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降田天の本棚

  1. 女王はかえらない
  2. 偽りの春 神倉駅前交番狩野雷太の推理

女王はかえらない  宝島社 
 (ちょっとネタバレあり)
 第13回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した作品です。作者の降田天さんは、実は女性二人のペンネーム。一人がブロットを考え、一人が執筆を担当しているそうです。かつての岡嶋二人さんのようです。
 3年1組のクラスではマキを頂点にカースト制のような上下関係が作り上げられ、マキが女王として君臨していた。ところが4年になって東京からエリカが転校してきたことにより、マキを頂点としていたカースト制度は崩れ、クラスはマキとエリカのグループに分かれて対立する。更にはある出来事からマキが孤立し、みんなからいじめを受けるようになる中で、祭りの夜の日に事件が起きる。
 第1章「子どもたち」ではどちらのグループにも属さない“おっさん”と呼ばれる子が語り手となっていますが、この子が小学生にしてはあまりに大人びており、というか賢すぎて子どもとは思えない違和感があります(書き手も読み手も大人なのでしょうがないのでしょうけど。)。
 第2章「教師」に入って語り手が真琴という女性教師になったところで、ミステリーに慣れている読者にはこのストーリーには仕掛けが施されていることがわかります。でも、正直のところ、読者を騙そうと繰り出された様々な仕掛けが、やり過ぎる嫌いがあります。あまりにご都合主義のところが目立ちます。何を言ってもネタバレになるので、詳しく書くことができないのですが、メインのトリックはちょっとズルいなあと思います。なぜそうなのかの理由がありましたが、あまり納得いかないなあ。終盤までそのトリックがわからなかったのは作者側からすれば成功なんでしょうけど。
 事件が発覚しないのも納得いかないところ。警察はまず間違いなくそこを捜索しますよ。犯人たちも口を噤んでいられるほど、そんなに精神的に強くないでしょう。叙述トリックを仕掛けるにしても、何もかも都合良すぎと思うのは僕だけかなあ。
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偽りの春 神倉駅前交番狩野雷太の推理  角川書店 
 サブタイトルにあるように、この作品は、「神倉駅前交番」に勤務する警官「狩野雷太」が事件の謎を解く5編が収録された連作短編集です。ミステリの形式としては、一編を除きいわゆる倒叙ミステリと呼ばれるもので、その形式では有名なテレビドラマの「刑事コロンボ」や「警部古畑任三郎」同様、最初に犯人側の視点で事件が描かれ、その後に現れた狩野雷太によって謎が明らかにされるという形になっています。
 刑事コロンボも、見た目は、よれよれのコートを着て風采の上がらない外見で、最初は犯人を安心させ、次第に追いつめて行くのですが、この作品の狩野雷太も同様で、外見は、冒頭の「鎖された赤」の犯人によれば、「にこにこというより、へらへらしている」「表情にも口調にも締まりがなく」「どこか軽薄な印象を受ける」といった感じです。ところが、この狩野は、元は刑事で取り調べを得意とし、「落としの狩野」と呼ばれていたが、ある事件のために交番勤務へ左遷されたという経歴の持ち主であることが明かされます。
 5編の中では個人的には冒頭の「鎖された赤」が一番です。少女を監禁したいという欲望を持つ大学生が、認知症で施設に入ることとなった祖父の家の倉に誘拐してきた少女を監禁するが、倉の鍵をなくしてしまい、神倉駅前交番に落とし物として届いていないかやってくることにより、狩野に犯行を知られることとなります。この作品は、犯人の大学生との会話の中から事件の匂いをかぎ取る狩野の優秀さよりも、その後のもうひとひねりが見事でした。
 もう一編おもしろかったのは、表題作で第71回日本推理作家協会賞短編部門受賞作品でもある「偽りの春」です。主人公の老女、水野光代は老人を欺す詐欺グループの主犯だったが、仲間の2人が騙し取った金を持って逃げてしまう。更に、郵便受けに彼女がやったことを黙っていてほしければ1000万円を用意しろという脅迫状が入る。光代は詐欺のターゲットとして目をつけていた認知症の男の家にヘルパーを装って侵入して1000万円の金を盗んで家を出たが、そこにたまたま通りかかった狩野に声をかけられ、やがて犯行を自供せざるを得ない状況に追い込まれていきます。この作品も光代の犯行のほかにもう一つの事実が明らかになるのですが、これがちょっと年寄りの光代にはかわいそうな結末になりました。
 「名前のない薔薇」は、泥棒である男が好きな女の願いで、ある物を盗んで彼女の家にそっと置いて去るが、その後逮捕され、刑期を終えて戻ると、彼女は男が盗み出した物を使って、名声を得ていたという話です。果たして、彼女は男を愛していたのか、それとも目的のため男を利用しただけだったのか。倒叙形式ですが、犯人側の視点が男と女の二人の視点で描かれます。
 「見知らぬ親友」は、同居する友人が駅のホームで押され線路に落ち怪我をしますが、犯人は主人公ではありません。犯人側の視点がこの作品にはありませんから、これは倒叙ミステリではありませんね。
 「サロメの遺言」は、前の「見知らぬ親友」と登場人物がダブります。狩野が刑事から交番勤務になった理由が語られ作品です。 
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