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法条 遥の本棚

  1. バイロケーション
  2. リライト
  3. リビジョン
  4. 忘却のレーテ

バイロケーション 角川ホラー文庫
(ちょっとネタばれ)
 自分と似ている人は、世の中に2人はいるとよく言われます。ドッペルゲンガーと呼ばれます。この作品では、容姿が似ているだけではなく、自分と同じ記憶を持つ人間が存在するという話です。
 自分のバイ・ロケーション(二重存在)が突然現れた忍は、彼女と同じようにバイ・ロケーションの存在に悩む人々のいることを知り、彼らの作る「もう一人の自分であるバイロケーションを何とかする会」に入ります。彼らとともに対応を考えるうち、メンバーが一人また一人と死んでいきます。
 第17回角川ホラー小説大賞長編賞を受賞した作品です。おもしろいという評判を聞いて、本屋さんで手に取り購入した作品でしたが、これは拾い物の1冊でした。
 自分の分身がどこかで勝手に動き回っているという事態は恐怖です。こちらが知らないうちに金はなくなるし、対人関係で何をしているかと思うと、主人公たちのようにバイロケーションを抹殺しようと考えるのも無理からぬところです。バイ・ロケーションには本人の記憶もあるのですから、他人はもちろん、本人自身がどちらかもわからないとなれば、本物だと思っていた者が実はバイロケーションだったということも考えられるというのは怖ろしいことです。
 この作品では、どうしてそういうことが起きるのかということにはあまり深く触れずに、ラストのある“オチ”に向かって進んでいきます。ミステリ好きには予想はついてしまいますが、悲しい結末は読ませます。 
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リライト 早川書房
 未来から来た少年に少女が恋をしたり、タイムトラベルをするために飲む錠剤がラベンダーの匂いなんて、これはもう完全に少年ドラマシリーズの世界です。1970年代に中・高校生だった世代の私たちにとっては、懐かしく、嬉しい始まりでした。そのうえ、物語の中に登場する小説の題名が「時を翔る少女」ですから、少年ドラマシリーズの記念すべき第1作「タイムトラベラー」の原作である筒井康隆さんの「時をかける少女」そのものです。シリーズのファンであった者としては、シリーズを見ているような感覚で読んでいました。
 ときどき、置き換わる少女たちの名前に、ここに何らかのトリックがあるだろうなと思って読み進めていきましたが、それが明らかにされるところからが、ややこしくなってきて、中高年の頭脳にはちょっと負担が大きすぎました。当初さくさくと読んでいたものが急ブレーキがかかってしまった感じです。帯に「SF史上最悪のパラドックス」とありましたが、タイムトラベルのパラドックスを問題にすると、難しい話になりますね。
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リビジョン ハヤカワ文庫
 ときは1992年の秋。その家に生まれた女性に代々受け継がれるという未来を見ることができる手鏡を持つ千秋霞は、その手鏡により、熱を出した息子・ヤスヒコが一週間後に亡くなる未来を見てしまう。霞は、手鏡の能力を利用して、息子が死ぬという事実を改竄しようとするが、そのことがとんでもない事態を招いてしまう。
 「リライト」の続編で、「リライト」の登場人物も顔を出します。といっても、前回の「タイムトラベラー」(あるいは「時をかける少女」)の雰囲気を持った作品とはまったく異なります。
 主人公の千秋霞が息子を助けるために行ったことが、現実に大きな変化をもたらしていく様子を描いていくのですが、正直のところ、もう、おじさんには太刀打ちできません。ただでさえ、タイムパラドックスを理解するのは難しいのですが、鏡の中に入っていったり、未来を見る鏡の中に過去の霞が登場したり、もう頭の中がぐちゃぐちゃで、整理がつきません。
 ラストでは驚きの事実が提示され、改めてページを最初に戻してよくよく確認すればそうかぁと思うのですが、う〜ん、気付きませんでした。
 この話、全体としては4部作となるようですが、ついていけそうもないです。
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忘却のレーテ 新潮社
 両親を交通事故で亡くした笹木唯。葬儀の後に彼女を訪れた父が役員をしている製薬会社の父の同僚は、唯に父が会社の金を横領していたと告げる。莫大な返済額に呆然とする唯に、父の同僚は会社の新薬の臨床実験に参加すれば返済額を半分にするとの条件を出す。新薬は一定期間の記憶を失わせる、「レーテ」と名付けられた薬だった。唯はやむを得ず、1週間の実験に参加するが・・・。
 ドッペルゲンガーを扱った「バイロケーション」、タイムトラベルを扱った「リライト」シリーズを書いてきた法条さんが今回選んだテーマが“記憶”です。
 「エピローグ」から始まって最期は「プロローグ」という章立ての体裁から、作者が仕掛けたトリックに最初から気付いた人がいるかもしれません。僕自身でさえ、それでストーリーの組み立てがすぐわかってしまいましたし。
 前日1日分の記憶が消える臨床実験というのが、この物語のミソ。実験の参加者は「レーテ」によって、毎日同じ日を迎えるところに唯たちだけでなく、読者に対しても罠が仕掛けられています。いわゆる、“クローズド・サークル”での殺人が起こりますが、そもそもこの場所で殺人を犯す必然性があったのかも疑問です。