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藤田宜永の本棚

  1. 戦力外通告
  2. 探偵・竹花 再会の街
  3. 探偵・竹花 失踪調査
  4. 探偵・竹花 孤独の絆
  5. 愛ある追跡
  6. 夢で逢いましょう
  7. 探偵・竹花 潜入調査
  8. 探偵・竹花 帰り来ぬ青春
  9. 怒鳴り癖
  10. 血の弔旗
  11. 探偵・竹花 女神

戦力外通告 講談社
 「戦力外通告」という言葉からまず思い浮かぶのは、野球選手がもうその球団には必要ないとされて、引退勧告やトレードを申し渡されることでしょう。多くの人がそう考えると思いますが、行きつけの書店の店員さんもそう思ってしまったらしく、この本はスポーツ関係の雑誌や本が並ぶ棚のところに置かれていました。捜すのに苦労しましたよ、店員さん。
 さて、この本の主人公は、スポーツ選手ではなく、アパレル会社に勤めるサラリーマンです。彼が55歳にして会社からリストラされてしまいます。いつの間にか、僕自身もそんな主人公のことが、他人事とは言っていられない年齢に近づいてきたこともあって、帯に書いてあった“55歳リストラされた。新しい人生はそこから始まった。”という言葉に惹かれて思わず手に取ってしまいました。
 会社からいらないと宣告されるのは、非常に辛いことでしょう。今まで会社で一所懸命働いてきたのに、その自分の存在価値が否定されるのですから。会社しか生き甲斐のなかった人にとっては、なおさら会社生活のなくなった辛さが身に染みるでしょうね。ましてや、それに加えて家庭でまで必要がないという状況になったら、いったいどうしたらいいのでしょう。
 ただ、この物語の主人公は、恵まれています。すぐに働かなくても、妻が薬剤師として働いているので、金銭的には切羽詰まったものがありません。そうでなくては、友人の悩みの相談を受けたり、恋に胸躍らしたりなんていうことはしていられないでしょうね。うらやましい限りです。たとえ、それがリストラによる心の痛手を忘れるためであったとしても、それはそれで他のことを考えることができる心の余裕がまだあるということですね。そういうところから、ちょっとこの主人公には共感を感じることができず、読み始めのこの作品への興味が最後まで続きませんでした。この物語のように、世の中って、そんなに甘いものではありません。
 それにしても、何だかんだいっても、男ってやはり会社が生き甲斐なんですかねえ。
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探偵・竹花 再会の街 角川春樹事務所
 探偵・竹花を主人公とするシリーズの新作です。前作「失踪調査」が刊行されたのが1994年ですから、その間18年という長い時間が経過しましたが、物語の中でも同様に時間が経過していて、竹花もすでに還暦を越えた年齢になっており、老人探偵といっても過言ではありません。スカイライン2000GTに乗り、長身でタバコを吸いジャズを聴くというハードポイルドの王道を行く探偵ですが、還暦過ぎというイメージが頭の中に思い浮かびません。タイプとしては、原ォさんの探偵・沢崎と同じですが、女性とすぐ親しくなってしまうのは沢崎と違うところです。
 今回竹花が依頼されたのは元総会屋の行方不明の娘の捜索。彼女が襲われるのを助けたことから、彼女とよりを戻したい元夫のアメリカ人マフィアや彼に頼まれた日本の暴力団と争うことになり、さらに彼女を助けるときに協力してくれた男が関わっていた投資詐欺事件とそれに絡む殺人事件にも巻き込まれていきます。
 事件のラストの落としどころは、だいたいわかってしまいましたが、久しぶりにハードポイルドの探偵小説を楽しむことができた1冊です。
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探偵・竹花 失踪調査 ハルキ文庫
 探偵・竹花シリーズの第2作目です。18年ぶりに新作が発売になったのにあわせて、ハルキ文庫で再文庫化されました。まだ中年の竹花が活躍する3編が収録された短編集です。
 依頼主は台湾から来日した老夫婦、ロシア人の弁護士、暴力団組長といった具合に、依頼人からして普通ではなく、さらに竹花への依頼は3編とも人捜しですが、調査の過程で殺人事件が起こるという、ハードボイルドな探偵が活躍を見せざるを得ないストーリーとなっています。
 3編の中では、第二次世界大戦でのシベリアの捕虜収容所での「凍った魚」と呼ばれるスパイの存在が浮かび上がってくる2話目の「凍った魚」がおもしろいです。また、3話目の「レニー・ブルースのように」では、話は別として、竹花が自分を憎んでいる捜査―課の刑事・田上に彼の姉との関わりを語る場面があります。新作では、はっきりと描かれていなかった竹花と田上の関係がわかります。新作を読んで気になった読者はこちらを読まれるとすっきりします。
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探偵・竹花 孤独の絆 文藝春秋
 還暦を過ぎた探偵・竹花の活躍を描くシリーズ第4作です。4編が収録されています。還暦を過ぎたといっても、愛車はスカイライン2000GT、たばこを吸い、若い恋人もいるという、ちょっとうらやましい還暦でもあります。
 今回、彼のもとに持ち込まれた依頼は、家出した娘の行方探し(「サンライズ・サンセット」)、盗まれた披露宴用に作成した新郎新婦の等身大のパネルの行方探し(「等身大の恋」)、老人ホームから失踪した2人の老人の行方探し(「晩節爽快」)、そして最後は依頼ではありませんが、竹花の元に電話をかけてくる青年を探します(「命の電話」)。
 4編の中では、電話で自殺をほのめかす青年の相手をする竹花を描いた「命の電話」が、竹花の生き様が語られていて、やっぱり探偵はこうでなくちゃと思わせる作品になっています。孤独であることを嘆く青年に対し、竹花は「ひとりが気持ちがいい」といいます。孤独にも心地よさがあると言い切れる竹花はカッコ良すぎます。
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愛ある追跡 文春文庫
 不倫相手の医師を殺害した容疑がかけられ逃亡した娘を探し求める獣医の岩佐一郎が主人公です。娘を見かけたという情報で行った先での出来事を描く4つのエピソードが収録されています。
 主人公が獣医ということで、行った先で必ず動物の治療をすることになるという体裁をとっていますが、この体裁を続けるのは無理があるのではないでしょうか。いくら獣医だからといっても、そうそう娘が立ち回る先に動物がいて、その動物が病気や怪我なんてことはないでしょうから。そもそも主人公の職業の獣医に絡めて話を展開していくことの必然性が感じられません。2時間テレビドラマのシリーズものとしてならまだしも、娘の無実を信じて探し歩く父親に付け足しのように動物の治療のエピソードをつける必要があるのかなあと思ってしまいます。
 それにしても、娘が立ち寄る先々で取り逃がす警察はあまりに無能。
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夢で逢いましょう 小学館
 昭和30年代に流行したテレビ番組や歌、風俗などを各章のタイトルに入れており、「Oh!モウレツ」や「ゲバゲバ」など、僕より上の団塊の世代にとっては懐かしくてしょうがないでしょう。そんなノスタルジック溢れる作品ですが、ストーリーは何十年も前に行方不明となったオウムを探すというミステリーです(オウムが何十年も生きるとはびっくりです。)。
 子どもの頃、当時のテレビ番組にちなんであだ名された「お笑い三人組」の昌二、三郎、誠一郎。物語は、定年退職した昌二が町をぶらぶらしていたときに今では私立探偵となっている三郎と出会い、彼が現在オウム探しをしていることを聞くことから始まります。
 幼馴染が偶然に出会い、さらに別の場所で出会った人物がオウムの行方に関係がある人という、あまりに偶然が重なりすぎて、これで事件解決とは出来過ぎで、ミステリーとしてもおもしろさはまったくありません。やはり、それなりの年代の人にあの頃はあんな時代だったなあとノスタルジーを感じさせるだけの作品だったというのが正直な感想です。
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探偵・竹花 潜入調査   文藝春秋
  60歳を超えて30歳も年下の恋人のいる、うらやましい探偵・竹花が活躍する4編が収録されたシリーズ第4弾です。
 冒頭の「ピンク色の霊安室」は大企業の後継者の突然の失踪の調査を、「タワーは語る」はマンションで―人暮らしの女性の部屋に盗聴器を仕掛けた者の調査を、「あの人は誰?」は認知症の男が口にする、子どものときに遊んでくれた男の行方探しを、表題作の「潜入調査」は父を殺した金庫破りの容疑者だった男の調査を描いていきます。
 どれも単純な調査の裏に複雑な事情が潜んでおり、失踪者や盗聴器を仕掛けた者を探し出すだけにはとどまりません。竹花の行動によりそれらの事件の裏側に隠されていたものを明らかになっていくという体裁になっています。
 60歳を過ぎてもスカイラインに乗って頑張る竹花は同年代の憧れです。まだまだ頑張ってもらいたいですね。
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探偵・竹花 帰り来ぬ青春   文藝春秋
 探偵・竹花シリーズ第5弾です。今回、竹花が関わるのは、若い頃にパリで出会った作家・国分の自殺事件です。題名の「帰り来ぬ青春」はシャルル・アズナブールの歌の題名だそうです。僕ら年寄りが過去を振り返ったときに思うようなセンチメンタルな題名ですが、まさしく今回の事件は竹花にとっての“帰り来ぬ青春”時代が思い起こされる事件だったのでしょう。
 国分の娘・麗子から失踪した国分の行方探しを依頼された竹花だったが、数日後、長野の別荘で首を吊って死んでいる国分を発見する。警察は自殺と断定したが、納得のいかない麗子は竹花に調査を依頼する。竹花は、自殺の数日前に上諏訪の料理屋の前で国分が日本人とハーフらしき男二人と話していることを突き止めたが・・・。
 国際的な美術窃盗団やマフィアなどの話も出てきて、人間関係がちょっとややこしいところもあって、事件の全体像をつかむのが難しかったのですが、ちょい役だと思っていた人物が実は大きな役割を担っていたりと、ミステリとしての犯人捜しはなかなかおもしろいものがありました。
 竹花は今回あやうく殺されそうになるなど、ロートルの探偵とは思えない活躍ぶりを見せます。年若い恋人とも関係が続いているし、我らの年代の憧れです。 
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怒鳴り癖  文藝春秋 
 6編が収録された短編集です。どの作品も男性を主人公に、彼らに訪れる危機や過去ヘの想いなどを描いていきます。
 仕事帰りに2人組の暴漢に襲われた男は、すぐにカッとなって人を怒鳴ってしまう自分に怒鳴られた者の犯行ではないかと疑心暗鬼になる(「怒鳴り癖」)。
 女性の後をつけている男性が近所の家の息子に似ていると警察に通報した男が、その息子が自殺したことから思わぬ窮地に追い込まれる(「通報者」)。
 事件の被害者が昔大学生の頃に付き合っていた女性と同姓同名だと気づいた男は当時に思いを馳せる(「時には母のない子のように」)。
 震災時のショックで娘が閉所恐怖症になり、押し入れを怖がるようになるが、義母の様子からそのことで何かを隠しているのではないかと男は疑う(「押し入れ」)。
 マンションの管理人をしている男は、居住者の女性が落とした財布の中にあった保険証を見て、若い頃離婚した妻が引き取った娘と同じ名前と生年月日だということに気づく(「マンションは生きている」)。
 妻を亡くし独り身になった男は、コンビニで働く女性と深い仲となったが、ある目突然、女は印のついた古い地図を残して姿を消す(「消えた女」)。
 6編の中では、表題作のミステリータッチで書かれた「怒鳴り癖」が、若い世代との関係に悩む男を描いていて、主人公の同世代とし(彼のようには怒鳴りませんけど)「わかるなぁ〜」という部分もあって、おもしろく読むことができました。
 後半3編は、たぶんそうかもとしれないと主人公が思いながら、結論を明らかにしないまま終わります。どれも余韻が残る終わり方です。 
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血の弔旗  ☆  講談社 
 戦後の混乱期に金貸しで財をなした原島勇平の運転手をしていた根津謙治は、原島の元から裏金11億円の強奪を計画する。偶然出会った学童疎開時代の級友、岩武、川久保、宮森を仲間に引き入れて計画を実行し、見事に11憶円を強奪したが、謙治は偶然原島の息子を訪ねてきた愛人を射殺してしまう。彼らは4年後の山分けを約束し、金を隠して、警察や、裏社会からの追及をかわしながら、生きていく。約束どおり、4年後の1970年に金を山分けし、二度と会わないはずだったが、10年がたち、アメリカから思わぬ物が彼らの前に現れたことをきっかけに、彼らの周辺で新たな事件が次々と起きる。果たしていったい誰が、何の目的で・・・。        
 事件が起きた年は1966年。東京オリンピックも終わり、日本が高度経済成長期のまっただ中にあったときです。物語の中にはグループサウンズや当時の流行歌が出てきたり、更には新宿駅騒擾事件、金嬉老事件、3憶円事件、安田講堂事件等々時代を騒がす様々な事件も語られたりするなど、根津の人生に合わせて昭和の時代と風俗が描かれていきます。読みながら幼い頃の記憶が浮かび上がってきましたが、僕より年配の団塊の世代の読者はもっとこの小説の世界の中に引きずり込まれたのではないでしょうか。
 根津という肝の据わった男の生き様も強烈な印象を与えますが、これらの昭和の時代の描写もその時代を生きてきた者にとって大きな読みどころとなっています。もちろん、ミステリとしての第3部で描かれる“誰が何のために”も楽しませてもらいました。
 600ページ弱の大作ですが、藤田さんのリーダヴィリティにより、最後まで飽きることなく読むことができます。昭和の時代を生きてきた人にはオススメです。 
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探偵・竹花 女神  光文社 
 竹花の元に大阪のロッカー屋から荷物が届く。ロッカー屋は、差出人の山本浩信という男から自分が10日たって戻らなければ、預けた荷物を竹花に送ってくれと言われたと話す。後日、初老の男が訪ねてきて、山本は病死した、自分はその男の親戚に頼まれて遺品を引き取りに来たという。うさんくささを感じて渡さなかった竹花の元に、今度は娘だと名乗る女優の立花清香が訪ねてくる。竹花に届いた荷物が彼女の父親のものだとメールで所属事務所に伝えてきた人を捜してほしいという清華の依頼を受けて大阪に出向いた竹花は、大阪の探偵・明珍太郎の協力を得て調査を始めるが、やがて殺人事件の渦中に巻き込まれていく・・・。
 そもそも山本はなぜ竹花に荷物を送ったのか。衣類に交じって入っていた千鶴という女性宛のラブレターや少女の似顔絵などは何を意味するのか。竹花の元に荷物を引き取りにいた男は何者なのか。様々な謎が次第に明らかになっていく中で、かつて山本が働いていた東京の貴金属商での盗難事件やその家ですぐ後に起きた殺人事件が関わりを持ってくることが浮かび上がります。さらには新たな殺人事件も発生するなど、話が複雑なので、頭の中でストーリーを整理するのが大変です。
 今回は関東から出ない竹花が大阪の街で調査をします。慣れない大阪弁を使ったり、大阪のちょっとユニークな探偵・明珍太郎とコンビで調査をしたりと、これまでとは違った竹花を見せてくれます。
 64歳となった竹花ですが、少しも老いを感じさせません。相変わらずスカイラインに乗っていますし、渋いですねえ。ただ、30歳以上も歳の離れた恋人・遥香がカジノのディーラーの仕事でドイツヘと去ったため、ちょっと寂しさを感じている竹花です。我らロートルのヒーローに、もう少し頑張ってもらいたいと思うのは、かわいそうでしょうか。 
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