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星野智幸の本棚

  1. 呪文
  2. だまされ屋さん

呪文  河出書房新社 
 初めて読んだ星野作品です。
 次々と商店が閉店していく「松保商店街」。おしゃれな街の近くにあり、家賃も安いことから色々な店は出店するが、出店しては潰れていくということが繰り返されていた。霧生けメキシコ仕込みのサンドイッチ「トルタ」の店を開店するが、訪れる客は少なく採算が取れない毎日を送っていた。一方、創作料理の居酒屋「麦ばたけ」の店主・図領は、新規参入組のひとりだったが、商店街の理事長を務める老舗の酒店の娘と結婚し、商店街の事務局長に納まるまでになっていた。そんなある日、図領は店に来たクレーマーの佐熊と争いになり、佐熊はネットを使って図領のみでなく松保商店街への根も葉もない悪口雑言を振りまいていく。図頷はそれに対して反撃をしていくが・・・。
 廃れ行く商店街とか、ネットの弊害とか現代的な課題をテーマに、商店街活性化の話かと思いましたが、ストーリーは予想もしない方向へ進みます。カリスマ的な図領の言動に共感する者たちが自警団「未来系」を作り、商店街にとって迷惑な客を排除するようになります。更にはそれが相応しくない店、自分たちの意見に賛成しない店を排除するという怖ろしい方向へ進んでいきます。
 図領という男、嫁さんには頭が上がらない、まっすぐな男だと思ったのですが、その正体が最後までよくわかりませんでした。彼の目指す先には何があるのか。
 また「未来系」という自警団は「クズ道とは死ぬことと見つけたり」という狂信的な考えの下、切腹を最終目的にするとは、異常以外の何ものでもありません。「未来系」が仲間を募っていく方法は、カルトがその賛同者を募っていく方法と同じです。正義が暴走すると怖ろしいです。なぜなら、正義を振りかざす人は自分は間違っていない、正義を実行しているだけと思っているのですから。
 ラストに起こる事件の後、「松保商店街」はどうなるのでしょうか。霧生は果たして、「松保商店街」で生きていけるのでしょうか。図領は事件をどう収拾するのでしょうか。様々な「どうする?」「どうなる?]を抱えたまま物語は終わります。 
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だまされ屋さん  中央公論新社 
 夏川秋代は70歳。夫を病気で亡くし、住んでいた家は次男の借金の返済のために売却し、今は公団住宅で一人住まい。そんな秋代のもとに、長女の巴と家族になる予定だという若い男、未彩人が訪れる。騙されているのではと思う秋代を尻目に未彩人は家に上がり込み、やがて泊まるようにもなる。子どもたちとうまくいっていない秋代は次男の嫁である月美に相談するが・・・。
 「だまされ屋さん」という題名から、子どもとの関係がうまくいっていない孤独な老人の寂しさにつけこんで詐欺を働く人の話なのか、でも“だまされ”というのは、受け身だから騙される方だよなあと思いながら読み進めると、未彩人の話は秋代の子どもやその嫁たちの話へと変わっていき、「あれ?未彩人のことはどうなってしまうの?」と思ってしまいます。
 病弱だった次男にかかりきりで自分たちを顧みない父母に見切りをつけて、親代わりに長女の世話をしてきた長男の優志、その事実婚の妻である在日韓国人の梨花、長男の束縛から逃れてアメリカに渡り、プエルトルコ系米人との間に子どもを産んだが、男のDVで日本に帰ってきた長女の巴、借金で身を持ち崩し、スマホのゲームに没頭する次男の春好、そんな次男に愛想をつかすが別れることができない妻の月美。そんな彼らが、やがて、巴の部屋に集まり、それぞれの思いを吐き出すことによって、しだいにお互いを理解していくことになるのですが、この巴の部屋にも夕海という他人が入り込んでいるところがこの話のミソです。
(ここからちょっとネタバレ)
 未彩人にしても、夕海にしても、こんなに相手におかまいなく、ずかずかと他人の生活の中に入っていけるなんて、彼らの存在によって家族の関係がうまくいくことになっても、そして、最後に実はという謎解きがあったにせよ、個人的にはそこに行くまでの前段でちょっと受け入れられません。現実には相手からすれば迷惑千万ですけどねえ。そんなこともあって、ラストはハッピーエンドなんですが、読者としては物語の中に入り込むことはできませんでした。 
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