リア王密室に死す | 徳間文庫 |
高校生の頃、北杜夫さんの「ドクトルマンボウ青春記」を読んで、バンカラだ、ストームだなどと今では意味が分からない言葉に夢中になり、ナンバースクールの旧制高校の生活に憧れて、かつてナンバースクールだった大学に挑戦。旧制高校生なら住むのはアパートではなく寮だと思い、受験に行った際には合格するつもりで寮まで申し込みをしたのですが、そうそう人生は甘くありません。実力が伴わず、あえなく不合格となって今に至ります。そんな私にとって、梶龍雄さんの旧制高校生を描いたこの作品を始め、「若きウェルテルの怪死」、「金沢逢魔殺人事件」、「青春迷路殺人事件」(のちに「我が青春に殺意あり」に改題)は当時の講談社ノベルス版を購入して夢中で読んだものでした。その本も何年か前に断捨離してしまったのですが、今回復刊されて懐かしくなって購入してしまいました。 戦後すぐの昭和23年、今の京都大学の前身である旧制三高生が殺害された事件を描く青春ミステリです。 現実主義者(リアリスト)であることから頭の二字をとってリア王と呼ばれていた伊場富三が下宿で注射器によって毒を打たれて殺害される。現場となった下宿の部屋は施錠がされたいわゆる密室だったため、彼と同部屋に住み鍵を持っているボンこと木津武志が疑われる。彼は当日京都に観光に来た老夫婦の観光案内のアルバイトをし、犯行時間帯には老夫婦に誘われ、先斗町の老夫婦の知り合いの家で食事をしていたが、老夫婦も知り合いの家もわからずアリバイを証明できなかった。友人の中で評判の秀才で頭が切れることから“カミソリ"と呼ばれる紙谷達弘は、武志の言うことを信じ無実を証明しようとする・・・。 物語は事件が起こった戦後すぐの頃とそれから30数年後の2部構成となっています。1部で決着を見た事件を2部でボンが息子に話すという形になっています。2部構成になっていることから、1部でのカミソリの事件の謎解きは正解ではないことがわかり、その段階で何となく事件の全体像が見えてしまいます。密室のトリックも驚きのものでもなく、個人的にはミステリというより、旧制制高校時代の雰囲気を感じ取ることができる青春小説の部分を味わうことができた作品でした。 |
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