「戦力外通告」という言葉からまず思い浮かぶのは、野球選手がもうその球団には必要ないとされて、引退勧告やトレードを申し渡されることでしょう。多くの人がそう考えると思いますが、行きつけの書店の店員さんもそう思ってしまったらしく、この本はスポーツ関係の雑誌や本が並ぶ棚のところに置かれていました。捜すのに苦労しましたよ、店員さん。
さて、この本の主人公は、スポーツ選手ではなく、アパレル会社に勤めるサラリーマンです。彼が55歳にして会社からリストラされてしまいます。いつの間にか、僕自身もそんな主人公のことが、他人事とは言っていられない年齢に近づいてきたこともあって、帯に書いてあった“55歳リストラされた。新しい人生はそこから始まった。”という言葉に惹かれて思わず手に取ってしまいました。
会社からいらないと宣告されるのは、非常に辛いことでしょう。今まで会社で一所懸命働いてきたのに、その自分の存在価値が否定されるのですから。会社しか生き甲斐のなかった人にとっては、なおさら会社生活のなくなった辛さが身に染みるでしょうね。ましてや、それに加えて家庭でまで必要がないという状況になったら、いったいどうしたらいいのでしょう。
ただ、この物語の主人公は、恵まれています。すぐに働かなくても、妻が薬剤師として働いているので、金銭的には切羽詰まったものがありません。そうでなくては、友人の悩みの相談を受けたり、恋に胸躍らしたりなんていうことはしていられないでしょうね。うらやましい限りです。たとえ、それがリストラによる心の痛手を忘れるためであったとしても、それはそれで他のことを考えることができる心の余裕がまだあるということですね。そういうところから、ちょっとこの主人公には共感を感じることができず、読み始めのこの作品への興味が最後まで続きませんでした。この物語のように、世の中って、そんなに甘いものではありません。
それにしても、何だかんだいっても、男ってやはり会社が生き甲斐なんですかねえ。 |