福井晴敏さんの6編からなる初めての短編集です。なかの「断ち切る」を除いては、主人公たちはどれも自衛隊の情報局の職員です(もしくは過去そうであった。「断ち切る」にしても、主人公は一般人であっても、登場してくるのは自衛隊の情報局員です。) 情報局員ですから、当然のことながら日の当たるところで堂々と名乗れる立場ではありませんし、厳しい環境の中で活動するということで、みな心の中に闇の部分を抱えています。この作品集は、そんな人たちを描いた作品集です。
以前なら日本で暗躍するスパイといえば、CIAにKGBでしたが、ソ連邦が崩壊し、そのうえに日本人の拉致事件が明らかとされて、登場してきたのは北朝鮮です。実際に日本人を拉致していた工作員がいるのですから、平和を満喫していた日本人にとっては衝撃だったでしょう。今まではスパイなんて映画の007くらいにしか考えつかなかったのに、現実が顔の前に突きつけられた感じです。したがって、今では福井作品で描かれる世界が絵空事でないことがわかります。この作品に登場してくる主人公たちのような情報局員も自衛隊には実際にいるかもしれませんね。
最後の「920を待ちながら」には、なんと福井さんの某作品で重要な役割を演じたある人物が登場します。 |