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井上荒野の本棚

  1. リストランテ アモーレ
  2. あなたならどうする

リストランテ アモーレ  角川春樹事務所 
  「アモーレ」は偲と杏二の姉弟が経営するカウンター席だけの小さなイタリアンレストラン。物語は章ごとに偲と杏二の姉弟、常連客やその恋人だちと、語り手を変えながら、彼らの人問模様を描いていきます。
 メインキャストの杏二が、イケメンのシェフで、常に店の若い女性客をセックス相手として狙っているという男となれば、男性の読者としては、「この野郎!」と思って(嫉妬心もあって)、とても共感ができません。料理を出しながら心の中では「この女と寝たい」と
思っているなんて、男として自分の心に正直なんでしょうけど、普通、客に手を出しますかねえ。だから、あの客もこの客も彼と寝た女性というややこしいことになります。
 そんな弟に対し、弟の師匠に密かに恋をし、彼からのプレゼントを1時間も2時間も見ているという奥手な姉というのも、その歳でどうかなと思いますが。対照的な姉弟、更にはフラッと家を出て行き、気が向くと帰ってくる彼らの父親という家族関係も理解が及ばぬところです。
 最終章は思わぬ人物の登場です。秘密めいていたある人物の正体が明らかになるのですが、話の展開としては唐突な感じがしないでもありません。そもそもその人物が物語の中でどういう位置を占めていたのかもわかりません。
 各章の冒頭にメニューが載っていますが、そのメニューの最後に書かれた“罵る女”とか“ひみつが多い女”など、その章に登場する女性を表しているところがちょっとおもしろいです。料理に疎いせいで、物語の中に登場するカタカナの料理名がさっぱりわからず、どんな料理かを思い描くことがまったくできないことが残念です。
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あなたならどうする  文藝春秋 
 昭和30年代、40年代の歌謡曲をモチーフに書かれた10編が収録された短編集です。時の過ぎゆくままに、小指の思い出、東京砂漠、ジョニィヘの伝言、あなたならどうする、古い日記、歌いたいの、うそ、サルビアの花という歌の題名がそのまま題名となり(最初の「人妻ブルース」だけ誰の歌なのかわかりません。)、それぞれ冒頭にその歌詞の一節が書かれているという体裁になっています。
 取り上げられているのは、僕の世代よりもう少し上の世代の人たちの歌です。でも、沢田研二の「時の過ぎゆくままに」やペドロ&カプリシャスの「ジョニィヘの伝言」、もとまろの「サルビアの花」は子どもの頃よく聞いていて、今でも歌えます。これらの歌の歌われた時代を味わうことのできる作品なら読みたいと思って図書館から借りてきたのですが、期待していたものとはかなり違いました。わざわざ歌の題名にしなくてもなあと思ってしまいました。どれも恋の行方がさらっと描かれていて、ラストは余韻もなく終わります。「え!この後は・・・」と思う作品もあります。やっぱり思い込みで読み始めたのが間違いだったのかもしれません。楽しめませんでした。
 冒頭の「人妻ブルース」は、ネットで検索しても誰の歌か出てきません。井上荒野さんの創作? 
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