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本城雅人の本棚

  1. ミッドナイト・ジャーナル
  2. 傍流の記者
  3. 時代
  4. 穴掘り
  5. 九人のレジェンドと愚か者が一人

ミッドナイト・ジャーナル  講談社 
 第38回吉川英治文学新人賞受賞作です。
 埼玉県内で女児誘拐未遂事件が連続して発生し、中央新聞さいたま支局の関口豪太郎は7年前に起きた事件との関連を疑い取材を始める。7年前、本社勤務で警視庁捜査一課担当だった関口は女児連続誘拐事件を追っていたが、警察の動きから誘拐された女児の遺体が発見されたと考え、死亡の記事を書く。しかし、女児は生きており、誤報を打った関口をはじめその部下の藤瀬祐里、松本博史の3人の担当記者は責任を取らされて左遷をされていた。今は社会部で遊軍記者となっている藤瀬はさいたま支局の協力に赴くが、事件の後、異動先の人間関係でノイローゼ気味となり整理部員となった松本は、事件を静観する。
 特ダネを狙って他社を出し抜くために警察官の家を夜がけ朝がけする新聞記者は、今の世ではブラック企業の典型の職業です。それでも彼らが頑張るのは真実を国民のもとに届けるためでしょう。そうであってほしいと思います。ただ単に権力者側の発表を紙面にするだけならば、何らマスコミの存在意義がありません。関口は権力者側にとっては煙たい存在ですが、新聞記者としてのあるべき姿かもしれません。
 誤解してならないのは、真実を探求するマスコミだからといって、人の心の中に土足で踏み込むことは許されることではありません。最近の報道をみていると、そういうことにお構いなしに、自分たちは正義の味方だという御旗を背負っているから何でもできるんだと傲慢に振る舞う驕ったマスコミもいるような気がしてなりません。
 物語は、7年前の事件に犯人は二人組ではないかという問いかけをしながら、犯人が逮捕されると、その事実の後追いを止めてしまった自分たちに責任を感じ、今回こそはと、真実を求めて取材を続けていく関口らを描いていきます。社内の勢力争いの様子などは、実際に元新聞記者だった本城さんの経験に基づくものでしょうか。
 ラストは急展開でちょっとあっけなかった感はありますが、たぶん、本城さんが描きたかったのは事件よりも新聞記者としての矜持であり、新聞記者を主人公にした小説として十分に読みごたえがある作品でした。 
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傍流の記者  ☆  新潮社 
 受賞は逃しましたが第159回直木賞ノミネート作品です。
 作者の本城さんは作家になる前は新聞記者だったそうなので、新聞社内の人間関係、取材先や他社との関係など描かれていることは非常にリアリティを感じさせてくれます。
 作品は、6編の短編をプロローグとエピローグで挟むという体裁で東都新聞社の社会部の同期6人をそれぞれ主人公にした彼らの奮闘ぶりを描いていきます。6人は「警視庁の植島」「検察の図師」「調査報道の名雲」「遊軍の城所」「人事の土肥」の5人と、早くに社会部から総務に移った北川。北川だけが人事を握る者として紙面を作ることに奮闘する5人とは違う立場にいます。副題が「Five plus one newspapermen」と、5人+1人となっているのは、社会部の5人と総務に移った1人を表しているのでしょう。
 冒頭の「敗者の行進」は「警視庁の植島」が主人公。女子大生殺害事件の取材を巡って、思うとおりに動いてくれない部下へのもどかしさを感じる植島を妻との家庭生活を交えながら描きます。
 「逆転の仮説」は「調査報道の名雲」が主人公。植島や図師と異なり、社会部の中で上司と波風立てずに生きてきた名雲が昇進を仄めかされて実績を求められ悩む様子を描きます。
 「疲弊部隊」は「検察の図師」が主人公。巨額の粉飾事件の取材に取り組む中で、部下のライバル紙への移籍で自己の評価が下がるのではないかと考える図師を描きます。
 「選抜の基準」は「遊軍の城所」が主人公。社会部に配属される新人の人選を任され悩む城戸を描きます。果たして城戸は誰を選ぶのか。管理する立場として学ぶべき点があり、おもしろく読むことができました。
 「人事の風」は「人事の土肥」が主人公。土肥が気楽に部下にかけた言葉が、逆に部下のプレッシャーとなって、社会部全体を巻き込むとんでもない事態となってしまう様子を描きます。
 「記憶の固執」は、人事部の北川が主人公。首相のスキャンダルが発覚し、政治部と社会部が対立する中で、優秀な社会部記者でありながら社会部を離れ管理部門の総務でエリート街道をひた走る北川を描きます。
 同期だからといって和気あいあいとやっている訳ではなく、抜きつ抜かれつの競争は他社とばかりではありません。誰が先に出世するのかには誰もが敏感で、そこには嫉妬もあるし、仕事でも自分の良かれと思うやり方が相手からしてみれば不満で言い争いになることもあり、そこには緊張感あふれる人間関係も存在します。それはどの社会でも同様でしょうが、しかし、いざ一つの大きな事件に立ち向かうとなれば助力を惜しまないという、そこは新聞記者としての矜持もあるのでしょう。
 社内の政治部と社会部の争いに敗れ、北川によって彼らが不本意な異動をさせられ社会部が解体されたと感じていた5人が、それぞれの新しい立場で登場するエピローグは爽快です。 
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時代  ☆   講談社 
 スポーツ新聞社を舞台に、そこに勤める父と、父と同様にスポーツ新聞社に入社した二人の息子を主人公に、昭和から平成に亘るドラマが描かれていきます。
 作者の本城さん自身、元産経スポーツの記者だそうですから、この作品の中で描かれているプロ野球選手や監督、球団関係者との関係や他社との抜きつ抜かれつのスクープ合戦、社内での出世競争等はリアリティ溢れるものとなっています。
 物語は、第1話と第2話が父・笠間哲治を、第3話から第5話までが長男の翔馬を、第6話から第8話までを次男の翼を、そして第9話を再び父の哲治をそれぞれ主人公に、スポーツ新聞社での仕事に臨む父と息子の姿が描かれていきます。
 この作品では、新聞社の中での特ダネの情報漏洩や、各スポーツ新聞社間のスクープ合戦や駆け引き、球団関係者との信頼関係やそれを利用しての騙しあいなど、新聞ができる裏で行われる様々な内情が語られ、非常におもしろく読むことができます。ただ、この作品で描かれるのはそれだけではありません。それらを題材にして本城さんが描いたのは、父と二人の息子との関係です。できる父親がいると、息子としては常に周囲から「きみのお父さんは、こうしたとき・・・」と比較され、非常にやりづらい面もあるでしょうし、父親のやり方に反発することもあるでしょう。それは兄弟の間にあっても同じです。この物語ではそれぞれ仕事に悩む息子たちがやがて父を目指し、兄を乗り越えて歩んでいく道のりを描いていきます。オススメです。 
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穴掘り  双葉社 
 6編が収録された連作短編集。今まで、新聞記者を主人公にした作品が多かった本城さんの初めての警察小説です。
 物語は、警視庁捜査一課殺人犯捜査一係で年間9万件にも上る行方不明者届から最近の事件の逮捕者との何らかの関係がある人物を探し出し、隠されてきた事件を掘り起こすことを20年間続けている信楽巡査部長を様々な人物の視点で描いていきます。この信楽巡査部長、外見は常に黒シャツで非常にとっつきにくく、事件解決のためなら容疑者を恫喝することも可と考える、昔ながらの刑事というキャラです。カバー絵に描かれている男が信楽だと思いますが、強面ですよねえ。
 彼が現在の事件から過去の事件へと繋がるほんのわずかな端緒を見つけて行方不明となっていた者を探し出す(つまりは死体を探し出す)のですが、ただ、どの話もそれぞれ語り手を変えて、その人物の関わりの中で信楽が描かれていくので、カバー絵の強烈な印象ほどはその能力の優秀さが描かれていない嫌いがあります。例えば、「最終確認」では、信楽の能力というより、その人となりを描いていますし、「秘密の暴露」では、信楽を描くより、息子が放火犯であることを隠そうと苦悩する警察署長の姿を描いているといっていい作品です。
 それにしても、「悲しみの掲示板」のように、過剰防衛で逮捕された男と5年前に行方不明になった幼児の住所が同じ町というだけで事件を調べる“端緒”になるものでしょうかねえ。 
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九人のレジェンドと愚か者が一人  東京創元社 
26年前のパ・リーグのペナントレースの後半戦が始まった4試合目。首位を行くレパーズと借金10で5位に沈む阪和バーバリアンズとの試合、6回表で9対0とレパーズ勝利と思われたが、バーバリアンズは3本の満塁本塁打を放って逆転勝ちし、その勢いをかってペナントレースを制し、日本シリーズでも勝利する。しかし、その試合中、選手のロッカーに入れてあった財布から現金が盗まれ、皆の信頼を得ていたマネージャーが犯人として謹慎処分を受け、その後退団という事件が起きており、そのマネージャーは3年後に非業の死を遂げていた。その後の低迷期を経て、今回26年前の4番バッターで満塁サヨナラホームランを打った夏川が監督になるに当たり、地元放送局がレジェンドと呼ばれたメンバーたちのインタビューと再現試合を構成する番組を企画する・・・。
 番組を企画した放送局のディレクター・平尾がレジェンドと呼ばれる元メンバーたちにインタビューをするに当たり、マネージャオーによる盗難事件のことを聞いて回るので、この物語は、この盗難事件の真相を明らかにしていくものだと読者はわかります。果たして、マネージャーは本当に犯人だったのか。それとも、彼に罪を擦り付けた者がいたのか。そして、平尾はなぜ事件のことを調べるのか。でも、26年もたってから今更なぜ事件を蒸し返すのか。その辺がすっきりしません。夏川が監督になるということを契機にするしかなかったのか。ラスト、事件の真相が明らかになるシーンもあっさりし過ぎて、「え!これで終わりなの」と思ってしまいました。 
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