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福田和代の本棚

  1. TOKYO BLACKOUT
  2. スクウェアT
  3. スクウェアU
  4. オーディンの鴉
  5. 東京ダンジョン

TOKYO BLACKOUT 創元推理文庫
 送電施設を破壊するテロ事件が相次ぎ、東京都は必要電気量が足りない状況に陥る。テロリストからの要求がなされない中、東都電力の担当者は輪番停電という方策で都全体が停電になることを防ごうとするが・・・。
 3月の東日本大地震による原子力発電所の罹災がもたらした電力不足で、初めて知った輪番停電という言葉が、すでに3年前にハードカバーで発売していたこの本で描かれているとは驚きです。今回の震災がなければ、輸番停電という言葉も知らなかったでしょうし、本を読んでいてもあまり切実に実感ができなかったでしょう。
 次々に行われる犯人たちの犯行と、それに対応する東都電力の職員たちの必死な働きに、ページを繰る手が止まりません。犯行の背景にある外国人労働者問題や現代的な犯罪など、現在の日本の暗部も描かれており、非常に興味深く読むことができます。
 ただ、残念なのは、犯人たちの結びつきがあまりに簡単に行われたこと。あれだけ、境遇の異なる者同士が、たまたまの出会いからあれだけの大きな犯罪を協力して起こすほど結びつくのか疑間です。
 また、犯行動機も理解できないわけではありませんが、彼らの犯行により何ら罪のない人が命を奪われたことを考えると、そこに思いが至らない犯人に共感することはできませんでした。
 作品中の電力会社の人たちも、どうにか停電を防ごうと昼夜を問わず働いていましたが、現実もあんな状況だったのでしょう。
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スクウェアT 東京創元社
 「デッドエンドストリート」と名付けられた行き止まりの路地にあるショットバー「スクウェア」。その店にたまたま入った大阪府警薬物対策課の三田が、バーテンダーのリュウ、店の常連で元ボクサーの宇多島との関わりの中で麻薬事件を捜査して行く様子を描いていきます。
 冒頭の「スクウェア」では、所属する芸能事務所から逃げ出してきた女性歌手を助けたことから「スクウェア」のリュウとの関わりが始まった経緯が語られます。このリュウというバーテンダーの謎めいたキャラクターがこの作品の魅力の一つとなっています。
 「ザ・リヴァー」では、三田が、若者を手足にして違法ドラッグ売買を行ってる暴力団員を捜査しているさなか、かつて麻薬に手を出し、有名大学生から耘がり落ちた男が、刑務所を出所後、三田の周辺に現れるようになります。ここでは、リュウが思わぬ関わり方をします。
 3話目の「スクランブル!」は、幕間劇のようなショートストーリー。前2作と異なり、三田ではなく彼の後輩の大迫を主人公にしており、リュウも登場しないコメディ系の話となっています。
 「チョイス」は、宇多島に関わる話となっています。宇多島の元妻が覚醒剤使用で逮捕される中、リュウと宇多島のとった行動は警察を出しぬくもの。宇多島とやくざの男のそれぞれの思いがぶつかり合うラストが読ませます。
 「デイイン、デイアウト」は、宇田島が経営する店が放火される事件が起き、大迫が犯人を捕まえようとして重傷を負います。この事件に対し、リュウと宇多島がとっら行動は・・・。
 「バナナズ!」は、再び大迫を主人公にした話となっています。なかなか一人前の刑事にならない大迫を描く、これまた軽いタッチの作品となっています。
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スクウェアU 東京創元社
 同時刊行された「スクウェアI」の続編です。
 全体を通して描かれているのは、麻薬がらみの事件とその事件の裏に見え隠れするリュウと宇多島の姿ですが、今回、Iでは謎のままだったリュウの正体と、同時になぜリュウがこれらの事件に関わってきたのかが明らかとなります。 
 しかし、リュウが事件に関わってきた理由が明らかにされるにしては、あっけない幕切れという思いを抱かざるを得ません。リュウの思いは、あんなことで昇華されるのでしょうか。
でも、反面このラストであれば、物語はまだ続けることができます。宇多島の店の店長を務める棟方や、スクウェアの2階のゲイバー「ギャルソン」のママおけい、三田の同僚の桜井ら印象的なキャラがまだまだいますので、彼らのキャラをもっと掘り下げることができるストーリーが今後あってもいいのではないでしょうか。
 メインストーリーとは関係のない「赤ちゃんに乾杯?」は、そういう点では、おけいの別の顔を見ることができて、楽しい1編となっています。
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オーディンの鴉 朝日文庫
 東京地検特捜部が贈収賄事件で家宅捜索を予定していた朝に、対象者の国会議員が自殺し、捜査は頓挫する。捜査担当の検事・湯浅は同僚の安見から、議員の個人情報がインターネット上に晒されていたことを聞く。議員の自殺の原因がここにあったのではないかと調べ始める湯浅だったが、やがて彼の元に脅迫めいた写真が届けられる。
 オーディンとは北欧神話の主神であり、フギンとムニンというカラスに世界中の情報収集をさせていたとされます。今ではインターネットが発達し、座っていても世界のどこの情報も手に入れることができます。また、そこかしこに個人情報は氾濫しており、いつ自分の情報が漏れるのか恐ろしい状況にあるといっても過言ではない気がします。
 この作品で描かれる個人情報の漏洩は、よくある個人の住所・メールアドレスやカード情報に止まらず、街中にある監視カメラを利用した個人の行動内容までですから、単なるハッカーによるものだとは思えないのはすぐ分かります。となると、予想できる話の流れとなると、ひとつの方向に向かざるを得ないのですが、案の定、そういう話になってしまいました。予想通りの展開に、あとはいかに湯浅が戦っていくのかという点におもしろさの重心を置かざるを得なくなりましたが、ラストの落としどころも予想の範囲内で、ちょっと残念。
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東京ダンジョン PHP研究所
(ネタバレあり)
 主人公は、東京メトロで保線の仕事に携わる的場哲也。就職浪人中の弟は、このところ過激な言動で有名な経済学者・鬼童征夫の勉強会に出ているらしく、心配した的場は勉強会の様子を見に行く。そんなある日、弟が暴漢に襲われる。的場は、弟が勉強会のメンバーに襲われたのではないかと疑い、彼らに近づくが‥・。
 自分たちの意見を聞いてもらうために、地下鉄に爆弾を仕掛け、現代的犯罪らしく、自らの主張をネットで配信します。帯の惹句を読んだ限りでは東京の地下を乗っ取ったテロリストに対し、地下鉄の保線区員が立ち向かっていく話と思って読み始めたのですが、とにかく、犯人たちの論理がまったく理解できません。自分たちの主張を聞いてもらうために罪を犯すけど、目的を果たした後は素直に警察に出頭して罪に服せばいいという甘えはいったい何なのでしょう。そのうえ、地下鉄を止めた巨額の賠償は裕福な親がどうにかするだろうとは。「馬鹿言っちやいけない!」と言いたくなります。罪に服した後は政治の世界に打ってでるなんて、とんでもない。「人を傷つけなければいいだろう、損害を賠償すればいいだろう、刑に服せばいいだろう」なんて考える者は、次も自分の意見を通すために法に外れたことを平気でするに違いありません。読んでいて、そんな犯人たちにイライラしてしまいました。結局、苦労を知らない馬鹿息子・娘たちの自分勝手な考えに基づく行動に過ぎません。地下鉄の安全のために尽力する的場を見なければ、フェイスブックの最後の提案は自分の中に生れなかったと言っていますが、言うこととやったことが全然違うだろう!!
 まったくお笑いです。これだけ呆れたのも久しぶり。読後感は非常に悪いです。
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