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藤野千夜の本棚

  1. ルート225
  2. ベジタブルハイツ物語
  3. じい散歩
  4. じい散歩 妻の反乱

ルート225 新潮文庫
 学校から帰ってこない弟を迎えにいったエリコ。公園にいた弟を連れての帰り道、姉弟はパラレルワールドに迷いこんでしまいます。その世界は、両親がいない、死んだはずの同級生が生きている、ひいきの巨人の高橋由伸選手が太めになっているなど、二人がいた世界とは微妙にずれています。二人は、微妙にずれたその世界から何とかして戻ろうとします。
 芥川賞作家藤野千夜さんによる、いわゆるヤングアダルト作品です。ネットで本の紹介を読んで、僕が好きなパラレルワールドものだと思って、書店に買いに行ったのですが、あの表紙ではちょっとおじさんには買えません。レジに持って行くには勇気がいりますね。しょうがないので、オンライン書店に注文して購入しました。
 話は、姉のいまどきの高校生の語り口で進んでいきます。あの年頃の姉弟の関係って、あんな感じかなと思わせる軽妙な語り口です。二人の会話のおもしろさがこの作品の魅力といえます。ただ、最後は残念ながら僕としては消化不良です。ここが純文学作家さんの描く作品というところでしょうか。
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ベジタブルハイツ物語 光文社文庫
 大家の娘の単なる思いつき(というかパクリ)から、A号室はアボカド、B号室はブロッコリー、C号室はキャロット、D号室はダイコン(これはかなり無理矢理の命名です)という愛称が付けられたアパートを舞台にした連作短編集です。
 各編が部屋の住人の一人を主人公に彼ら(彼女ら)の生活を描きながら、並行して大家さんの長男又は長女の物語が語られるという形をとっています。この作品で描かれるのは、どこにでもいる人々の生活。そこには当たり前の日常があり、ちょとした幸せもあり、不幸もあります。何か特別の事件が起きるわけでもありません。ただ淡々とアパートの住人と大家さん一家(特に長男と長女)の生活が語られていくだけです。とはいえ、途中で投げ出さずに読ませるのは藤野さんの筆力によるところが大きいのでしょう。また、一つには挿入されている長男と長女の一人称での語りがおもしろいというところもありますね。この二人、性格が逆でありながらなかなか上手く生きられないところがそっくりなのが愉快です。

※蛇足ですが、娘から疎んじられていることも知らずに、成長した娘とのコミュニケーションをどうにかとろうとしているお父さんの姿はいじらしい。
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じい散歩  双葉社 
 明石新平は以前、建設会社を経営していたが、今は会社をたたみ悠々自適の毎日を送る89歳。散歩と元建設会社の事務所として使用していたアパートの1室で自由に過ごすのが楽しみの毎日。妻の英子は88歳だが、最近認知症の症状が現れ、散歩に行く新平を女に会いに行くのではないかと浮気を疑うようになる。子どもは3人いるが、長男の孝史は高校を中退してから引き籠り、次男の健二はフラワーアーティストとして働いているが、自称、長女として男性が恋愛対象、三男の雄三は会社勤めを辞め、グラビアアイドルの撮影会を主催する会社を設立したが赤字続きで新平夫婦からも多額の借金をしているという状態。そんな明石家の家族を描く作品です。
 とにかく、主人公の新平が89歳とは思えぬ元気いっぱいな老人です。アパートの一室には趣味で収集したヌード写真集、春画、エロ小説等が置かれ、散歩の途中で入った喫茶店では若い女性に声をかけるなど、浮気はしないまでも好き放題の暮らしぶり。この歳でこれだけの行動力があるのは、ちょっとうらやましい限りです。
 それに対して、明石家の息子たちといったら、長男は40年近い引き籠もり、三男は借金まみれだが危機感がない、次男は一番まともに生活していて頼りになるけど、男性であることを拒否して長女だと自称するという、他人から見れば面白い子どもたちですが、親としては「どうしてこんな子に育った」と嘆きたくなりますよねえ。でも、そんな子どもたちにも新平は既にあきらめの境地にあるのか、まったく悲壮感がありません。だいたい90歳近い夫婦で、1人は認知症、同居する二人の子どもはまったく頼りにならないのでは、暗い雰囲気の物語になりそうなものですが、逆にユーモアもあるほんわかした雰囲気の物語になっています。実際はこの状況では厳しい毎日になりそうですけど。
 この歳になってくると、新平が自分の来たるべき未来の姿の一つのように見えて興味深く読み進みました。こんな年寄りに慣れたらいいですけど、これはちょっと無理ですねえ。
 「ちい散歩」ならぬ「じい散歩」で新平が歩くのは、実際にある建物やお店のようです。 
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じい散歩 妻の反乱  双葉社 
 「じい散歩」の続編です。明石新平もついに90歳を過ぎました。倒れた妻をヘルパーの力を借りながら世話をする毎日です。そこには悲壮感はなく、相変わらず散歩と言っては近所だけでなく遠くにも足を延ばします。しかし、事務所として趣味のエロ雑誌やビデオを保管していたアパートの一室を整理し、貸し付けることにし、大事なコレクションも処分することとするなど終活にも手を付けます。二人の息子は相変わらず。引き籠りの長男・孝史、長女だと言い張る次男・建二、借金まみれの三男・雄三。どうにか頼りになるのは建二だけという有様・・・。
 90歳を過ぎても散歩に出かけ、階段もさっさとLることができ、食事もおいしく食べることができるなんて羨ましい限りです。それに車椅子で胃ろうになっている妻
の介護もするなんて、凄いです。男は自分が先に倒れて妻の世話になると思いがちですが、明石夫婦の場合のようなことも、もちろんあり得ることです。もし、妻が先に介護が必要になったら自分も新平のようにありたいと思いますが、無理かなあ。
 3人の息子たち、次男はともかく長男と三男は新平が亡くなったらどうなるんでしょうねえ。こんな息子たちなどほおっておけと思うのですが、そうはできないのが親なんですね。
 新平の健啖家ぶりは90歳を過ぎても健在。彼が散歩の途中で食べて回るお店は実際にあるお店のようです。 
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