今年の「このミス」で第8位、推理小説研究会編の「本格ミステリ・ベスト10」で第3位となった作品である。
国際会議を控え厳戒態勢が取られる那覇空港で三人の犯行グループによる乳幼児を人質にとってのハイジャック事件が発生する。犯人の要求は警察に誘拐容疑で逮捕されている彼らの「師匠」を空港まで連れてくることだった。そんな中、人質とされた幼児の母親が飛行機のトイレで死体となって発見される。
ハイジャックされた機内のトイレという密室状況の中での殺人。これも一つのクローズド・サークルの中での殺人といえるであろう。犯人はだいたい想像がつくのであるが、その犯行の理由というのはちょっとせつない。また、それ以上に最後の結末はあまりに悲しい。最後まで結局名前が明かされない一人の乗客の青年が犯人から探偵役に指名され、事件を推理していくというところもおもしろく、初めて読んだ石持作品であるがいっきに読み進めることができた。ただ一つ言わせてもらえば、犯人たちが最後に警察の包囲から逃げ出す方法というのは、僕としては、宗教団体ではないといっていながら、やっぱり宗教と同じではないかと興を削がれてしまったのであるが。 |