音楽大学のピアノ学科を出たものの、思うような就職先が見つからないでいた森島巧。そんな彼が、遠縁の校長の口利きで、産休の音楽教諭の代わりに小学校の音楽担当非常勤講師となって過ごした1年を描いた6話からなる連作集です。
第1話では何かというと学校にクレームをつける、いわゆる“モンスターペアレント”問題、第2話ではいじめといじめられる子の家庭問題、第3話と第5話では教師の児童への対応の仕方の問題、第6話では学級崩壊と不登校の問題といったように、現在、教育現場で起こっている様々な問題が描かれていきます(第四話だけは教育の問題ではなく、教師自身の問題を描いています。)。それらの問題に対し、ほんの腰掛けのつもりで教師を始めた巧が、児童、親、同僚教師と接する中で、問題を解決しようと奔走し、苦悩し、そして普通の青年のように恋に悩み、人生に悩みながら、しだいに人間として成長していく姿は、青春物語として読み応え十分です。
そんな巧の成長物語にとどまらず、この作品は、第1話「ミスファイア」が日本推理作家協会賞短編部門の最終候補に残った作品であるように、第2話のリクガメ消失事件の謎や第3話での歌のうまい児童が歌が下手になった謎等、明らかとなる意外な真実を楽しむことができる作品ともなっています。おすすめです。 |