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海堂尊の本棚

  1. チーム・バチスタの栄光
  2. ナイチンゲールの沈黙
  3. 螺鈿迷宮
  4. ジェネラル・ルージュの凱旋
  5. 夢見る黄金地球儀
  6. イノセント・ゲリラの祝祭
  7. アリアドネの弾丸
  8. ジーン・ワルツ
  9. ケルベロスの肖像
  10. 輝天炎上

チーム・バチスタの栄光 宝島社文庫
 第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。来年2月の映画公開に合わせての文庫化です。
 現在テレビで医者を主人公にした「医龍2」が放映されており、視聴率が高い中(我が家でも家族揃って見ています。)タイミングいい医療サスペンスの出版ですね。
 心臓移植の代替手術であるバチスタ手術専門の外科チーム“チーム・バチスタ”の手術で原因不明の術死が連続する。病院長から内部調査を依頼されたのは、愚痴外来と渾名される不定愁訴外来の講師、田口。医療過誤か殺人か、田口による調査が始まる。
 上下2巻に分けられた文庫の上巻は、田口の聞き取り調査の様子が医療サスペンスという雰囲気で描かれていきます。ところが、下巻に入ってある人物の登場から一瞬これはバカミスになってしまうのかという危惧が生じます。あの奥田英朗さん描くトンデモ精神科医、伊良部に負けるとも劣らないキャラクターの厚生労働省技官(技官という職名の伊良部と同じ医者です)の白鳥です。人を人とも思わぬ歯に衣着せぬ発言で、相手を怒らせ殴られながらも調査を進めていきます。いつの間にかホームズ役であったはずの田口が、白鳥の登場によってワトソンへ役と格下げ(?)されてしまいましたね。正直のところ、白鳥が駆使するアクティブ・フェーズ調査とパッシブ・フェーズ調査の違いについては理解しがたく、その点ちょっとついていけないなあと思ったのですが、それ以上に白鳥の強烈な個性に最後まで引っ張っていかれました。ただ、あのキャラクターからは、最後の手紙は余分ではなかったですかねえ。
 現役のお医者さんが描いた作品ですので、医療部分にはリアリティがあるのでしょうが、逆に素人にはわかりにくいところもなきにしもあらずです。医者に縁のない僕としては、状況を頭に思い描くことができませんでした。医療の素人には今回の謎解きは無理ですよね。
 とはいえ、それらを補ってあまりあるおもしろさでした。おすすめです。
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ナイチンゲールの沈黙 宝島社文庫
 田口・白鳥シリーズ第2弾ですが、勢いはちょっと落ちた感じです。前作は田口の一人称だったのですが、今回は三人称。ということもあってか、今回は田口のキャラもあまり表に出てきていないし、あの白鳥ですら前作のようなパワーを感じさせません。田口と白鳥の漫才のような掛け合いも今回はあまりなく、そういう点ではおもしろさは半減です。
 事件が起きるのが上巻も終わりになってですし、肝心の白鳥の登場も下巻からということで、それまでがあまりに長すぎです。だいたい事件の全体像はすぐに把握できてしまいます(伏線もわかりやすいです。)。
 今回も様々な個性豊かな人物たちが登場します。酔いどれ歌手の水落冴子、不思議な歌声を持つ浜田小夜、いつも眠たげだが千里眼の猫田師長、そして極めつけは白鳥に負けるとも劣らないキャラクターの持ち主の加納警視正です。ただ、あまりにそんなアクの強い人物が多すぎて、いまひとつ作品の中で個々のキャラを生かしきれていない気がします。
 また、オートプシー・イメージングなどの難しい医学用語が出てきて、スッとイメージができず読みにくいところもあります。そもそも作者がこうした現在の医療現場の状況を知ってもらいたいということも作品を書く理由の一つとしているのですから、やむを得ないところでしょうか。映像ではなく、文字で説明するというのは難しいですね。
 他の作品との繋がりを予定しているらしい記述もあるのですが、読者としては何のことやらよくわからない点もあって消化不良です。これは他の作品も読ませようとする作者の陰謀か?

※ 阿部寛さんが演じた映画化の影響で、白鳥というとのっぽな男のイメージですが、実際は“小太りの男”。やっぱり白鳥のイメージはこちらですよね。
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螺鈿迷宮 角川文庫
 田口、白鳥のコンビによる作品ではありませんが、解説にもあるように桜宮サーガの1作といえる作品です。
 桜宮病院を訪問したまま行方不明となった男の捜索に駆り出され、病院に潜入することになった東城大学医学部の学生天馬。そんな天馬の前に、前作「ナイチンゲールの沈黙」で、桜宮病院は叩き潰す必要があるかもしれないと言った白鳥がなぜか皮膚科の医師として登場します。そして、前作までは名前だけの登場だったある人物が満を持して(?)登場し、白鳥に負けず劣らずの強烈なキャラクターで作品の中を駆け回ります。
 この作品では、天馬が田口の代わりに白鳥に翻弄されるという立場にあります。さらに、白鳥だけでなく強烈なキャラの人物の相手もしなければならず、天馬は田口以上に大変な目に逢うことになります。それにしても、この強烈キャラはこの作品だけで退場するとは思えませんから、この後の活躍(?)も楽しみです。田口も最後にちょこっとだけ登場してきて、前2作のファンとしてはうれしいところです。
 医者である著者らしく、前作までと同様、最近の医療現場の実態を描いているところも興味深く読むことができます(もちろん、白鳥は厚生労働省の技官ですから、彼の口から、ストレートに現在の医療制度への批判を吐かせているわけでもありませんが)。ちょっと気になったのは、保険制度で著者が考え違いをしているのではないかという記述があったこと。桜宮病院が脅迫される原因の一つなので、最後まで心にひっかかってしまいました。
 とにかく、強烈なキャラの人物たちによっていっきに読ませます。この後の桜宮サーガも目が離せません。
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ジェネラル・ルージュの凱旋 宝島社文庫
 田口・白鳥シリーズ、というより桜宮サーガの1冊です。
 田口が委員長を務めるリスクマネジメント委員会に“将軍(ジェネラル)”の異名を持つ救命救急センターの速水部長が収賄をしているという投書がもたらされる。高階病院長から依頼を受けた田口は、事実の調査に乗り出す。
 物語は「ナイチンゲールの沈黙」と同じ12月14日に始まり、12月25日に終わりを見ます。同じ期間の中で東城大学では二つの大きな事件が同時進行していたことになります。「ナイチンゲールの沈黙」で田口があまり表面に出てこないと思ったら、こちらの方で活躍していたということですね。しかし、こんな短期間にあんなにドタバタしていたら、肝心の医療ができるんでしょうかねえ。
 「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」ともミステリーだったのですが(特に「チーム〜」はストレートに犯人探しというミステリでした。)、この作品ではミステリ的部分は、速水を密告した投書の主は誰かというところだけです。それより、おもしろさの中心は、エシックス・コミティやリスクマネジメント委員会での議論の応酬の場面です。特に、アクティブ・フェーズを駆使する白鳥の発言には喝采を送ってしまうほど面白かったです。
 作者の海藤さんは、この物語の中で独立行政法人となって経営合理化を迫られる大学病院の問題や救命救急現場でのドクター・ヘリ導入問題など現在の医療現場で直面している問題を描いていますが、やはり御自身が勤務医として医療現場にいるからでしょう。
 田口、白鳥の漫才コンビは相変わらずです。今回登場する人々の中で、“ジェネラル”とあだ名される強烈な指導力で医療現場を支える速水部長のキャラも良かったですが、看護師見習いの姫宮が最高です。「ナイチンゲール〜」で名前だけ出てきた姫宮でしたが、その強烈なキャラを十分発揮してくれました。この続きが「螺鈿迷宮」ということになるのですね。さて、この後の桜宮サーガがどうなるのか、大いに期待できます。
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夢見る黄金地球儀 東京創元社
 かつてバブル華やかなりし頃、政府が日本全国の自治体に1億円を配るという「ふるさと創生事業」という愚策を実施しました。もちろん、現金1億円をそのまま配るのではなく、それを使って各自治体に何か考えろということでしたが、箱物を作ったり、アメリカと緯度が同じという理由で自由の女神像を作ったり、この作品のように純金でモノを作ったりと、日本全国大騒ぎでした。
 さて、この作品は、舞台となる桜宮市がふるさと創生事業の1億円分の純金で制作した地球儀を展示場所である桜宮水族館から盗み出そうとする人たちの話です。桜宮市を舞台とする桜宮クロニクルの1作であり、「ナイチンゲールの沈黙」に登場していた人物も登場しており、あの人がその後どうなったかも知ることができて、ファンとしては嬉しいところです。それにしても、人生変わりすぎだろうと言いたくなりますが。
 軽いタッチのストーリーで、深刻さはまったくなく、時間つぶしには最適の1冊です。
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イノセント・ゲリラの祝祭 宝島社文庫
 田口・白鳥シリーズ第4弾です。今回は桜宮市を離れ、自鳥の本拠、厚生労働省を舞台にした医療行政を巡る物語となっています。
 ミステリ色は影を潜め、医学的な話が中心になってきており、今までとは色合いが違ってきてしまった感があります。医学界の中での教授連の確執やキャリア同士の足の引っ張り合いなどもあり、おもしろく読むことはできるのですが、今までシリーズを読んできたファンとしては、ミステリの味わいもほしいところです。まあ、確かに田口、自鳥の周りでそうそう事件が起きるのもおかしいですけど。今回、作者の海堂さんは、この作品を通して現在の医療行政を批判することに主眼を置いたのでしょうね。
 田口、白鳥のコンビの妙も今回は今ひとつだった気がします。白鳥に負けず劣らずというより、彼より個性的なキャラクターの持ち主彦根が登場し、いつものハチャメチャな白鳥が彼に対しては意外に常識的なことを言ったりするので拍子抜けです。
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アリアドネの弾丸 宝島社
 田口・白鳥シリーズ第5弾です。今回の作品では東城大学附属病院で殺人事件が発生。なんと、容疑者が高階病院長ということで、田口、白鳥の迷コンビが事件の謎を追います。
 シリーズ第1作の「チーム・バチスタの栄光」は、術死の裏に隠された殺人を扱った、かなりミステリ色の強い作品でしたが、その後のシリーズでは次第にミステリよりはメディカル・エンターテインメントという側面の方が大きくなってきました。今回は久しぶりにミステリ色が強く前面に出た作品となっています。
 海道さんの次々と出る作品を追い切れず、海堂ワールドがまだまだ理解しきれていません。これまでのシリーズ4作に登場した人物だけでなく、他の作品にも登場する人物が出てくるので、話がよくわからないところもあります。逆に、これまでの海堂作品を順調に読んできた人には、楽しいかもしれません。
 高階病院長が犯人でなければ、怪しい人物は限られてくるので、ミステリーという点では物足りないものはあります。殺害方法も本当にあのとおりにできるのか頭に思い描くことができません。う〜ん、あんなことが本当に可能なのかなあ。
 田口、白鳥を始め、島津、彦根、桧山シオンに、桜宮市警広報課室長の斑鳩、元碧翠院桜宮病院医師の桜宮小百合も登場し、作品の中はすごい賑わいです。強烈なキャラの持ち主ばかりで、これでは白鳥のキャラも影が薄くなってしまいます。 残念なのは、「螺鈿迷宮」の桜宮小百合が登場したので、いよいよ白鳥との闘いが始まるのかと期待したのですが、これが肩透かし。次作に持ち越しでしょうか。
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ジーン・ワルツ 新潮文庫
 現在菅野美穂さん主演で公開中の同名映画の原作になります。
 今回のテーマは不妊治療と代理出産ですが、海堂さん、こんなことまで書いてしまっていいのかなと思うほど、作品中で現在の医療制度やそれを作り出した厚生労働省の医療行政に深くメスを入れています。
 中でも問題になっている産婦人科医の不足は切実です。20年ほど前までは町中にも産婦人科医院が多くあり、私の子どもたちも個人の産婦人科医院で産まれたのですが、現在では個人の産婦人科医院は次々と姿を消し、更には総合病院でさえ、産婦人科を標榜するところが減少してきています。これは厚生労働省の医療行政のせいだと海堂さんは批判していますが、へぇ〜そうなんだと改めて認識させられます。
 時々専門用語が出てくるところは読んでいて理解するのが難しいのですが、取り上げられる問題はこのところ話題になっているものばかりなので、身近に感じられ読み進めることができました。
 主人公の曾根崎理恵は、普通の男ではちょっと太刀打ちできないほどの頭脳の持ち主。海堂さんの描く女性のキャラは愚痴外来の藤原看護師を除けば、みんなナイフみたいな鋭利なイメージの女性ばかりですね。
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ケルベロスの肖像 宝島社
 バチスタシリーズ完結編です。今回は東城大学にAiセンターが完成する中で高階病院長に届いた「東城大とケルベロスの塔を破壊する」という脅迫状に対する解決を田口が委されるところから始まります。
 「螺鈿迷宮」で描かれた碧翠院桜宮事件で一人生き残った桜宮一族最強の切り札の女性もようやく登場(いい加減待ちくたびれましたよ)、さらに、これまでのシリーズに顔を出していた面々が総登場し、完結編にふさわしい派手な作品となっています。しかし、逆に多くの特色あるキャラが登場したために、様々なキャラを描くことで興味が分散されてしまった感もあります。
 前作の「アリアドネの弾丸」と比較すると、ミステリーとしてのおもしろさはかなり落ちます。最初からあの人物が○○だろう(ネタバレになるので伏せます)と、誰が読んでも分かるのに、作品中ではその疑問を抱く人が誰もいません。自衛隊の戦車でリヴァイアサンの電磁コイルを運び、田口が戦車に乗るというのは、まあ、お笑いですまされますが、所々ストーリーに無理があります。脅迫者の破壊工作も強引で、あんな仕掛けが果たして現実にできるのかと首をひねりたくなる状況になっていることは否めません。
 バチスタシリーズといえば別名、田口・白鳥シリーズと言われるほど田口以上に強烈なキャラの白鳥が今回あまり登場せず、活躍を見せないのも残念です。厚生労働省のもてあましキャラの砂井戸に白鳥が関わるエピソードを描く必要性があったのでしょうか。白鳥の活躍が見られぬ話なんて、完結編らしくありません。かといって、白鳥が代わりに派遣した姫宮もそれほど目立ちませんでしたし。
 ラストも完結編と銘打ちながら、中途半端な終わり方で、あれでは続編がありますと言われても不思議ではありません。
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輝天炎上 角川書店
 この作品が発売になったときに帯に書かれていたのが「『螺鈿迷宮』の続編にして、「バチスタ」シリーズ完結作 「ケルベロスの肖像」のアナザーストーリー」という、これでもかという文句。バテスタシリーズ完結編というのは、「ケルベロスの肖像」だったのではないでしょうか。売らんがためとはいえ、これでは読者を騙したも同然でしょう!と憤慨したものの、シリーズファンとしては読まないわけにはいきません。だいたい、「ケルベロスの肖像」を読んだときに、『ラストも完結編と銘打ちながら、中途半端な終わり方で、あれでは続編がありますと言われても不思議ではありません。』と、思っていましたし・・・。
 今回の主人公は「螺鈿迷宮」に登場した天馬<んです。改心したのか、真面目に医者になる勉強をしているところ、東城大への復讐を果たそうと考える桜宮一族の生き残りとの戦いに巻き込まれていきます。この作品は「ケルベロスの肖像」を別の方向から、つまり天馬や桜宮側から描いたものです。起こる事実はすでに「ケルベロスの肖像」で描かれているので、目新しいものはありません。強いて言えば、「螺鈿迷宮」のラストで生き残ったのは誰か等々、宙ぷらりんになっていたものを確実なものにしたというところはあります。それに、ある二人が兄妹だったという驚きの設定も明かされます。
 2度目の『完結編』ということもあって、「ケルベロスの肖像」同様、シリーズの出演者が総登場。ファンを楽しませてくれました。でも、これで本当に完結でしょうね?
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