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今村昌弘の本

  1. 屍人荘の殺人
  2. 魔眼の匣の殺人
  3. 兇人邸の殺人
  4. でぃすぺる

屍人荘の殺人  ☆  東京創元社
(ちょっとネタバレ)
 第27回鮎川哲也賞受賞作です。
 明智恭介と葉村譲は神紅大学のたった二人しかいないミステリ愛好会の会長と部員。映画研究部がペンションで合宿をすると聞いた二人は、警察にも一目置かれる学生探偵の美少女・剣崎比留子の口添えで合宿に参加をすることを許される。合宿一日目の夜、部員たちは肝試しを始めたが、思いもしない事態が起こり、彼らはペンションに閉じこもらざるを得ない状況になってしまう。そんな状況の中、翌朝部員のひとりが密室の中で惨殺死体となって発見される・・・。
 明智恭介とはいかにも名探偵らしい名前ですが、葉村とのホームズとワトソンのような関係が、有栖川有栖さんの江神二郎とアリス、あるいは火村英生とアリスのコンビのようになるのかと思ったら、予想は思いもがけない展開でまったく違うことに・・・。ここは作者に梯子を外されてしまいました。
 そもそも、大学のサークルの合宿中に起こる連続殺人事件、それもクローズドサークルの中での密室殺事件とくるのですから、綾辻行人さんや有栖川有栖さんら、かつての“新・本格”を思わせるような設定で、それだけでも飛びついて読んだのですが、まさか、こんなとんでもない事態によってクローズドサークルになるとは、考えも及びませんでした。鮎川哲也賞らしい“新・本格”テイストのミステリが、まさかホラーになるとは、「え!いったいどうなるの?」と、逆にページを繰る手が止まらずいっき読みでした。ホラーテイストが加わりますが、もちろん中身はミステリです。ミステリらしい作者のミスリードもあります。ある人物の紹介は完全に深読みする読者を騙すことを目的にしていると言っていいでしょうね。僕自身、見事に騙されました。いやぁ~おもしろかったです。ミステリ好きにおすすめです。
 斑目機関によって起こされたテロ事件が、この連続殺人事件の遠因になるわけですが、最終的に斑目機関の構成員であるある人物がどうなったのかは語られていません。続編がありそうな雰囲気ですが、どうでしょうか。 
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魔眼の匣の殺人  ☆  東京創元社 
 デビュー作「屍人荘の殺人」が第27回鮎川哲也賞を受賞したのを始め、「このミステリーがすごい!」、「週刊文春ミステリーベスト10」、「本格ミステリ・ベスト10」でそれぞれ第1位を獲得するという偉業を成し遂げた今村昌弘さんの第2作です。
 ペンション「紫湛荘」での連続殺人事件、そして死者数千人という大惨事となった娑可安湖事件の3カ月後、生還を果たした葉村譲と剣崎比留子は事件の黒幕ともいえる正体不明の組織“斑目機関”に関する情報を探していたが、葉村が友人からの情報でオカルト雑誌「アトランティス」に、その名前が掲載されていることを知る。その記事にあった班目機関の研究施設があったという情報を確かめるため、葉村と比留子はW県の好見地区に向かう。バスを降り、同じバスに乗っていた高校生の十色と茎沢の二人と一緒に村を訪ねるが、村人の姿は見えず、途中で出会ったツーリングに来ていてガス欠になった王子、墓参りに来たという元村人の朱鷺野、車が故障したという師々田とその息子の純の親子とともに、朱鷺野の案内で村の最も奥にある“魔眼の匣”と呼ばれるかつての班目機関の研究施設だった建物に向かう。そこには、未来を予知する能力を持っているとされる老女・サキミが住んでいた。サキミはこの月末の2日間にこの地で男女二人ずつ、計4人が死ぬと予見しており、それを恐れた村人たちは村から離れていることが分かる。やがて、外部と繋がる川に架かる橋が何者かによって燃やされ、葉村らはサキミの取材に来ていた「アトランティス」の記者・臼井とサキミの世話をする神服とともに、外部から孤立してしまう。やがて、サキミの予言通りに滞在者のひとりが死ぬ事件が起きる・・・。
 「屍人荘の殺人」では、特殊な状況下で“クローズド・サークル”が作られ、更にその特殊状況であるがゆえの密室殺人事件が起きましたが、この作品では同じ“クローズド・サークル”でも、外部と繋がる橋が燃え落ちたことによってできたものであり、その点は前作と比べておとなしい設定だなと感じてしまいます。ただ、この作品では“クローズド・サークル”での殺人という本格ミステリの形を取りながら、一方、すでに4人が死ぬという予知の結果が出されており、この相容れそうもない二つの組み合わせを両立させる比留子の謎解きに、前作ほどの衝撃度はないものの、驚かされます。“クローズド・サークル”という限られた人々しかいない空間の中で、なぜ殺人が起きたのか、いわゆる殺人の動機にはびっくりです。
 終章で明らかとなる事実に更にびっくり。ここに至って、叙述トリック、というか作者の読者へのミスリーディングの仕掛けが施されていたのがわかります。勝手にこちらが思い込んでいたのですけどねえ。やられました。
 ラストでは続編があることが仄めかされているので、今度はどんな手で驚かせてくれるのか、期待して待っていたいと思います。 
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兇人邸の殺人  ☆  東京創元社 
 「屍人館の殺人」「魔眼の匣の殺人」に続くシリーズ第3弾です。ゾンビ、預言と班目機関の研究成果が登場した前2作でしたが、今回登場するのは、並外れた身体能力を持つ巨人です。
 剣崎比留子と葉村譲は成島IMS西日本の社長である成島の依頼を受け、班目機関の元研究者・不木が運営する“廃墟”をテーマにしたテーマパーク内にある屋敷“兇人邸”にパークの従業員であるグエンを道案内にして成島とその秘書の裏井、そして成島が雇った6人の傭兵とともに乗り込む。同じころフリーライターの剛力も邸の中に潜入する。しかし、そこで彼らに襲い掛かってきたのは隻腕の巨人。銃弾にも倒れない巨人によって、グエンと、傭兵のコーチマンとチャーリーが首を切断されて殺害され、皆はそれぞれ逃げるが、翌朝葉村は剣崎の姿が見えないことに気づく。また、逃げたはずの不木も殺害死体となって発見される。邸は中から鍵をかけられており、その鍵を持っていたコーチマンは巨人によって殺害され、死体には巨人のいるところを通らなければ近づくことができなかった・・・。
 隻腕の巨人が大鉈を持って次々と首を切り落とすというパニックホラーのようなシーンからは第1作の「屍人荘の殺人」が思い起こされますが、やはり謎解きは論理的で本格ミステリファンの期待を裏切りません。鍵がかけられた館で、鍵を取りに行く先には首切り巨人が待っているというある意味“クローズドサークル”の中の話は本格ミステリファンには嬉しい前2作と同じ設定です。
 首切り巨人以外にも殺人者がいて、この殺人者は誰なのかが謎となるのですが、ところどころに挿入される班目機関の実験の被験者となっている子どもたちの話で、巨人とは別の被験者の子どもだということが読者には示されます。ただ、ここで作者は読者をミスリードしていくんですよねえ。
 今回は剣崎が葉村と行動を共にすることができない状況に追いやられるため、いわゆる“安楽椅子探偵”としての活躍ですが、ラストの脱出劇のところを読むと、この作品で剣崎と葉村の関係が一歩進んだと言えるのではないでしょうか。
 ラスト、兇人邸から無事脱出した剣崎と葉村はある人物と再開します。果たして彼はどうして二人の前に姿を現したのか。次作が待ち遠しいです。 
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でぃすぺる  ☆  文藝春秋 
 小学6年生の男の子と二人の女の子が主人公のジュブナイルです。
 ユースケは2学期のクラスの係を決める際に人気のない掲示係に立候補する。オカルトが好きなユースケは、掲示の壁新聞に自分の好きなオカルトをテーマに、思う存分書こうと思っていた。しかし、なぜか委員長になると思っていた優等生のサツキも掲示係に手を挙げる。更に1人、法事で学校を休んでいて係決めに参加できなかった4月に転校してきたミナも係に加わることとなる。サツキが掲示係に立候補したのは昨年のお祭りの日の前夜に会場のグラウンドで亡くなっていたサツキの従姉のマリ姉の事件が未解決となっていたから。マリ姉はパソコンの中に「奥郷町の七不思議」のファイルを残しており、オカルトに興味のなかったマリ姉がこのファイルを残したのには事件に関わる何か理由があるのではと考え、オカルト好きのユースケを巻き込んで調べようと思ったからだったが・・・。
 雪が降り積もった中、グラウンドの真ん中に倒れていたマリ姉。雪の地面には発見した人の足跡しかないとなれば典型的な本格ミステリの舞台の設定です。ところが、ユースケは七不思議の現場で黒い影を見たり、体調を崩したりと、オカルトらしい現象にも遭遇します。幽霊はいる、怪奇な現象はあるという点から事件を推理するユースケと幽霊などいない、怪奇現象などないとして現実的・論理的に事件を推理するサツキ、そしてその二人の主張を判断するミナというコンビで事件を調べていきます。小学生にしてはきちんとした考えを持ち過ぎという嫌いはありますが、他人に尋ねるのに、誰が聞く?と3人が躊躇するのは小学生らしく微笑ましいですね。
 本の帯に「はたして本格ミステリか、オカルトか?」と書かれてあります。ラスト、まさかこちらの方向に舵が切られるとは予想しませんでした。
 事件とは直接関係ないのですが、ミナの不思議な行動の理由も最後には明らかとなり、運動会で自分に対するみんなの思いを一気に吹き飛ばすエピソードは泣かせます。
 題名の「でぃすぺる」とは、「追い散らす、(心配などを)払い去る、(闇などを)晴らす、一掃する」という意味だそうです。 
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