伏尾美紀の本棚

北緯４３度のコールドケース　　☆	講談社
第６７回江戸川乱歩賞受賞作です。　３歳の女児が母親が目を離したすきに何者かに自宅の庭から連れ去られる。やがて犯人から身代金の要求があるが、札幌駅での身代金の受け渡しの際、犯人の男と捜査員はもみ合いとなり、犯人はホームから線路に転落し、電車に轢かれて死亡、その後女児は発見されず事件は迷宮入りとなった。それから５年後、空き巣で逮捕された男の口から倉庫の中で女児の死体を見たと供述があり、現場に向かった中南署の沢村警部補らは死体を発見、ＤＮＡ鑑定の結果、誘拐されて行方不明になっていた女児であることが分かる。警察は女児の死体を運んできた者の行方を探すが、発見に至らず、事件は未解決のままとなる。この捜査のとき、沢村は部下でありベテラン捜査員・瀧本の頼みで、捜査方針に反した捜査を行い、それが知れて捜査本部から外されたが、瀧本は沢村をかばわなかったことから、以降沢村と瀧本との間は疎遠になっていった。それから１年半が過ぎ、沢村は創成署生活安全課防犯係長となっていたとき、週刊誌に誘拐事件に関わる警察の捜査資料が外部に漏洩しているという記事が掲載されたことから、警察は内部調査を開始し、５年前の捜査に当たった沢村も調査対象者となる。その直後、沢村の元にも事件の捜査資料が送られてくる。果たして、彼女の元に資料を送ってきたのは誰なのか。誘拐事件の真相は・・・。　主人公・沢村警部補は国立大学の大学院で博士号を取得しながら、恋人がアカハラで自殺したことで学問の世界に嫌気がさして大学院を辞め、たまたま採用試験があった警察を受けて３０歳で警察官になった女性。博士号を持った女性刑事という主人公は、他の警察小説ではちょっと聞いたことのないキャラです。果たして沢村警部補が姫川玲子のようなシリーズキャラになれるのか、また、部下である足立や寺島が姫川玲子の部下であった菊田らと同じようにそれなりのキャラとして描かれていくのかは、続編に期待です。　そのほか、ノンキャリアで道警の中で一番早く出世街道を走り、今回漏洩調査の担当者となる片桐警視や、いわゆる人権派女性弁護士である兵頭百合子など気になるキャラは登場したものの、それほどの出番はなくキャラとしてもったいない使い方だった気がします。彼らは続編があればまた登場する可能性がありますが、彼ら以上にもったいなかったのは、沢村が担当した別事件の管理売春の真犯人と思われた女性のキャラです。沢村に対峙する犯人の女性として使ってほしかった気がします。　時系列でストーリーが展開しているわけではないので、読みにくい部分もありましたが、犯人が死亡、被害者の女児は５年後に死体で発見という特異な誘拐事件であったとともに、最後に明らかになる犯人の異様な性格になかなか面白く読むことができました。
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数学の女王	講談社
第６７回江戸川乱歩賞を受賞した「北緯４３度のコールドケース」の続編です。　前作の事件の影響からか、道警本部警務部に異動になった沢村に、捜査一課長から今から捜査一課に配属になり、事件の現場に向かうよう命令が下される。事件は、札幌市内に新設された大学で爆破事件が発生し、死亡者が出たというもの。爆弾は女性の新学長あてに送られてきた荷物に仕掛けられていたため、学長を狙ったものではないかと考えられた。捜査の過程で、一時は学長の最有力候補に挙げられながら、政府の横やりで学長に着けずに副学長となった数学博士の三島教授が浮かび上がってくる。彼は当日休暇を取っていたが、家政婦によってアリバイがあったことが証言される。しかし、その後、現場近くの生垣の中から発見された懐中時計が、三島が若き頃に所属していた研究室で記念で作ったものであることがわかったことから、沢村たちは三島への疑惑を強く持つが・・・。　主人公の沢村依理子警部補は国立大学の大学院で博士号を取得しながら、恋人がアカハラで自殺したことで学問の世界に嫌気がさして大学院を辞め、たまたま採用試験があった警察を受けて３０歳で警察官になったという博士号を持ちながらもノンキャリアの警察官という異色のキャラです。　物語は、班長として様々な年齢や背景を持つ部下たちをどう指揮していったらいいのか悩みながら捜査をする沢村が描かれていきますが、ここで沢村が、そして私たち読者もとらわれるのが、“ある”バイアスです。はっきり書いてしまうとネタバレになってしまうのですが、今の時代であってさえ、やはりそう思ってしまうのですよねえ。　　ラスト、爆弾事件で二人の女性が犠牲になったという沢村の言葉に、犯人は、あれが革命だった、虐げられ、不当に扱われてきた〇〇が（ネタバレになるので伏せます。）起こした革命だ、革命には犠牲がつきものだ、と答えます。結局、自分が正しい、自分がしたことで他人が犠牲になっても仕方がないと考える最低な人物でしたね。　ノンキャリアで道警の中で一番早く出世街道を走り、前作で漏洩調査の担当者だった片桐警視も再登場。彼もなかなか気になるキャラですね。　この作品で、恋人の自殺と区切りをつけたようですし、次作は沢村の新しい展開が見られるかもしれません。　※多くの書評にあったように、ミステリでありながら、あるものに犯人を指し示すようなネタバレがありましたね。
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