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井上真偽の本棚

  1. アリアドネの声

アリアドネの声  ☆  幻冬舎 
 高木春生はドローンビジネスを手掛けるベンチャー企業「タラリア」の社員。地下に建設された街プロジェクトに関わった関係で街のオープニングセレモニーの式典に参加していたが、突然大地震が発生する。障がい者にも優しいユニバーサルデザインの都市である“WANOKUNI"の象徴である、目が見えない、耳が聞こえない、話せないという3重の障害を持つ市長の姪・中川博美が避難の最中に行方不明になる。“WANOKUNI"は至る所で崩落し、人が救助に向かえないため、 ドローンを使って彼女を探し出し、最後に姿を確認された地下5階の鉄道駅の
ホームから地下3階のシェルターまで誘導しようとする。操縦を担当するのは高木。土壌からは水が溢れ出てきており、水没するまで救出に残された時間は6時間。果たして3重の障害を持つ中川博美を無事救出することはできるのか・・・。
 ドローンを使って救出をするなんて、今の時代らしいストーリーです。 ドローンで救出に向かうとしても、 3重の障害を持ち、普通の意思表示ができない博美にどうやってドローンが救出に来たことを知らせるのか、また、どういう手段で崩落し危険な状態の地下を5階から3階まで誘導するのか。時間との戦いがある中でハラハラドキドキの展開で、ページを繰る手が止まりません。幼い時に兄を海で事故で失い、自分がもう少し勇気があったらと、兄の死にトラウマを抱えている高木がこの救出劇でどう変わるのかも読みどころです。
 途中で、博美が目が見えなければできないような行動をしたことから、ネットでは彼女が障害を騙っているという情報が溢れますが、ラスト、想定外の事実が、その情報の真偽を明らかにします。これは想像できませんでした。
 題名の「アリアドネ」はギリシャ神話の有名な登場人物。迷宮に入る恋人のテセウスに脱出するための糸玉を渡したことで知られます。 
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