子供が産まれてまもなく妻を亡くし、一人娘のふうちゃんを男手一つで大切に育てたハルさん。今日はふうちゃんの結婚式の日。ハルさんの脳裏には幼い頃からのふうちゃんの姿がよぎります。娘を嫁にやる父親というのは、娘に幸せになってもらいたいと思う反面、娘が自分から離れていくことに悲しさを感じてしまうのでしょうね。ましてや、ハルさんとふうちゃんは妻の瑠璃子さんが亡くなってからは二人だけでずっと生きてきたのですから、思いはなおさらでしょう。
東京創元社のミステリ・フロンティアシリーズの1作ですが、ミステリというよりは、娘の様子に右往左往し、あれこれ悩む父親の姿が描かれた作品です。親というのは子供の成長に応じていろいろ悩むんですよね。特に思春期は自分に甘えなくなった(というより、父親を避けるようになった)娘に寂しい思いをしながら、どうにかスキンシップをと思って余計なことをしてしまい、逆にいっそう嫌われてしまうという悪循環になってしまいます。同じ娘を持つものとして、ハルさんの気持ちはよくわかります。父親というのは不器用な生き物なんです。
ミステリとして描かれるのは次の5つの話です。
幼稚園時代、ふうちゃんの友だちの弁当箱からなくなった卵焼き、犯人はふうちゃんだと言われ・・・「消えた卵焼き事件」
小学校時代、近所を家からあるものを勝手に持ちだして姿を消したふうちゃん・・・「夏休みの失踪」
中学校時代、急に元気をなくしたふうちゃんを見て、ハルさんはいじめに遭っているのではないかと心配し・・・「涙の理由」
高校時代、アルバイト先で怪我をしたふうちゃんに代わって、忘れものを届けに行ったハルさんだったが・・・「サンタが指輪を持ってくる」
大学時代、せっかく帰省したふうちゃんと過ごすはずのハルさんだったが、思わぬ事件が起き・・・「人形の家」
5つの何気ない謎を解くのはいつもハルさんの頭の中に語りかけてくる亡くなった瑠璃子さんの声。いったいこれは何だとも思いますが、まあ、あまり深くは考えない方がこの本を楽しむにはいいかもしれません。娘を持ったお父さんたちにおすすめの本です。 |