時空旅行者の砂時計 | 東京創元社 |
第29回鮎川哲也賞受賞作です。 難病のために死を目前にした妻・伶奈に会いに病院に行ったフリーライターの加納冬馬のスマホに電話がかかってくる。マイスター・ホラと名乗る相手は、1960年に伶奈の一族に起こった、今では「竜泉家の呪い」と呼ばれる都市伝説のきっかけとなった連続殺人事件の謎を解けば、伶奈の命を助けることができると言う。加納が気づくと、そこは事件の起こった竜泉家の別荘の前。加納は突然目の前に現れたことで、未来から来たことを信じてくれた文香の機転で、探偵として竜泉家の中に迎え入れられることとなる。謎を解く期限は、別荘が土砂崩れで流されるまでの4日間。果たして加納は謎を解き、伶奈を助けることができるのか。そしてマイスター・ホラとは何者なのか・・・。 タイムトラベルとミステリが融合した作品です。ただ、SF要素はあるものの、冒頭に登場人物表と事件が起きる別荘の見取り図が掲げられており、閉ざされた別荘で起こる見立て殺人、密室殺人、更には解決編の前に読者への挑戦状があるというコテコテの本格ミステリの体裁が整えられています。このあたり、作者の方丈さんが京都大学の推理小説研究会出身らしいところです。 犯人も加納もタイムトラベルができるので、何回でもタイムトラベルをして犯行を重ねたり、犯行より過去に行って未然に防いだりができるだろうと思ったのですが、そこはタイムトラベルに作者は4つのルールを設け彼らの行動を制限しています。おかげで何だかややこしくて頭がこんがらがってしまいますが、SF設定の中にうまくミステリの要素を組み込んでいるのは見事です。 ちょっと違和感があったのは、首や手足が切断された死体が出てくるのに、中学生の女の子である文香がそれほどのショックも見せずに加納の助手役として謎解きに邁進すること。身内の死体で、それもバラバラの死体なのに平然としすぎでしょう!と突っ込みたくもなります。 |
|
リストへ |
名探偵に甘美なる死を | 東京創元社 |
「時空旅行者の砂時計」「孤島の来訪者」に続く“竜泉家の一族”シリーズ第3弾です。 私自身は前2作を未読のままこの作品を読んだのですが、確かに冒頭にある“マイスター・ホラによる序文”や後半に挿入される“マイスター・ホラによる読者への第一の挑戦”、“第二の挑戦”、そしてエピローグで登場する“マイスター・ホラ”とは何者なのかが。この作品を読了してもわかりませんでした。ただ、その正体がわからなくても謎解き自体には影響ありません。もちろん、知っているに越したことはありませんが。 雑誌ライターの加茂冬馬は世界有数のゲーム会社“メガロドンソフト”のゲームプロデューサー椋田千景から依頼され、素人探偵を招待して開催するVR(仮想現実)ゲームの新製品の試遊会で犯人役を演じることとなる。会場となる瀬戸内海の島にある“メガロドンソフト”の保養所にやってきた加茂たち8人の素人探偵だったが、睡眠薬で眠らされ、目を覚ますと椋田から渡されてあったスマートウォッチには毒針が仕込んであり、妻と娘も人質に取ってあると言われる。助かるためにはVR空間と現実の世界で起きる殺人事件を解決しなければならない・・・。 椋田がなぜ素人探偵を集めて、殺人ゲームを仕掛けるのかという理由も謎の一つなんですが、それより考えもつかない殺人の方法にはびっくりです。ゲームの世界が仮想現実世界であることが、この驚きの殺人の舞台を作ることになるのですが、想像もできませんでした。方丈さんに完敗です。 |
|
リストへ |
アミュレット・ホテル | 光文社 |
犯罪者のためのホテルである“アミュレット・ホテル”を舞台にした4話が収録された連作短編集です。 本館と別館を持つ“アミュレット・ホテル”の別館は、一般の人が宿泊する本館と異なり、犯罪者御用達の宿泊施設。そこでは、見合う対価さえ払えば、偽造パスポートでも対戦車用グレネードランチャーでも銀行内部の警備情報を入手することも可能。ただそこには守るべき2つのルールがある。ホテルに損害を与えないこととホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさないこと。そのルールが破られたときには警察ではなく、ホテルのお抱え探偵が対処に乗り出す・・・。 冒頭の「アミュレット・ホテル」はこの連作集の中で、個人的には一番のお気に入りです。鍵が開かないという客の訴えに、ドアを破るとそこには死体とホテルの従業員が・・・。ホテル探偵が事件を解決するという形式の連作集の第1話らしい話となっています。様々なミスリーディングが仕掛けられており、開けてびっくりの作品でした。見事に作者に騙されましたね。 「クライム・オブ・イヤーの殺人」は前の「アミュレット・ホテル」がEpisode1であるのに対し、Episode0となっているとおり、「アミュレット・ホテル」より時系列的に前の話です。ホテル探偵・桐生の前職が分かる作品となっています。 「一見さんお断り」は、アミュレット・ホテルに入った男が持つ物を奪い取ろうと、どうにかホテル内に忍び込もうとする男の視点で描かれます。この作品では桐生は脇役となり、姿を消した男の行方を推理します。 ラストの「タイタンの戦い」は収録作の中で一番長い中編といっていい作品。“アミュレット・ホテル”の今後を決める設立に関わった「出資者の会」の5人が集まった会議の最中、ホテルの廃業を主張する笠居が殺害される。会場には凶器となるものは厳重に調べられて持ち込めないはずなのに、被害者はナイフで刺されて殺害される。果たして凶器はどこから出てきたのか。廃業に強硬に反対していたオーナーの諸岡が一番の容疑者となるが、諸岡のために桐生が推理します。 |
|
リストへ |
少女には向かない完全犯罪 | 講談社 |
表の顔は喫茶店の店主だが、裏では“完全犯罪請負人”と呼ばれる黒羽は、ある日、何者かによりビルの屋上から突き落とされる。気が付くと病院のベッドで意識不明となっている自分を見ている幽霊の自分がいた。突き落とされた日に会う予定だった依頼人と待ち合わせた家に黒羽が行くと、そこにいた少女が突然、彼に斧を叩きこんでくる。彼女は黒羽の会うはずだった依頼人の小学校6年生の娘・音葉で、彼女の両親は黒羽が転落した日に殺害されたと話す。彼女には霊になった黒羽の姿を見ることができる能力があり、彼女によると幽霊が存在することができるのは7日間に限られるという。黒羽と音葉は7日という期限の中、黒羽を突き落とした犯人と音葉の両親を殺害した犯人は同一犯ではないかと事件を調べ始める・・・。 幽霊と小学6年生の女の子がコンビを組んで殺人事件の真相を探っていきます。小学校6年生とは思えない音葉の賢さと行動力が幽霊で指示するだけで直接は何もできない黒羽を助けます。内容は盛りだくさんです。メインは上述のとおり幽霊と小学生という変わったコンビでの犯人探しですが、それに加え、音葉の両親の殺害現場は密室というミステリらしい謎解きもあり、更に、殺人に逆さまの要素を加える“逆さま殺し”という容疑者も登場します。物語は真実に至るまで二転、三転し、ここで終わりかと思ったら新たな事実が出てきて、最後は思わぬ犯人が浮かび上がってきます。まさかあの人が犯人という予想外の展開にもなり、なかなか意外性のあるラストとなりました。 |
|
リストへ |