の気持ちを考えてあげない健志に、もっと周りを見なくてはダメだよと説教の一つもしたくなります。 
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黄泉がえり again  新潮文庫 
 前作「黄泉がえり」から17年後を舞台として描かれた続編です。
 熊本地震で大きな被害を受けた熊本で17年前と同様に再び“黄泉がえり”が起こり始める。肥之國日報の記者を辞め、今はフリーライターとなった川田平太の元にも亡くなった母が蘇ってくる。一方、前回の黄泉がえりで、1人再び姿を消すことなく生きていた相良周平が熊本地震の直前に姿を消していた・・・。
 前回蘇った人が再び姿を消したのは、熊本に起きようとしていた地震をみんなで防ごうとしたため。しかし、物語と異なって、現実には大きな熊本地震が発生し、大きな被害をもたらしました。今回、梶尾さんがこの物語をああいったラストにしたのは、熊本地震の悲劇を乗り越えようとする熊本県民へのエールの意味もあったのではないでしょうか。
 蘇るためには誰かがその人のことを強く思っていなければならないということですが、今回は熊本県民の思いがとんでもない人を蘇らせることになるし、ある少年の思いがこれまた凄いものを蘇らせることになります。そういう意味では前作よりエンターテイメント性が高い作品となっています。 
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クロノス・ジョウンターの黎明  徳間書店 
 クロノスシリーズの新作です。
 住島重工で働く仁科克男は昼食に利用することの多かった会社の近くのレストラン「海賊亭」で、ある日店主から26年前に撮ったという自作の8ミリ映画を見せられ、その中に登場していた女性・清水杏子に惹かれる。ところが、杏子はビデオを撮った後、交通事故で既に亡くなっていた。住島重工から新会社のP・フレックに出向を命じられた仁科克男は開発部に配属となり、そこで同僚となった野方から会社の目的が時間軸圧縮理論の具現化であることを知る。杏子のことが忘れられない仁科は、彼女を助けるため、自分が開発に携わる「時間軸圧縮理論」に基づく過去射出装置“クロノス・ジョウンター”によって、彼女の死の経緯を記したメモを書き、過去に送る。1960年、仁科からのメモを受け取った大学生の青井秋星は、杏子を探し、彼女を助けようとするが・・・。
 巻末にクロノス・ジョウンターの年表が掲載されていますが、この作品は、題名からも想像できるように今までのシリーズ作品でが語られなかったクロノス・ジョウンターの開発の最初からが描かれていきます。果たして仁科と青井は杏子を助けることができるのか。そしてその方法は・・・。こうしたタイムトラベルものにはどうしてもタイムパラドックスが生じますので、あまりこだわらず読むのがベストです。
 野方はもちろんですが、「クロノス・ジョウンターの伝説」の吹原和彦や布川輝良の名前も登場しており、シリーズファンとしては嬉しい限り。5月にはこの作品を原作とした演劇集団キャラメルボックスの公演も予定されており、楽しみです。 
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