▲トップへ   ▲MY本棚へ

生馬直樹の本棚

  1. 夏をなくした少年たち
  2. 雪と心臓

夏をなくした少年たち  新潮社 
 第3回新潮ミステリー大賞受賞作です。
 新潟県の片田舎に住む小学6年生の拓海、啓、雪丸、国実の4人は小学生最後の夏、思い出づくりのため花火大会の夜に立入禁止の山に登ることを計画する。当日、国実が4歳の妹を連れてきたことから、彼らはその後の人生に重くのし掛かる大きな事件に遭遇することとなる・・・。
 物語は、冒頭で現在の時点におけるある男の殺害事件が簡単に語られ、そこから時点はいっきに20年前に飛び、小学6年生だった拓海らの生活と彼らが遭遇した事件が描かれていきます。
 4人の男の子の冒険となると、映画の「スタンド・パイ・ミー」が頭に浮かんでくるのですが、この物語で起きる事件は後々子どもの頃を振り返って、郷愁を呼び覚ますような出来事ではありません。心に重くのし掛かって、できれば忘れ去りたい、なかったことにしたい出来事だったでしょう。
 小学6年生といえば、女の子の身体的・精神的成長に比べ、男の子はまだまだ幼い年頃。その中では大人びていて勉強もでき、女の子からも好かれる啓、肥満体で人を思いやることも知らない自分勝手な、そういう意味では4人の中では一番幼い雪丸、他人を客観的に見ながらも、自らの意見をはっきり言えない拓海、妹思いで性格が優しく、4人の中では一番目立たない国実、という4人の男の子たちの姿が鮮やかに描かれています。
 現在の事件と20年前の事件の真相については、読み進めるうちに想像できてしまうのですが、20年前の事件のそもそものきっかけは、子どもたちには何ら責任のないものであり、あまりに悲しすぎる結果です。ある登場人物の行動はまったく理解できないし、それを知った人物がどれほど苦しんだことでしょう。
 子どもの頃、あんなに遊んだのに、大人になって行き来もなくなるなんて、そういうものだと思いながらも、ちょっと悲しいです。 
 リストへ
雪と心臓  ☆  集英社 
 クリスマスの夜、子どもが取り残された火事で燃える家に、車で通りかかった若い男が飛び込んで子どもを助け出す。ところが、男は助けた子どもを母親に手渡さず、自分の車に乗せて走り出してしまう。いったいなぜ彼はそんな行動を取ったのか。猛スピードで逃げる男の車をパトカーが追うが、やがて・・・。
 冒頭、ヒーローから誘拐犯へと変わった男の話で始まる物語は、そんなミステリ的なプロローグがあったとは思わせない、一転して二卵性双生児の姉を持つ里井勇帆の小学校5年生から高校生までの話が語られていきます。
 主人公・勇帆以上に目立つのが、勇帆の姉・帆名です。とにかく、そのキャラクターが強烈です。ゲームにしか秀でるものがなかった勇帆と異なり、勉強も運動もできる帆名ですが、優等生とはまったく違う、勝ち気で口は悪いし、相手が大人であろうと悪いと思ったら徹底的に抗戦するという、大人からすれば手を焼く女の子。勇帆に対してはきつく当たる帆名でしたが、勇帆の大切にしていたおもちゃを捨てたふりをして勇帆の友達に見つけたふりをさせたり、高校生の時は勇帆から金を脅し取ったワルのバイクを壊したりと、実は弟思いの面を持っている素敵なキャラでもあります。こんな強烈なキャラの姉に加え、子どもに愛情を感じているかわからないような父親と、そんな父親から心の離れていく母親を持った勇帆の、友情あり、恋もありの成長物語が語られていきます。
 そしてラスト、再び少女を連れ去った男の話へと戻りますが、ここで思わぬ事実が語られ、連れ去り犯の男と勇帆の話が繋がっていきます。「あ~だから勇帆が小学五年生だった頃に始まり、中学生、高校生と青春期を歩む姿が断片的に描かれていったんだ!」と納得します。青春物語からミステリへと転じるあまりに哀しいラストですが、一筋の光も見えるといっていいのでしょうか。 
 リストへ