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古内一絵の本棚

  1. キネマトグラフィカ

キネマトグラフィカ  東京創元社 
 まだ世の中がバブルの時代であった平成元年に老舗映画会社・「銀都活劇」に入社した同期社員、北野咲子、水島栄太郎、仙道和也、葉山学、小笠原麗羅、小林留美の6人。バブルが弾け、時代は昭和から平成へと移る中で、地方の映画館はシネコンに押されて閉館が続き、映画の上映自体もフィルムプリントからデジタルに変わるという大きな変化の中で、それぞれに生きる彼ら6人が描かれます。
 冒頭の舞台は2018年、彼らが50代となり、今では会社を辞め、群馬の映画館の婿に入った水島の経営していた「桂田オデヲン」の閉館の日。6人は思い出の映画を鑑賞しながら入社4年後に起きた"ケヌキ"に思いを馳せます。縁故入社の帰国子女で国際部に配属となった麗羅と欠員補充で総務課に配属された留美以外は営業部に配属され、ローカルセールスとして全国の映画館を営業して回っていた。そんなある日、学のミスから彼らはケヌキと呼ばれる、上映終了後にすぐに次の映画館にセールス自身の手でフィルムを送るという綱渡りのリレーをすることとなります。
 物語は、“ケヌキ”の発端から到着までを、結婚して子どもを産むことが幸せだと考え、会社は腰掛だとする留美、映画好きで国際映画祭で受賞するような作品に携わりたいと考えて入社をしたのに現実に打ちのめされる栄太郎、平々凡々としたつまらない大人になるのはごめんだと少しだけ人と違う道を目指したいと思う和也、人生は楽に明るく、目立ちたいけど主役にはなりたくないと考えて生きてきた学、業界初の女セールスだと、女性であることに注目されることに自分を納得させられない咲子、前近代的な映画会社の雰囲気を嫌い、帰国子女らしくはっきりと自己主張をする麗羅の6人をリレー形式で描いていきます。
 6人の中での異性に対する想いや、学のように表面的な軽薄さの裏に隠された思いなど、それぞれの心の内が描かれていきますが、その中でも中心となるのは悦子でしょう。初の女セールスから制作部に移ってもママさんプロデューサーといったように女性であることが注目されることに苦悩する悦子の姿に、働く女性の読者の方は自分を重ねることができるかもしれません。そんな悦子が息子の言葉に揺れるのも無理ありませんね。
 “ケヌキ”の1992年から現在の2018年の間のことが語られていませんが、そこは読者の想像で補うところでしょうか。 
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