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伊藤たかみの本棚

  1. そのころ、白旗アパートでは

そのころ、白旗アパートでは 講談社
 屋根に白い旗が立っていることから、白旗アパートと呼ばれるぼろアパートの住人を主人公にした連作短編集です。
 このアパートに引っ越してきてからまったく売れない作家の加藤、家業が医者のため、無理をして兄弟と同じように医学部を目指し浪人中の藤井寺、学費を捻出するためにアルバイトに精を出し、そのため勉学が疎かになり落第を繰り返している大学生のフトシという3人を中心に彼らの仕事や家族や恋の話が語られます。
 その中ではフトシが主人公となる「あなたの馬になりたい」が一番です。居酒屋のアルバイト女性に恋したフトシが、オートバイ好きという彼女に話を合わせるために、知識を詰め込み彼女に告白しようとするが・・・。想いが破れたフトシへの加藤の心遣いが感じられるラストはよかったですねえ。
 3人とはまったく異なる事情で、アパートに住む相川のエピソード「満里奈のこんにゃく」はファンタジーです。昔好きだった女性の幽霊が白旗アパートに消えていったことから、彼女会いたさに入居を決めた相川のやるせない想いが、ちょっと悲しい1作となっています。
 ラスト、白旗アパートが壊されることで、加藤ら3人の人生のひと体みが終わることになったのでしょうか。
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