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市井豊の本棚

  1. 聴き屋の芸術学部祭
  2. 人魚と金魚鉢

聴き屋の芸術学部祭 東京創元社
 相談に応じるわけでもない、ただ単に人が話すのを聞くだけなのに、なぜか柏木くんのところには話を聞いてもらいたくて人が集まってくる。そんな生まれつき人の話を聞くのが上手な大学生の柏木くんが遭遇した4つの事件を描く連作ミステリー短編集です。
 収録された4編は、学部祭の最中に起こった火事騒ぎと残された丸焦げ死体の謎を解く表題作の「聴き屋の芸術学部祭」、脚本家との仲違で結末がわからない戯曲のラストを探る「からくりツィスカの余命」、模型部の紅一点の大作を壊した犯人を探る「濡れ衣トワイライト」、サークル旅行で箱根を訪れた柏木くんと川瀬が遭遇した泥棒と逃げる彼らを追う時に発見した他殺体の謎を解く「泥棒たちの挽歌」です。この中では「からくりツィスカの余命」が個人的には一番の好みです。作中作の仕掛けに見事に騙されました。 
 柏木くんと一緒に謎の解明に取り組む女装すれば男も惚れるという川瀬くん、常にネガティブで幽霊のような存在の“先輩”など個性的なキャラの登場も楽しいです。コミカル・ミステリーかと思いきや、表題作では黒こげ死体が登場するし、最終話でも殺人が起きるなど、単なる日常の謎系だけではない、バラエティ豊かな作品となっています
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人魚と金魚鉢  東京創元社 
 “聴き屋”シリーズ第2弾です。今回は死体が登場しない“日常の謎”5編が収録されています。
 冒頭の「青鬼の涙」は、大学が舞台ではないシリーズ中では異例の作品です。祖父の7回忌に父親の実家へとやってきた柏木くんの一家。そこで柏木くんは、幼かった頃、屋根裏部屋で涙をこぼしていた祖父の姿を見た過去を思い出します。なぜ祖父は泣いていたのか。柏木くんの弟と妹も登場する1編です。
 教授から聴き屋として経験した話を授業で披露してほしいと依頼された柏木くん。彼が話したのは、賭に負けて好きでもない女の子に告白したらオッケーされてしまった男の話(「恋の仮病」)。聴き屋ゆえに真実にたどり着けなかった柏木くんを描きます。
 人気の子役が収録中に突然恐慌をきたしてしまう理由を解き明かして欲しいと“フール”の先輩で芸能事務所のマネージャーから頼まれた柏木くん(「世迷い子と」)。連想ゲームのような謎解きは、ちょっとすっきりしません。
 フリーマッケットの会場で鬼ごっこを始めた“フール”のメンバーたちだったが、最後のひとりがなかなか見つからない。いったいどこに隠れたのか(「愚者は春に隠れる」)。みんなの思い込みをうまく利用して隠れたのですが、舞台が春に相応しい話となっています。
 学内発表会の日、会場のホールに泡がまかれ、急遽会場が移された講堂でも暗幕に泡がかけられるという事件が起きる。いったい誰が、何のために(「人魚と金魚鉢」)。ある人物に対する優しい気持ち故の行動だったことが明かされる、今回の5編の中で一番好きな作品です。音楽というものが繊細なものだと認識させられる話でもあります。
 今回も“フール”の面々が登場しますが、何と言っても一番のキャラは“先輩”です。幽霊のように存在感がないキャラが逆に存在感があるという不思議な人物です。「愚者は春に隠れる」で柏木くんと手錠で繋がれました、この二人の今後の行く未はまさか・・・。 
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