12人の手紙 ☆ |
中公文庫 |
手紙形式で書かれた短編集。ただし、単にそれだけの短編集ではなく、エピローグの「人質」に、それまでの12の物語に登場していた人物たちが、ホテルに閉じ込められた人質となって、再登場してくる。しかも、それまでの物語では進行中だったそれぞれの出来事について、ある決着ををつけて再登場してくる。もちろん、それぞれの物語も、趣向が凝らされていて、それだけでも面白く読める。特に第3話の様々な公式書類だけによってある女性の一生を浮き彫りにしていくのは見事としか言いようがない。 |
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吉里吉里人 ☆ |
新潮社 |
就職したばかりの頃、同じ課にいた井上ひさしファンの先輩から、おもしろいから読んでみろと言われて読んだ本である。
物語は、東北にある吉里吉里村がある日突然、日本国からの独立を宣言、驚いた日本政府はやがて自衛隊まで繰り出して独立を阻止しようとする・・・。
現在では地方分権が叫ばれ、地方は自己責任、自己決定のもと地域社会を作り上げていかなければならないとされているが、その当時はそんなことは全く考えられていなかった。地方は中央の言いなりで、3割自治のもと、中央からくる補助金を当てにして、政治家への陳情を繰り返すという構図で、誰も中央に刃向かうなどとは頭の片隅にもなかっただろう。それからすれば、この話は日本からの独立という、地方分権よりもっと過激な問題を扱っているが、遙か時代の先端を行っていたといえる。
大部ではあったが、時間を忘れておもしろく読んだ。ただ、吉里吉里弁が多く、読むのに苦労はしたが。 |
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不忠臣蔵 ☆ |
集英社文庫 |
忠臣蔵ほど日本人に愛されている話はないだろう。毎年12月となれば、忠臣蔵のドラマがテレビで放映され、、あるいは店頭にその関係の本が並ぶ。僕の家をとっても小学生の娘まで忠臣蔵といえば四十七士ということを知っている。あほ家老を装った大石内蔵助、高田馬場で有名な堀部安兵衛、そのほか不破数右衛門、大高源吾、赤埴源蔵等々名前を諳んじることができる人も多い。
しかし、赤穂藩には三百余名の藩士がいたはずである。討ち入りに参加しなかった藩士の方が多いのである。 この物語は、そうした華々しい討ち入りに行くことができなかった、あるいは行かなかった大多数の人々のドラマである。討ち入りも事実であるが、そこに参加しなかった人々の生き様も事実であり、どちらが正しいとはいえないのである。 |
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