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藤井大洋の本棚

  1. ワン・モア・ヌーク

ワン・モア・ヌーク  新潮文庫 
 世界的にも有名なモデルであり実業家の女性・但馬樹がイスラム国のテロリスト・イブラヒムと組んで東京で原爆を爆破させようとするという破天荒なストーリーです。途中原爆の製造にかかわる専門的なことが出てきますが、文系の頭にはちんぷんかんぷんです。ただ、そこはわからぬまま読み飛ばしても、サスペンス感は減少するものではありません。
 原爆爆破時間までの5日間、小規模の爆発を考える但馬と但馬を偽り東京を破壊するほどの大規模核爆発を試みようと考えるイブラヒムとのテロリスト側の思惑の違いや、以前イブラヒムによって生死の境に瀕した国際原子力機関(IAEA)の職員・舘埜とCIAのシアリー・リー・ナズ、更には公安の早瀬と高嶺というテロリストを追う側にも考えの違いがあり、果たして原爆は爆発するのか、それとも爆発は阻止されるのかと、サスペンス感は読み進みながら否応にも高まっていきます。
 その原爆の爆破の舞台は、オリンピックのために作られた新国立競技場。今の形になるまでは紆余曲折があり、当初の外国人の女性建築家による設計から日本人による設計へと変更されましたが、物語ではその事実をうまく取り入れられた架空の事実をストーリーの中に組み込んでいます。
 但馬が原爆を爆破させようと考えた理由は東日本大震災による福島第一原発事故にあるという、今の日本人にとっては忘れてはならない事実を改めて読者に突きつけます。 
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