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藤原伊織の本棚

  1. ダックスフントのワープ
  2. テロリストのパラソル
  3. 蚊トンボ白髭の冒険

ダックスフントのワープ 文春文庫
 表題作を含む4編からなる短編集。
 「テロリストのパラソル」で江戸川乱歩賞、直木賞をダブル受賞した藤原氏のデビュー作であり、氏はこのデビュー作以来「テロリストのパラソル」まで、10年近く紗kひんを発表しないこととなる。
 「テロリストのパラソル」がいわゆるハードボイルド作品であるのに対して、この作品はちょっと読むと、どこか村上春樹の作品かなと思わせる雰囲気を持っている。話は大学で心理学を学ぶ主人公が家庭教師をする自閉症気味の小学生の女の子に「ダックスフントのワープ」という作り話をすることを中心に、その女の子の義理の母親、学校の女性教師との関わりを描いている。最後はちょっと悲しい終わり方である。
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テロリストのパラソル 講談社
 第41回江戸川乱歩賞と第114回直木賞をダブる受賞した作品。
 アル中のバーテン島村が、いつものように新宿中央公園で酒を飲んでいると、爆弾事件が発生。22年前に爆弾事件で指名手配された経歴を持つ島村は、飲み残しのウイスキーの瓶とコップを置き忘れたことから警察に追われることになるが、事件の被害者の中にかつての爆弾事件で一緒に指名手配された友人と、さらに当時同棲をしていた女性がいたことから、自ら真相を突き止めようとする。
 すばる文学賞を受賞した「ダックスフントのワープ」から10年の時を経て書かれた作品であり、前作とは異なるハードボイルド作品である。非常に読みやすい文章であり、冒頭からぐいぐい物語の中に引き込まれた。僕自身は学生運動の波には乗り遅れた世代だが、最後のエンディングは全共闘世代にあの頃が懐かしいなんて言わせない暗い幕切れである。
 それにしても、主人公が元東大生でボクシングで新人王も狙えるほどの実力の持ち主だったなんて、あまりにかっこよすぎません?
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蚊トンボ白髭の冒険 講談社
 SFとハードボイルドが融合したような作品です。ある日主人公の頭の中に主人公に呼びかける声が聞こえます。幻聴かと思ったら、自分は蚊トンボであり、主人公と衝突して頭の中に入ってしまったという。蚊トンボと話ができる(もちろんテレパシーということでしょうが)というのもSF的ですが、そのことにより、主人公の身体能力が向上してしまうというところがまたあまりに奇抜です。しかし、どうしてそんなことになるのだと固執していたら物語が進みません。そのことを前提に単純に楽しむ作品です。
 蚊トンボ白髭と主人公のコンビが絶妙で、おもしろく読むことができます。当然バッタバッタと悪をなぎ倒しと思っていましたが、最後がまさかあんな終わり方とはなあ。
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