(ちょっとネタバレ)
初めて読んだ深水作品です。
進級する条件をクリアするため、ボランティアで老人宅への弁当の配達を始めた大学生の総司。物語は、彼が老人宅への弁当配達をする中で、一人の隻眼の老女・内海カエとの交流を通して成長していく姿を描きます。老人福祉の問題だけでなく、内海カエの昔話の中で語られる戦争という大きな問題も描かれ、ミステリというより、ちゃらんぽらんな大学生だった総司の成長物語という感じで、「これって、ミステリ?」と思いながら読み進んでいきました。
各章に旧字体で挿入される女性の話がきっとミステリとして成り立っていく大きな鍵になるのだろうと予想したのですが、なかなかミステリ的な話になりません。ところが、話も終盤になって、ある事件が発生し、そこから物語は大きく動き出します。
最終的にはミステリ好きの弁護士の登場によって、カエを巡るある謎が明かされていくのですが、厳しい人生を歩んできたとは思えないなかなかユーモア精神に富んだ老婆の隠された想いには、ちょっとじ〜んときてしまいます。
さらに、その後に思わぬひとひねりがなされており、ここはこの作品の評価を高めたらしい感動の場面ではあるのですが、それはあまりにできすぎだろうと思ってしまうのは僕だけでしょうか。
ボランティア団体にいた同級生のエピソードやボランティアの代表に対する会員の悪ロも結局このストーリーの中でどういう位置を占めているのか、また、カエが総司に雨が止んだ直後に来るよう言った理由もわかりませんでした。ちょっとエピソードを詰め込みすぎの感も。 |