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生馬直樹の本棚

  1. 夏をなくした少年たち
  2. 雪と心臓
  3. フィッシュボーン
  4. 連鎖犯

夏をなくした少年たち  新潮社 
 第3回新潮ミステリー大賞受賞作です。
 新潟県の片田舎に住む小学6年生の拓海、啓、雪丸、国実の4人は小学生最後の夏、思い出づくりのため花火大会の夜に立入禁止の山に登ることを計画する。当日、国実が4歳の妹を連れてきたことから、彼らはその後の人生に重くのし掛かる大きな事件に遭遇することとなる・・・。
 物語は、冒頭で現在の時点におけるある男の殺害事件が簡単に語られ、そこから時点はいっきに20年前に飛び、小学6年生だった拓海らの生活と彼らが遭遇した事件が描かれていきます。
 4人の男の子の冒険となると、映画の「スタンド・パイ・ミー」が頭に浮かんでくるのですが、この物語で起きる事件は後々子どもの頃を振り返って、郷愁を呼び覚ますような出来事ではありません。心に重くのし掛かって、できれば忘れ去りたい、なかったことにしたい出来事だったでしょう。
 小学6年生といえば、女の子の身体的・精神的成長に比べ、男の子はまだまだ幼い年頃。その中では大人びていて勉強もでき、女の子からも好かれる啓、肥満体で人を思いやることも知らない自分勝手な、そういう意味では4人の中では一番幼い雪丸、他人を客観的に見ながらも、自らの意見をはっきり言えない拓海、妹思いで性格が優しく、4人の中では一番目立たない国実、という4人の男の子たちの姿が鮮やかに描かれています。
 現在の事件と20年前の事件の真相については、読み進めるうちに想像できてしまうのですが、20年前の事件のそもそものきっかけは、子どもたちには何ら責任のないものであり、あまりに悲しすぎる結果です。ある登場人物の行動はまったく理解できないし、それを知った人物がどれほど苦しんだことでしょう。
 子どもの頃、あんなに遊んだのに、大人になって行き来もなくなるなんて、そういうものだと思いながらも、ちょっと悲しいです。 
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雪と心臓  ☆  集英社 
 クリスマスの夜、子どもが取り残された火事で燃える家に、車で通りかかった若い男が飛び込んで子どもを助け出す。ところが、男は助けた子どもを母親に手渡さず、自分の車に乗せて走り出してしまう。いったいなぜ彼はそんな行動を取ったのか。猛スピードで逃げる男の車をパトカーが追うが、やがて・・・。
 冒頭、ヒーローから誘拐犯へと変わった男の話で始まる物語は、そんなミステリ的なプロローグがあったとは思わせない、一転して二卵性双生児の姉を持つ里井勇帆の小学校5年生から高校生までの話が語られていきます。
 主人公・勇帆以上に目立つのが、勇帆の姉・帆名です。とにかく、そのキャラクターが強烈です。ゲームにしか秀でるものがなかった勇帆と異なり、勉強も運動もできる帆名ですが、優等生とはまったく違う、勝ち気で口は悪いし、相手が大人であろうと悪いと思ったら徹底的に抗戦するという、大人からすれば手を焼く女の子。勇帆に対してはきつく当たる帆名でしたが、勇帆の大切にしていたおもちゃを捨てたふりをして勇帆の友達に見つけたふりをさせたり、高校生の時は勇帆から金を脅し取ったワルのバイクを壊したりと、実は弟思いの面を持っている素敵なキャラでもあります。こんな強烈なキャラの姉に加え、子どもに愛情を感じているかわからないような父親と、そんな父親から心の離れていく母親を持った勇帆の、友情あり、恋もありの成長物語が語られていきます。
 そしてラスト、再び少女を連れ去った男の話へと戻りますが、ここで思わぬ事実が語られ、連れ去り犯の男と勇帆の話が繋がっていきます。「あ~だから勇帆が小学五年生だった頃に始まり、中学生、高校生と青春期を歩む姿が断片的に描かれていったんだ!」と納得します。青春物語からミステリへと転じるあまりに哀しいラストですが、一筋の光も見えるといっていいのでしょうか。 
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フィッシュボーン 集英社 
 父親がヤクザの組長の陸人、親から虐待を受け養護施設暮らしの航、父親が殺人犯で服役中の匡海の3人は周囲の者から距離を置かれる境遇だった故、自然に仲良くなる。彼らはいつか「教える人か正す人になろう」と決心し、そのために非合法な手段で金儲けをしてきたが、放火事件でそれを失ってしまう。手っ取り早く金を得るため3人は誘拐事件を計画し、製薬会社の社長の娘を誘拐するが、金を脅し取る前に予想外の出来事が起きてしまう。それから5年後、山中から男の白骨死体が見つかり、刑事の柳内は捜査に携わることになる・・・。
 第2章では、誘拐事件のその後と柳内の捜査が犯罪被害者でもある柳内の娘のことも語られながら進みます。予想外の出来事を乗り切るために彼らが考えた計画が突拍子もなく、衝撃的な展開となります。
第3章は解決編。他の章に比べて短い僅か50ページほどですが、ここで明かされる真相は読み応え十分です。見事にやられましたねえ。
 ラストは海で泳ぐ14歳の3人の描写で終わりますが、青春時代の思いは大人になるにつれ変わってしまうものなのでしょうか。悲しいですね。
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連鎖犯  光文社 
 夜9時過ぎにコンビニに行ったひとり親家庭の中学1年生の戸川凛と小学6年生の翔の姉弟が誘拐される。犯人から母親・尚子に対し500万円の身代金の要求があり、警察は別れた元夫などを調べたが犯人は絞り込めず、やがてなぜか姉弟は開放され、犯人は姿を消す。事件後、報道番組のコメンターであった勝上沙月が事件が起きた責任は夜に子ども二人でコンビニに行かせた母親にあると声高に叫んだことから、尚子に対するパッシングが起きる。そうした中、廃ビルから墜落した尚子の死体が発見され、パッシングを苦にした自殺とされる。それから7年後、今度は勝上沙月が路上で刺殺死体となって発見される・・・。
 物語は、母親の死に対する姉弟の復讐ではないかという点をメインにして進んでいきます。連鎖犯という題名が表すように、自分勝手な考えで始まった事件が、別の人の自分勝手な考えを引き出し、更にはまた別の人の自分勝手な考えを引き出していくという構図になっています。最後に明らかになる犯人の身勝手さには、「もう少しきちんと考えろよ」と言ってやりたくなります。この物語では、彼の思い通りになりましたが、通常はそうなる可能性は相当低いのではと思ってしまいます。こんな不確かな動機で罪を犯すのでしょうか。 
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