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藤谷治の本棚

  1. 船に乗れ!T合奏と協奏
  2. あの日、マーラーが

船に乗れ!T合奏と協奏 ジャイブ
 主人公は、音楽科に通う高校生・津島サトル。物語は、彼が歳を取ってから高校時代を振り返るという形で進んでいきます。
 音楽家一家に生まれ、子どもの頃から音楽が生活の一部であったサトルが、東京芸大附属高校の受験に失敗し、音楽科としては二流あるいは三流の評価の高校に入るところから物語は始まります。そこで同じ音楽の道を志す友人と出会い、そして、青春にはつきものの恋をし、その恋に悩むというストレートな青春小説です。その点、音楽科の生徒であっても普通の高校生と何ら変わるところはありません。
 ただ、音楽科の生徒であるため、オーケストラの発表会やそれに向けての合宿等が描かれ、頻繁に音楽関係の用語が登場します。音楽に疎い身としてはとんとわかりません。最初は読みに<いかなという気はしましたが、そこはさらっと読み進めても大丈夫です(もちろん、音楽がわかる人はもっと楽しむことができるでしょうが)。
 このTでは、恋が始まるところまでが描かれます。しかし、冒頭の様子では、そうそう爽やかな青春物語で終わるとは思えません。さてUでは、どんな展開になるのか楽しみです。
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あの日、マーラーが  朝日新聞出版 
 2011年3月11日の東日本大震災のその日、震災で世の中がバタバタしている中、東京墨田区のすみだトリフォニーホールで、新日本フィルハーモニー交響楽団がダニエル・ハーディングの指揮のもと、マーラーの「交響曲第5番」の演奏会を予定どおり実施したそうです。1年後にNHKでこの時のことが「3月11日のマーラー」として放映されましたが、この物語はこの実際に行われた演奏会に着想を得たもののようです。
 当日、会場に足を運んだ観客はわずか105人。東京で実際に被災をしたという人はわずかだったでしょう。ただ、東北地方で被災して大変な人もいるのに、のんびり演奏会を聴いていていいのか、あるいは演奏をしていていいのかという罪悪感みたいな気持ちを多くの人が持ったでしょう。演奏者の中には早く家族の無事な顔を見たいと思った人もいるに違いありません。国内で開催される予定だった演奏会や演劇等の催し物が、この日は中止になったと思います。その中で、なぜ大地震が起こったにも関わらず、演奏会に行こうとしたのか、また、なぜ主催者側は演奏会を決行したのか・・・。        4  j
 物語は、夫と離婚したばかりの女性、音楽評論家、楽団の女性バイオリニストのファンであるアイドルオタクの青年、クラシックを聴くことが趣味の一人暮らしの老婆、ゲネプロに遅刻しそうだと焦る第二ヴァイオリンのエキストラ奏者、ホールの演奏会の責任者の女性を語り手にして、それぞれの3月11日を描いていきます。
 マーラーの「交響曲5番」といえば、第4楽章がルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」に使用されたことから有名ですが、僕自身も唯一CDを持っているマーラー作品です。読み終わった後で聴きたくなりました。 
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