相談に応じるわけでもない、ただ単に人が話すのを聞くだけなのに、なぜか柏木くんのところには話を聞いてもらいたくて人が集まってくる。そんな生まれつき人の話を聞くのが上手な大学生の柏木くんが遭遇した4つの事件を描く連作ミステリー短編集です。
収録された4編は、学部祭の最中に起こった火事騒ぎと残された丸焦げ死体の謎を解く表題作の「聴き屋の芸術学部祭」、脚本家との仲違で結末がわからない戯曲のラストを探る「からくりツィスカの余命」、模型部の紅一点の大作を壊した犯人を探る「濡れ衣トワイライト」、サークル旅行で箱根を訪れた柏木くんと川瀬が遭遇した泥棒と逃げる彼らを追う時に発見した他殺体の謎を解く「泥棒たちの挽歌」です。この中では「からくりツィスカの余命」が個人的には一番の好みです。作中作の仕掛けに見事に騙されました。
柏木くんと一緒に謎の解明に取り組む女装すれば男も惚れるという川瀬くん、常にネガティブで幽霊のような存在の“先輩”など個性的なキャラの登場も楽しいです。コミカル・ミステリーかと思いきや、表題作では黒こげ死体が登場するし、最終話でも殺人が起きるなど、単なる日常の謎系だけではない、バラエティ豊かな作品となっています |