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鏑木蓮の本棚

  1. 思い出探偵

思い出探偵 PHP文芸文庫
 一人息子を自殺により亡くし、そのショックで心を病み、アル中になってしまった妻のために、少しでもそばにいてやろうと、警察官を辞めた実相浩二郎。彼は、退職後、「思い出に関わるものやひと、そしてことを探す手伝いをする」“思い出探偵社”を開きます。
浩二郎に依頼された捜しものは、大事な猫の遺品が入ったペンダントを拾ってくれた人、戦後直ぐの時代に米兵から自分を守ってくれた少年、集団就職で東京に出てきて勤め先から飛び出したときに元気づけてくれた女性など。60年以上も前のことがそうそうわかるかなあとは思いますが、ひとつひとつの思い出探しはなかなか読ませます。
 物語は思い出を探す浩二郎たちを描く中で、後半は事務所の事務員の橘佳菜子が高校生の頃に起こった両親殺害事件の真相が明らかになっていきます。
 その人にとって美しい思い出も、別の面から見れば連う顔を持っているかもしれません。掘り起こさなければ美しいままでいられたのに、掘り起こしたが故に現実を見ることになってしまうこともあるでしょう。思い出は生きる糧にもなりますし、逆に思い出に捕らわれすぎて前に進むことができない場合もあります。浩二郎の妻も息子の死という現実を受けいることができず、息子の思い出に捕われ、アルコールによって現実を忘れようとしたのです。この物語は、そんな妻とその夫との再起の物語とも言えます。
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