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誉田哲也の本棚

  1. ストロベリーナイト
  2. ソウルケイジ
  3. 武士道シックスティーン
  4. 武士道セブンティーン
  5. 武士道エイティーン
  6. 歌舞伎町セブン
  7. 妖の華
  8. シンメトリー
  9. インビジブルレイン
  10. 感染遊戯
  11. レイジ
  12. ドルチェ
  13. あなたの本
  14. ヒトリシズカ
  15. あなたが愛した記憶
  16. ハング
  17. ブルーマーダー
  18. 主よ、永遠の休息を
  19. ドンナビアンカ
  20. 歌舞伎町ダムド
  21. インデックス
  22. 武士道ジェネレーション
  23. プラージュ
  24. 硝子の太陽 ルージュ
  25. 硝子の太陽 ノワール
  26. ノーマンズランド
  27. あの夏、二人のルカ
  28. ボーダレス
  29. 歌舞伎町ゲノム
  30. 背中の蜘蛛
  31. もう、聞こえない

ストロベリーナイト  ☆ 光文社文庫
 高校時代に遭遇したある事件がきっかけで刑事を目指し、今では警部補として警視庁捜査1課殺人犯捜査係の班長を任せられるまでになった女性刑事・姫川玲子が主人公の警察小説です。
 警察小説となれば、大沢在昌さんの新宿鮫シリーズの鮫島のように単独で捜査を進める刑事を描くものと、捜査を行うチームを描くものとがあります。現実には、チームで捜査を行うのが普通で、この作品も姫川を班長とする姫川班の刑事たちの活躍を描いていきます。とはいえ、特色のない刑事たちの集まりであっては、読むのがつまらなくなります。読者におもしろいと思わせるためには、捜査に関わる刑事たちがいかに個性的であるかが必要です。
 過去のトラウマを抱えて刑事をする姫川はともかく、この作品に登場する刑事たちもなかなか個性的です。なんといっても、bPキャラは、亀有署の井岡でしょう。姫川に気があることを隠そうともせず、軽口をたたき、底の浅い男を演じていますが、意外に仕事はできるという不思議な男です。この作品では彼自身の背景が描かれていないので、人間性に深みが感じられないのが残念なのですが、ヒロインがこういう男とくっついてしまうのがよくあるパターン。姫川が好きだということを素直に出せない菊田との恋の戦いはどうなるかも興味津々です。でも、井岡は所轄ですからねえ。この後、登場するのでしょうか。
 姫川を敵対視する勝俣刑事もキャラが際立っています。いかにも悪徳刑事という言動と風貌ですが、格好の良い切れ者刑事ばかりでは話はおもしろくありませんものね。果たして、姫川と勝俣のどちらが事件解決の手柄を立てるのか、読者としては最後までわくわくします。
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ソウルケイジ  ☆ 光文社文庫
 警視庁捜査一課の刑事、姫川玲子を主人公とするシリーズ第2弾です。今回、勘で突っ走る玲子に対し、ライバルとして登場するのは、前作にもちょっと出てきた同じ十係の主任、理詰めで捜査を進める日下警部補です。あまりに対照的な二人が捜査をするのは、多摩川土手に放置された車から発見された切断された左手首という死体なき殺人事件です。
 「ストロベリーナイト」で、なくてはならないキャラクターだった井岡が、巡査部長昇任に当たって蒲田警察署に異動になっており、今回も玲子の元で捜査に当たります。いくらなんでも、ご都合主義という感じがしないでもありませんが、彼のユニークな個性がこのシリーズのおもしろさの一因でもあるのですから、無理して登場もいたしかたないところです。
 「ストロベリーナイト」で玲子に対抗心を燃やした勝俣と異なり、ライバル心むき出しに突っかかっていく玲子に対し、まともに受けない日下は大人です。玲子のことを実は買っていますし。彼からすれば、玲子はまだまだ子どもです。
 菊田との恋の行方はあまりはっきりしません。でも、玲子に"あんなこと"されたら、菊田!もっと積極的になれ!と尻を叩きたくなります。まったく、いい歳して純情な菊田に対し、罪なことしますね。
 肝心な事件の結果については、あまりに悲しい現実に、解決されてもすっきりした気分になれません。
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武士道シックスティーン  ☆ 文春文庫
 ハードボイルド作家だと思っていた誉田さんが、うら若き女子高校生二人を主人公に青春小説を書くとは驚きです。
 自分の前に立つ者は斬るをモットーに幼い頃から剣道をやってきた磯山香織。「武蔵」を心の師とし、ちょっと時代錯誤っぽい言動の女の子です。一方、幼い頃からやってきた日舞から剣道に転向した西荻早苗。こちらは剣道を楽しむ女の子です。この対照的な二人の思わぬ出会いから、同じ高校の剣道部に入部して切磋琢磨していく様子を、二人を交互に語り手にして描いていきます。あまりに異なる性格の二人の絡みがおもしろくて、読みながらふと笑いが浮かんできてしまいます。おもしろくて、ページを繰る手が止まりません。誉田さん、うまいですよねえ。
 おっとりした雰囲気の早苗が意外に頑張り屋の面を見せたり、逆に剣道一筋に生きてきた香織が、ふとそれに疑問を持って動揺を見せたりするのも、青春小説の王道を行くパターンです。嫌いじゃないです。こうしたストレートな青春小説。もちろん、スポーツを描く青春小説には欠かせない試合の場面もあって、盛り上がります。こういう話を読むと、いいなあ〜青春!と自分の年齢が恨めしくなります。

※剣道を舞台にした青春物語といえば、昔、現千葉県知事の森田健作主演のテレビドラマ「おれは男だ」がありましたが、最近では珍しい。
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武士道セブンティーン  ☆ 文藝春秋
 シリーズ第2弾です。父の仕事の関係で九州へと引っ越した西荻早苗。磯山香織には剣道はやらないようなことを言いながら、実は剣道の強豪校・福岡南高校に転校し、剣道部に入部していた。一方、香織は、新入生を迎え、相変わらず中心部員として剣道にすべてを賭けていた。

 高校2年生になった香織と早苗が、神奈川と福岡に離れ、それぞれの世界の中で新たな仲間と切磋琢磨し、悩み成長していく姿を描きます。
 香織は、“我が道を行く”ながらも、部を強くするために奮闘するなど、前作からは次第に変わってきています。一方、早苗は、転校先でかつて香織を破ったこともある、美少女の黒岩レナと出会います。強くて美少女というレナの設定はどうかなあと思うのですが、この少女の「剣道はスポーツ」という考えと香織の「剣道は武士道」という考えの対比が今回の作品のおもしろいところと言えます。
 相変わらずの香織の時代錯誤的な言動には笑わせられます。不良に対して「安心しろ。命までとりはしない。」とは普通言いませんよね。でも、今どきの女の子とはまったく異なる香織のこのギャップが作品のおもしろさの一つでもあります。
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武士道エイティーン  ☆ 文藝春秋
 武士道シリーズ第3弾です。いよいよこれで最終章です。
 神奈川に戻るのを止め、福岡南高校で剣道を続けることとした早苗と、最終学年となり全国大会制覇を狙う香織の高校生活最後の1年が描かれます。
 今回は前2作とは体裁が異なり、香織と早苗の一人称での語りの合間に、他の登場人物の一人称での語りが挿入されています。彼女ら二人を取り巻く登場人物、香織の姉・緑子、香織の師匠・桐谷玄明、早苗の部の顧間・吉野先生、香織の後輩・田原美緒の4人のエピソードが語られます。ちょっと前2作のおまけという感じがしないでもありません
 早苗のエピソードについては、彼女たち二人に大きく関わりのある話となっていますが、それ以外のエピソードについては、直接は香織らとのストーリーとは関係ありません。しかし、4編とも、シリーズファンにはそれぞれ読み応えのあるストーリーとなっています。特に、この作品の中で1,2を争う強烈なキャラである吉野先生のエピソードは、胸躍る彼の青春物語であり、1番楽しく読むことができました。
 若い年代だけでなく、僕のようなおじさんの年代も楽しむことができるシリーズ作品でした。
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歌舞伎町セブン 中央公論新社
(ネタばれあり)
 ある日、歌舞伎町の片隅で町会長が遺体で発見される。心不全による病死とされたが、それを巡って“歌舞伎町セブン”という殺し屋の伝説が浮かび上がってくる。
 “歌舞伎町セブン”という題名から思い浮かんだのは、「七人の侍」やそのハリウッド・リメイクである「荒野の七人」、「黄金の七人」や「暁の七人」という映画です。集団で何かをやるときは、仲間はたいてい7人です。この作品も読む前は題名からして、歌舞伎町を舞台に7人の登場人物が活躍する物語だと思ったのですが、当たらずといえど遠からずというところでしょうか。(ただ、今回は7人という人数にそれほどこだわるほどのものではないと思うのですが。)
 誉田さんの作品「ジウ」シリーズに登場する東警部補がチョイ役で登場します。「ジウ」で描かれた歌舞伎町占拠事件は6年前に起こった事件として語られています。そこで、気になったのは、登場人物の一人、サイボーグのような女性、ミサキの素性です。ラスト近くで「もとは警察関係の方ですか」と問われて、コンマ何秒か答えるのをためらったのち「違うよ」と言っていますが、まったく性格が異なりますが、同じ名前の登場人物がいましたよね。もしかしたら・・・。
 ストーリーとしては、途中でだいたいの流れが読めてしまいます。ラストもうちょっとバタバタあるかと思ったのですが、意外にあっけなく終わってしまいましたね。
 かつて一世を風靡したテレビドラマ、必殺シリーズの第1作目、必殺仕掛人の中で、緒形拳さん演じる仕掛人の梅安が悪女の実妹を仕掛けるエピソードがありましたが、今回この作品を読んでいて、そのエピソードを思い出しました。
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妖の華 文春文庫
(ネタばれあり)
 喉元を大型の獣に食いちぎられたような惨殺死体が発見される。捜査本部が大型獣を捜索する中、井岡は、3年前の暴力団員殺害事件と酷似しているとして別の面からの捜査を始める。
 「ストロベリーナイト」などの姫川シリーズの井岡刑事が重要な役柄で登場していますが、警察小説ではありません。内容はいわゆる伝奇小説というジャンルです。闇神と呼ばれる吸血鬼の女性、紅鈴を主人公にした作品です。彼女を愛する男性、そしてなぜか彼女の行方を探し回る暴力団、その関わりの中で起きる殺人事件がスピーディーに描かれます。
 井岡がセクハラで同僚からは煙たがられるというキャラは、姫川シリーズと同じだったので安心したのですが、何せ今回は相手が吸血鬼ですから、井岡のノー天気なキャラではどうにもなりません。
 血が飛び散る劇画のような作品で、今まで読んだ誉田さんの作品とはちょっと違います。ただ、誉田さんの作品に登場するヒロインは相変わらず強いですね。
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シンメトリー  ☆ 光文社文庫
 表題作を始めとする7編からなる姫川シリーズ初の短編集です。表題作が「シンメトリー」=「対称」ということから、これを真ん中(4作目)にして、両側にシンメトリーとなるような題名の作品が並ぶという凝った作りになっています。
 気が強くて、ときに怒り、格好をつけ、他人を出し抜こうと考える等々姫川の決して完璧ではないが、どこか惹きつけられるキャラが各編に描かれているのがシリーズファンとしては嬉しいところです。
 7編どれもおすすめですが、特にといえば、次の3編です。気になるキャラクターが登場するのが「過ぎた正義」です。法では裁ききれなかった犯罪者が不審死を遂げる。姫川の捜査で浮び上がったのは2つの事件に関わりのあった元刑事の倉田修二。姫川と倉田の対決シーンは読ませます。
 生意気な女子高校生を完膚無きまでに叩きのめす「右では殴らない」は、読んでいて胸がスカッとします。小娘!私を舐めるとただじゃすまないわよ!という感じの姫川が魅力的です。
 表題作は犯人が主人公で姫川が脇役の作品です。主人公の男の悲しさにグッときてしまいます。ここでの姫川は格好つけすぎです。まあ、それも姫川らしいですが。
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インビジブルレイン  ☆ 光文社
 暴力団員の殺害死体が発見され、犯人としてかつて姉を殺され、犯人と噂された父親が取調べ後に警察官の拳銃を奪って自殺したという過去を持つ青年を名指しするタレこみがある。警察上層部から圧力がかかる中、玲子は彼の捜査を続けるが・・・。
 姫川シリーズ第4弾です。今までは姫川班の班員が一致協力してことに当たるという感じでしたが、今回は上層部から捜査が禁じられているせいもあってか、菊田たち姫川班の班員の活躍がみられません。シリーズファンとしては残念なところです。
 さらに姫川ファンとしてちょっと悲しいのは、この作品では姫川の恋が描かれるのですが、姫川があんなに簡単に恋に落ちてしまうかぁ!!!という点です。仕事柄、その恋はいけないだろうと思うのですが、ブレーキが利きません。あれではまるで少女の一目惚れと同じです。単に男勝りの強い女だけの面だけでなく、普通の女性としての面も覗かせてくれたといえば言えるのですが、姫川に恋焦がれる菊田の一途さがかわいそうになります。
 そして、もう1点残念といえば、「スロベリーナイト」「ソウルケイジ」と、強烈な印象を与えてくれた井岡が、今回も登場しますが、わずかな登場シーン、それもまったくの脇役です。シリーズ・キャラクターとしてなくてはならない男だと思っていたのに、誉田さん、井岡に対してあまりにひどい仕打ちです。
 ラスト、今後のシリーズの継続が気になる終わり方でしたが、2月にはシリーズ最新作「感染遊戯」が出版されてホッとしたファンも多いでしょう。でも、今回のラストと「感染遊戯」での姫川の地位はどう整合性をとったらいいのでしょう。
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感染遊戯 光文社
(ちょっとネタばれ)
 姫川シリーズ第5弾ですが、今回は姫川は脇役、というか、登場シーンはわずかです。
 物語は、最初に姫川を目の敵にしている捜査一課殺人犯捜査係のガンテツこと勝俣警部補が捜査する製薬会社サラリーマンが被害者となった殺人事件が、次にシリーズ第3作「シンメトリー」中の一編「過ぎた正義」に登場した倉田元警部補が息子の起こした殺人事件の直後に関わった二人の男女の殺傷事件、3番目にかつて第十係で姫川の部下だった葉山巡査部長が担当した老人同士の小競り合いという3つの事件が描かれます。彼らがそれぞれ主人公の短編集かと思ったのですが、実はそれらはすべて繋がりのある事件であることが、最後の「推定有罪」で明らかになります。
 全体を通しての事件の動機となっている事実は、ニュースでもよく取り上げられたこと。政権交代の際も大きなテーマになっていました。でも、あれだけ声高に叫ばれながらも、民主党政権になっても結局は自民党時代と変わっていません。この事件の犯人が憎む者たちは政治家たちでは役者不足です。
 3人の主人公の中では倉田元警部補が強烈な印象を残します。ここで、彼が「過ぎた正義」で描かれる行動をとるようになるきっかけが語られていますし、「過ぎた正義」の後日譚も語られています。倉田にとって衝撃的な事実が姫川の口から明らかにされますが、このあたりのことが1エピソードに留まってしまったことは残念です。誉田さんには、これをテーマに姫川と倉田との関係(闘い)をもっと膨らませて描いてほしかった気がします。
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レイジ 文藝春秋
 誉田哲也さんといえば、剣道に青春をかけた二人の女の子を描いた“武士道シリーズ”がありますが、こちらは、バンドにかけた二人の男子を描いた青春小説です。同じ青春小説ですが、中学から大学までをじっくり描いた武士道シリーズに対し、20年の時を1冊の中で描くので、展開が駆け足です。そのためか、出来事を表面的に描くだけに止まってしまった部分もあった気がします。誉田さん自身がプロのミュージシャンを目指したこともあったそうなので、実体験がかなり反映された作品となっているようです。
 あまりにストイックで人当たりの悪い礼二と、対照的に人付き合いがよく、うまく社会を泳いでいくワタル。中学の文化祭で1回だけバンドを組んだものの、考え方の違いから礼二はバンドを離れます。それ以降、二人が別々の道を、時に意識し、時に反発しながら歩んでいく姿が描かれていきます。
 世渡り上手のワタルより、不器用な礼二に声援を送りたくなりますが、礼二があまりに完全主義者すぎて(若い頃は誰でもそういう点はあるのでしょうが)、彼に共感を覚えることができませんでした。逆にワタルの方が、礼二に嫉妬したり、バンドで挫折したりと人間らしくて共感できました。青春小説という好きなジャンルでありながら、そのあたりがこの作品に深く入り込めなかった理由かもしれません。
 ラストは想像がつく終わり方でしたが、後半礼二を支えた女の人のことは結局どうなってしまったのでしょう。
 この作品中の“風の彼方に”という曲がYouTube等で流されています。誉田さんが歌っているのかな?
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ドルチェ  ☆ 新潮社
 練馬警察署刑事組織犯罪対策課強行犯係の巡査部長・魚住久江42歳を主人公とする連作短編集です。誉田さんの別シリーズの主人公姫川令子とは異なり、捜査一課への異動を打診されても、断って所轄にいることを選択する新たなヒロインの登場です。
 捜査一課への異動を断る理由は、最初の「袋の金魚」のラストで“誰かの死の謎を解き明かすことより、誰かが生きていてくれることに、喜びを感じるようになった”と簡単に書かれているだけです。彼女自身はその理由が“年のせいだろうか。それとも、長いこと独り身だからだろうか”と考えていますが、実は、彼女がそう考えるに至った何かの事件があったのではないかと想像するのですが・・・。今回の作品の中では描かれていませんが、いつか描かれるのではないかと密かに期待しています。
 幼児死亡事件から思わぬ真相が現れてくる「袋の金魚」、女子大生が被害者となった強盗致傷事件の裏側に隠された真実を描く「ドルチェ」、強制わいせつ事件の捜査の過程で明らかになるある切ない事実を描く「バスストップ」、引きこもり男の起こした事件を描く「誰かのために」、乳飲み子を抱えた妻が夫を突然刺した事件を描く「ブルードパラサイト」、酔っ払い運転で友人を礫いてしまった事件の真相を描く「愛したのが百年目」の6編が収録されていますが、姫川令子シリーズのような猟奇殺人が起きるわけでもなく、派手さはありません。それに事件の解決そのものよりも、事件の周辺や背景に目を向けている部分が多いのも特徴です。
 登場人物のキャラにしても、頼りのない係長の宮田、魚住を慕って交番勤務から刑事になった峰岸、昔ながらの刑事の元マル暴の里谷など、ちょっと地味です。魚住自身も中年太りを気にしているというだけで、容姿についての詳細な記載がありません。でも、犯人に説教したり、恋の仲立ちをしたり、ある人物に平手打ちを喰らわせたりと人間味のある刑事として姫川とはまた違う点で気になる刑事です。おススメです。
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あなたの本 中央公論新社
 書き下ろし1編に雑誌等に発表された6編を加えた短編集です。統一的なテーマがあるわけではなく、各編はサスペンス、ファンタジー、SFと様々で、これまで読んだ誉田作品とは違った風味の作品が並びます。
 冒頭の「帰省」は、この短編集の中では、これまでの誉田作品の雰囲気を一番感じられる話といっていいでしょう。育ててくれた祖母が止めるのも聞かず、都会へと飛び出してきた女性が、祖母の言葉を痛いほど知るようになる様子を描きます。これはちょっと恐いです。サスペンスというよりホラーです。
  「天使のレシート」と「見守ることしかできなくて」は少年の淡い恋を描いたもので、どちらも悲しい結末を描いていますが、「天使のレシート」の方が容赦のないラストといった感じになっています。
 表題作の「あなたの本」は、父親の部屋で見つけた「あなたの本」と題された本を巡る話です。そこには主人公の生きた過去からこれから生きる未来のことが記されてあったのですが、未来を知りたいが何が起きるのか知るのは恐い、未来に起こることを知るのはアンフェアではないかと、悩む男を描きます。ラストは、あまりに不条理。こんな結末でいいのかと憤ってしまいます。誉田さんは意地が悪いです。
 最後に置かれた「交番勤務の宇宙人」は、題名どおり、そのままズバリ、交番の警官を務める宇宙人の話です。ウルトラマンを想像させる描写もあり(腕で×印を作ると光線が出てしまうというのには笑ってしまいます)、SFというよりほのぼの系といった方がいい作品です。
 残る「最後の街」は若くして人生で成功を収め、目的を見失った男が“この世の果て”と言われている場所を目指す話、「贖罪の地」は原始人と神あるいは異星人を思わせる存在(ネタ割れになるので伏せますが)との関わりが描かれるSF系の作品となっています。
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ヒトリシズカ 双葉文庫
(ネタバレあり)
 異なる6人の口から語られる6つの事件。語り手は警察官(一人は元警察官ですが)なので、彼らを主人公にした警察小説かと思いましたが、彼らは単に事件の背後に存在する一人の女性を浮かび上がらせるためだけの役割を担っているにすぎません。
 事件の背後から浮かび上がる本当の主人公ともいうべき女性は、日本人形のような容姿を持ちながら、やくざなどを虫けらのように扱い、他人を利用し人を殺すことも躊躇しない恐ろしい女性です。
 特に2話目「蛍蜘蛛」のラストで語り手の警察官と対峙する場面や3話目の「腐屍蝶」で語り手である元警察官の探偵が陥れられていく様子の怖さといったら尋常ではありません。権謀術数に長けているというだけではすまされません。その裏側には異常性さえ感じられます。何故に彼女がそうなったのかは4話目の「罪時雨」で、その原因の一端が語られるのですが、それだけではそこまでなるかという思いがあります。常に物語の背後にいてほとんど前面に出てこないことにより、謎の女性という印象を与えることはできましたが、それが逆に読者が彼女の姿をはっきり描くことができないことにもなったのではないでしょうか。
 非常に残念だったのは、最終話、それまで心に描いていた彼女のイメージががらりと変わる展開になってしまったこと。それまでの冷血な悪女というイメージからの落差が大きすぎます。どうせなら最後まで悪女でいてほしかったと思う人も多いのではないでしょうか。
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あなたが愛した記憶 集英社
 まだ1歳にも満たない子を殺したことで逮捕された興信所経営の曽根崎。弁護士の接見の時にも口をきかず、沈黙を貫いていた。しかし、彼の知り合いはみな、彼はそんなことをする人ではないと訴える。
 冒頭の曽根崎と弁護士の接見の場面から、物語は時を遡ります。曽根崎はある日、自分の娘と名乗る女子高校生・民代から、二人の男の行方を捜すよう依頼される。その男たちは巷を騒がせている婦女暴行殺人事件に関わっているという。なぜ、彼女が彼らを捜そうとするのか、そしてなぜ彼女は彼らが事件に関わっていることを知っているのか、民代からは理由が明かされないまま曽根崎は二人の男の行方を追う。
 序盤を読む限りでは、探偵と娘の女子高校生がコンビで事件を解決していく話かと思いました。その設定から樋口有介さんの探偵・柚木シリーズに残酷描写を加えたような作品かなと勝手に考えたのですが、まったく違いました。思わぬ展開にびっくりです。ミステリーかと思って読むと裏切られます。そういえば、帯には“ホラーサスペンス”とありました。中盤まで読んで、ようやく冒頭の曽根崎の犯した事件の裏に隠された事実が浮かびあがってきましたが、これはちょっと恐ろしい。
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ハング 中公文庫
(ちょっとネタばれ)
 宝石店店主の殺害事件の再捜査にあたった津原ら警視庁捜査第一課特捜一係堀田班の刑事たち。新たな容疑者が浮かび、自供によって一件落着かというときに、突然堀田班の面々に所轄署への異動が発令される。その後、裁判で被告人が自供を翻し、堀田班の一人だった植草に強要されたものだと主張する。時をおかずに植草が首吊り死体で発見されるが、津原は事件の裏には何かがあると感じて、刑事を辞めた小沢とともに調べ始める。
 誉田さん、お得意の警察小説かと思いましたが、「ストロベリーナイト」のように主人公が部下や同僚と力を合わせ組織で犯罪を追っていくというスタイルではありません。津原は単独捜査に走り、小沢はそもそも異動先の地域課に嫌気がさして警官を辞めてしまったのですから。二人は、組織の後ろ盾がなく巨悪に立ち向かいます。読者には最初に巨悪の存在を知らしめていますので、事件の概ねの構図は、だいたいわかっています。物語の焦点は、津原らが巨悪にどう立ち向かっていくかにあります。そして、もうひとつ、物語をおもしろくしているのは、巨悪の手足となって働く男の存在です。ラスト近くになってようやくその存在が明らかになりましたが、できれば、彼のキャラをもう少し描いてほしかった気がします。“ジウ”のような存在にもなり得たかもしれません。ラストの謎解きにすっきりしましたが、果たして津原の行く末はどうなるのでしょうか。
 帯に「ストロベリーナイト」や「ジウ」を凌ぐとありましたが、読者の興味を引くためとはいえ、いくら何でも、それは言い過ぎの感があります。
 冒頭では班員がそろって女の子を誘って泳ぎに行っているシーンがありますが、今まで読んだ警察小説の中で、刑事たちがプライベートで合コンのをする場面などありませんでした。だいたい男同士で飲むシーンですからね。そういう点でもちょっといつもと違いました。
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ブルーマーダー  ☆ 光文社
 姫川令子シリーズです。「インビジブルレイン」での事件の責任を問われ、本庁から池袋署刑事課へ異動になった姫川。そうはいっても、おとなしくしていることはなく、相変わらず自分が!という感じのままです。今回は、池袋に巣くう暴力団、中国人組織、半グレら裏社会の住人が次々と撲殺されていく事件を追います。
 この作品には、「ブルーマーダー」と呼ばれる裏社会の住人にも恐れられる殺人鬼が登場しますが、この殺人鬼の情け容赦のないことといったら、凄いです。果たして、彼は何のために殺人を続けるのか。この作品の読みどころです。
 事件を追う姫川たちとは別に、かつて警察のスパイとして暴力団に潜り込ませ、ある日忽然と姿を消した木野の行方を追う「インビジブルレイン」にも登場した下井警部補や、振り込め詐欺の使いっ走りをしていて逮捕され、護送途中の護送車の交通事故で逃走した岩淵を追う菊田が描かれます。彼らの一見バラバラの事件がやがて―つとなったときに、事件の全体像が姿を現します。いやぁ〜読み応え十分です。
 「インビジブルレイン」で姫川班が解散することとなったのはシリーズの大きな転機でしたが、それ以上に今回は姫川を取り巻く状況に大きな変化が起こります。シリーズファンにとっては衝撃の出来事です。ラスト、犯人に対峙したときの姫川の思いにファンなら泣けてしまいます。
 姫川にちょっかいを出す井岡巡査部長は、この作品では最初と最後に電話だけの登場です。おまけみたいなものですけど、登場しないとちょっと寂しい気がしますね。一方、強烈なヒール役キャラのガンテツが相変わらずの口調で姫川に対しているのは、シリーズファンとしてはある意味嬉しいところです。
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主よ、永遠の休息を 実業之日本社文庫
 コンビニで偶然強盗事件に出くわした通信社の記者の鶴田。ある男の力を借りて犯人を取り押さえるが、男は現場から立ち去っていく。後日、コバヤシと名乗ったその男から連絡があり、近所の暴力団事務所で騒ぎがあったという情報を与えられる。鶴田が調べると、そこではAVのネット配信を行っていたが、何者かが侵入し、機器を壊していったらしい。鶴田はネット配信の中にかつて事件となった少女暴行殺害事件の実録映像が流されていたことを知り、特ダネを狙って組員に近づくが・・・。
 物語は鶴田と、強盗事件がきっかけで鶴田が親しくなったコンビニのアルバイト店員桐江の語りで交互に進められていきます。ネットで配信された事件については、多くの人が「ああ、あの事件をモデルにしているな」とわかるほど有名な事件をモデルに、当時はなかったネット配信という現代的なものを付け加えています。
 精神的に不安定な桐江の様子を読むと、だいたいの話の様相は想像できます。最初に貼ってある伏線がわかりやすかったですし。でも、結末があんな結果になるとは思いませんでした。あまりに悲しすぎます。
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ドンナビアンカ 新潮社
 練馬署組織犯罪対策課強行犯係の女性刑事、魚住久江を主人公に描く「ドルチェ」に続くシリーズ第2弾です。前作は短編集でしたが、今回は長編です。
 誉田哲也さんの描く女性刑事で有名なのは「ストロベリー・ナイト」の姫川玲子ですが、魚住久江は姫川玲子のような美人でスタイルが良く捜査一課の刑事という特色あるキャラと違い、今回もかなり地味です。物語は、飲食店に卸売りをする酒屋で働く村瀬という40代の男と魚住久江の視点で交互に描かれていきます。酒の配達中に出会った中国人キャバクラ嬢・瑶子に惹かれる村瀬。彼女が飲食チェーン店の専務・副島の愛人だと知りながらも、小さな居酒屋で彼女と一緒に食事をすることだけに喜びを感じる村瀬。一方、久江が追う事件は二人の男の身代金目的の誘拐事件。姫川玲子の扱う事件のような派手さはなく、淡々と捜査は進んでいきます。誰かの死の謎を解き明かすことより、誰かが生きていくことに喜びを感じる久江らしい事件の展開です。
 誘拐事件の被害者が副島と村瀬であり、村瀬の語りで進む話の内容から、事件の様相はだいたい予想できてしまいます。その点ではミステリという謎解きや姫川玲子シリーズのようなスリリングな展開を期待すると裏切られます。それよりも、この作品は瑶子に一途な思いを寄せる40男の恋愛物語だといえます。
 魚住を慕って交番勤務から刑事になった峰岸が今回はかなり活躍します。姫川玲子に対する菊田のような存在になるのでしょうか。
 それにしても、「ドンナビアンカ」という題名の意味は何なのでしょう? 花なのかな。
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歌舞伎町ダムド 中央公論新社
 「ジウ」、「歌舞伎町セブン」から繋がる作品です。
 歌舞伎町で人質籠城事件が発生し、犯人は東警部補を呼ぶよう求める。東が現場に急行したところ、犯人は素直に投降するが何も話さず、検察庁へ取り調べに送られた際に自殺してしまう。事件が犯人の自殺で終結しようとする中、疑問を感じ個人的に調べ始めた東警部補に魔の手が襲いかかる。
 7年前に日本を震撼させた歌舞伎町封鎖事件に関わった“ジウ”に心酔する“ダムド”と呼ばれる殺人鬼が登場。物語は、籠城事件の裏を探る東警部補、ダムドと呼ばれる殺人鬼、東を陰で守る現代版“必殺仕事人”というべき“歌舞伎町セブン”の“欠伸のリュウ”という通り名を持つ陣内とミサキこと伊崎基子元巡査部長の4人が中心となってストーリーは進んでいきます。
 今回は題名にもなっている“ダムド”と呼ばれる殺人鬼の登場が目玉ですが、薬漬けの猟奇的な殺人犯というだけで、それほどキャラが立っていなかった嫌いがあります。
 それより、この作品の読みどころの一つは、「歌舞伎町セブン」でははっきり描いていなかったミサキの正体が「ジウ」の警視庁捜査―課特殊犯捜査係の伊崎基子巡査部長であること、刑務所にいた彼女がどうして“歌舞伎町セブン”の―員となっているかが描かれているところにあります。心がないと思われていた基子の別の顔を知ることになります。
 また、キャラとしても“歌舞伎町セブン”の陣内や、元警官のジロウの方がキャラ立ちしていました。
 ラストで一応の決着は見せましたが、いまだ“新世界秩序”が存続している以上、ジウサーガは続いていくのでしょう。今後の展開が楽しみです。
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インデックス  ☆  光文社 
  姫川玲子シリーズ第7弾です。8編が収録された連作短編集です。「インビジブルレイン」後、池袋署強行犯係に左遷されて以降、再び本庁の捜査一課に戻って関わる事件が描かれていきます。
 冒頭の「アンダーカヴァー」は、中小企業を舞台にした取込詐欺事件を描きます。ここには自分の犯した犯罪により人が自殺しても何ら痛みを感じない冷酷な犯人が登場します。常識では計り知れない犯罪者の姿を玲子と対峙することにより描いていきます。「ブルー、マーダー」の殺人鬼のようです。短編の中だけに登場させるにはある意味もったいない犯人でした。
 薬物中毒で発見された変死体事件を描いた「女の敵」は、題名どおり女性にとって腹立たしい犯人でした。裁判官だったら極刑を申し渡したいくらいです。
 「彼女のいたカフエ」は、書店の中の喫茶コーナーで働く女性の目を通して、警察官になる前の姫川の姿が描かれるこの作品集の中ではちょっと異質の作品です。
 「インデックス」は、“ブルーマーダー事件”の後日譚です。暴力団の組長が行方不明になっているのが、ブルーマーダー事件の被害者となったのではないかと捜査をする姫川の前に暴力団組長の意外な姿が浮かび上がってきます。
 「お裾分け」で描かれるのは大地主の殺人事件。この作品では借地権問題について大いに勉強させてもらいました。借地借家法で規制されているといっても、法の与り知らぬところで根深い問題があるようです。
 「彼女のいたカフエ」同様、「落としの玲子」も事件とは関係ない話です。管理官となった今泉と飲んでいる席で今泉から取調べが下手と言われた姫川が、机の下にあったものを拾ったことから今泉を追い詰めていくという話。上司もこれではたまったものではありません。
 「夢の中」と「闇の色」は前・後編という形のストーリー。事件を起こした後に自殺を図った通り魔事件の加害者の身元を探っていくうちに、事件の裏に潜んでいた悲惨な過去に行き着いてしまう姫川らを描きます。
 捜査―課では新たな姫川班のメンバーが登場しますが、やさぐれていたり、嫌みな熟女だったり、目付きが悪かったりと、個性的なメンバーばかり。姫川班の再結成を望む姫川に対しては、ラストで答えが示されます。これからが新たな姫川玲子シリーズの始まりになるのでしょう。
 相変わらずの井岡には笑わせてもらいましたし、「ドルチェ」らに登場する魚住久江の名前が出てきたり、ファンには嬉しい作品となっています。
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武士道ジェネレーション  ☆  文藝春秋 
 武士道シリーズ第4弾です。今回も前作までと同様香織と早苗の交互の語りで物語は進んでいきます。
 香織と早苗の16歳、17歳、18歳と描いてきたシリーズも、今回いっきに冒頭早苗の結婚式のシーンから始まります。結婚相手は桐谷道場に教えに来ていた沢谷充也。この二人がどうして結婚することとなったのかを、まずは、香織、早苗の大学生活とともにさらっと描いていきます。香織は大学生になっても相変わらず。入学早々不埒な男子学生を成敗(!)するシーンには拍手喝采です。シリーズファンとしては、こうした大学時代の香織の活躍をもう少し詳しく描いてもらいたかったなあという気もします。
 物語の中心となるのは、桐谷道場の行く末です。道場主の玄明先生が心臓の病から道場を閉めようとしますが、香織はどうにか自分が続けていきたいと考えます。物語は玄明先生から道場の後継者として認めてもらおうと切磋琢磨する香織、それを助けて香織を鍛える沢谷充也、そしてそんな二人を陰で支える早苗が描かれていきます。香織に振り回される早苗と、早苗を振り回しているとは微塵にも思っていない香織という名コンビが今作でも健在。二人のやりとりに思わず笑ってしまいます。それにしても、足し算引き算さえまともにできない香織に苦笑。
 良き後輩である田原やライバルである黒岩伶那も登場し、シリーズファンとしては嬉しい限りです。また、香織が教える桐谷道場の中学生たちの試合模様も描かれますが、これがまたまっすぐな中学生らしい感動のエピソードとなっています。更には新しい登場人物として充也の友人であるアメリカ人のジェフ・スティーブンスが登場。桐谷道場で剣道修行をするということで、香織と関わってきますが、さて・・・。とにかく、シリーズファンとしては堪らない物語でした。ラストも最高です。
 早苗が自分の歴史認識を披露する場面がありましたが、これは誉田さんが早苗の口を通して自分の歴史観を語っていると思うのですが、主義主張はともかく、このストーリーの中ではちょっと違和感がありました。 
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プラージュ  幻冬舎 
 たった一度、魔が差して酔った勢いで覚醒剤を使用し、逮捕された貴生。執行猶予となり釈放されたが、住んでいたアパートが火事で焼け出されてしまう。保護司の紹介で、不動産屋から「プラージュ」というシェアハウスに案内され、安い家賃と入居者の女性のひとことで、入居することを決める。そこに住むのは1階でカフェを開く大家の潤子をはじめとする女性3人と男性3人。一方、“記者”は、殺人容疑で1審の裁判で懲役12年の判決を受けたAが、2審で証人が証言を翻したため無罪となった事件を追っていた。釈放されたAが「プラージュ」に住み始めたことを知って・・・。          ,
 物語は人生をやり直そうと必死で就職活動をするが、前科があるため、なかなか仕事が決まらない貴生を描いていきます。ここは非常に重いテーマです。犯罪を起こした者はその事実を背負って生きていかなければならないのは当然ですが、果たしてそれ故普通に生活することはできないのか。彼らに再生のチャンスは与えられないのか。被害者側からすると、加害者が幸せに生きていくなんて許せないと思うでしょうし、世間の人の考えもだいたい同じでしょう。現在の再犯率が高いのも罪を償っても世間の目が冷たいというところにもある気がします。
 “記者”の章を挿入することにより、果たして“記者”とは誰か、Aとは“ブラージュ”の住人の中の誰かというミステリ色が加わってきます。読んでいく中で、二人が誰なのかは見当がつきますが、“記者”の目的がはっきりわかりませんでした。誉田さんは単に二人が誰なのかを明らかにするだけでなく、思わぬ捻りを効かせて、そこを明らかにしています。ちょっと予想外でした。
 犯罪者の更生という重いテーマでしたが、ミステリの要素も加わって、読みやすくていっき読みです。 
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硝子の太陽 ルージュ  ☆  光文社 
 姫川玲子シリーズとジウサーガのコラボ作品ですが、こちらは姫川玲子シリーズの1作です。
 捜査一課に戻った姫川が今回捜査に当たるのは、祖師谷での一家3人の惨殺事件。捜査が進まないなか、玲子が現場付近で出会った男が殺害される。男は歌舞伎町に詳しいフリーライターで、殺害される直前に新宿署の東警部補と会っていたことから、玲子は東を訪ねるが・・・。
 捜査一課に戻ったものの、かつての姫川班のメンバーはそれぞれ異動となり、唯一菊田だけが主任に昇任して姫川班に呼び戻されています。また、相変わらず捜査一課で憎まれ者のガンテツの班にはかつて姫川班のメンバーだった葉山が加わっています。更には、玲子に恋する井岡も同じ係ではないものの捜査一課に異動となっていて、姫川につきまとっているのが愉快です。ここまで懲りずにいると、何だか願いを叶えさせてあげたいくらいです。
 物語は姫川たちの捜査を描く部分と並行して、元アメリカ兵士らしい男の一人称で彼が日本滞在中に殺人を犯し、逮捕されずにアメリカに戻った後再び日本に戻ってくる様子が語られていきます。読者には最初から犯人はこの男だろうということが示されているのですが、果たして姫川がどこでこの男と交錯するのか、気になりながら読み進むこととなります。このあたり、誉田さん、簡単には犯人逮捕ということにはしません。ちょっと捻り技を見せてくれます。
 ジウサーガとのコラボ作品と謳われているように、新宿署の東警部補が登場し、玲子と腹の探り合いをしますが、姫川が追う事件と東たちが追う事件は直接的には別なので、両者が共闘してということはありませんでした。そこはちょっと残念なところ。姫川とミサキが出会ったらどうなるだろうと興味があったのですが。
 なお、猟奇的な殺人のシーンが事細かく描写されるので、女性にはちょっとその辺りは読むのが厳しいかも。食事時には注意です。
 ラストでは、シリーズにはお馴染みの人物が登場し、また新たな展開を予想させる終わり方となっているので、まだまだシリーズは楽しませてもらえそうです。 
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硝子の太陽 ノワール  ☆  中央公論新社 
 姫川玲子シリーズとジウサーガのコラボ作品のうち、こちらはジウサーガの1作です。
 「硝子の太陽 ルージュ」とどちらから読んでも大丈夫ですが、ただこちらは“新世界秩序(NWO)”や“歌舞伎町セブン”のことが前提でストーリーが進んでいくので、ジウシリーズや「歌舞伎町セブン」、「歌舞伎町ダムド」を読んでいないと、話のおもしろさについていけません。
 物語は「ルージュ」でも描かれていた沖縄で米憲兵隊の車が老人をひき殺したシーンを撮った写真がネットに拡散し、それをきっかけとして全国で基地反対のデモが起こっている中で、歌舞伎町セブンの“目”であるルポライターの上岡が殺される事件から始まります。
 新宿署の東警部補は別件逮捕をされた左翼の大立て者・矢吹近江の取り調べを担当するが、やがて、デモの裏にある大きな思惑が隠されていることを知る。一方、“欠伸のリュウ”こと陣内陽一ら歌舞伎町セブンのメンバーは、上岡を殺害した者の正体を探り始めるが・・・。
 「ルージュ」を読んでいるときに、警察に不審な動きがあったのは、裏でこんな事件が起きていたからなんだと、「ノワール」を読みながら「ルージュ」で心の片隅にひっかかっていたことが明らかになりました。また、「ルージュ」では姫川玲子やガンテツが東警部補と対峙した際には玲子やガンテツ側の心の中しか描かれていなかったのですが、「ノワール」では同じセリフのシーンで東警部補の心の中が描かれており、両方を読むと、あの場面でのお互いのせめぎ合いがわかってなかなかおもしろく読むことができます。コラボ作品ならではですね。
 東警部補と歌舞伎町セブンとの微妙な関係が、今回更に近づいたような気がしますが、すっきりと事件が解決した「ルージュ」と違って、こちらは事件に果たして“新世界秩序”が関わっていたのか明らかにされておらず、今後に尾を引く終わり方となっています。
 また、東警部補とガンテツとの確執が描かれていますが、東警部補のガンテツヘの強烈な憎しみに対し、ガンテツはそれほどとも思っていないようで、今後のこの二人の関わり合いもシリーズを横断して語られていきそうで楽しみです。
 なかなか楽しいコラボ作品でした。満足しましたが、早く次が読みたいという欲求が強くなりました。 
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ノーマンズランド  光文社 
 姫川玲子シリーズ第9弾です。今回、玲子が関わる事件は、今までと異なって非常に政治的な事件です。北朝鮮問題や憲法改正問題が話題になっている今、登場人物の発する声に作者の今野さん自身の考えが現れている気がします。
 物語は、女子大生が自宅マンションの一室で殺害された事件を捜査する玲子を描くとともに、高校のバレー部の男女の淡い恋物語が語られていきます。ところが、ある日、ランニングに行くといって出かけたまま女生徒は姿を消してしまいます。果たして、この女子高校生失踪事件と玲子が捜査する女子大生殺害事件がどう関わってくるのか、更には女子大生殺害事件で浮かんだ容疑者が別の事件の犯人として逮捕されていることが判明するなど、物語は複雑な様相を見せていきます。
 今回の一番の見所は、ガンテツこと勝俣の今まで隠されてきた影の部分が語られること。なぜあんなに自由気ままに行動しても許されるのかという謎めいた部分がありましたが、それが今回の作品で明らかにされていきます。そうだったのかぁという感じですね。
 もう一つの見所といえば、新たなキャラクターとして東京地検検事の武見諒太の登場です。プレイボーイ然としたキャラですが、これが意外に鋭いものを持っていることが次第に明らかとなります。玲子の味方になってくれそうな武見が今後このシリーズの中でどんな活躍を見せてくれるのか、そして何かがありそうな勝俣との関係もどうなるのか、大いに興味が湧きます。 
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あの夏、二人のルカ  角川書店 
 物語は、仕事を辞め、離婚もして東京の谷中に戻ってきた沢口遥と彼女が近所で見つけたギター修理の店“ルーカス・ギタークラフト”の店主・乾滉一を語り手とする現在のパートと、高校生の佐藤クミコを語り手とする過去のパートが交互に描かれていきます。
 過去のパートは、ドラマーとしてプロを目指すクミコがギターを弾く谷川実悠と蓮見翔子とバンドを組み、やがて演奏はしないが縁の下の力持ち的な役割を担う真嶋瑠香が加わり、更には、瑠香が英語の授業の際、歌った歌がうまかったというクラスメートの森久ヨウを連れてきて、5人でバンドに取り組む高校生活が描かれます。この過去のパートは少女たちのいわゆる青春ストーリーが描かれており、物語の中心は、こちらの過去のパートになります。作者の誉田さん自身が15歳からロックバンドを始め、プロを目指していたということですから、この物語でいうクミコと同じ立場です。クミコが女性ということはありますが、彼女が誉田さん自身を反映するキャラだったのではないでしょうか。
 現在と過去のパートがどう繋がっていくのか、題名にもある“二人のルカ”とは誰を指しているのか。このあたりのストーリー展開は、誉田さんらしいミステリー風で読者にどうなっていくのだろうと考えさせます。
 ラストはちょっと捻りのない場所に落ち着きましたが、ミステリー小説ではなく青春小説なので、このエンディングが一番ですね。 
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ボーダレス  光文社 
(ちょっとネタバレあり)
 物語は、途中まで全く関係のないと思われる4つの話が交互に語られていきます。会話の中でストロベリーナイト事件のことが語られたり、女子高校生の書く小説どおりの展開が語られたりするので、もしかしたらこの話は作中に登場する小説家を目指す女子高校生の書いた小説ではないかと思ったりしたのですが・・・。
 4つの話は、精神を病んで山荘で暮らす父のもとを訪ねた八辻芭留と目の見えない妹の圭が夜中に侵入してきた男から逃れて山中を彷徨い歩くサスペンス、音楽大学の入試に2度失敗し、ピアニストになる夢を諦めて家に戻り父母の営む喫茶店を手伝う琴音とそんな姉を非難する妹・叶音で家の中がギクシャクしている市原家というホームドラマ、高校2年生の森奈緒とクラスメートでミステリー小説を書いている片山希莉の学校生活を描く青春小説、身体が弱く別荘で療養中の製薬会社の社長の娘が、別荘の生垣越しに歩いていくのを見る女性にしだいに惹かれていく恋愛小説というそれぞれお趣の異なるストーリーが語られます。いったい、どういう形でこの4つの話が繋がるのかと思ったら、やがて、登場人物が一堂に会し、物語の新たな展開となっていきます。
 ラスト、事件が完結した後で、それぞれの話の登場人物のこの事件を契機としたその後の成長が語られるところにホッとします。 
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歌舞伎町ゲノム  中央公論新社 
 現代の“必殺仕事人”とも言うべき“歌舞伎町セブン”によるシリーズ第4弾です。「○○御法度」という題名が付いた5編が収録されています。
 「兼任御法度」では、前作でメンバーの一人、ルポライターの上岡慎介を失い6人となった“歌舞伎町セブン”に、死体を処理することを請け負う“掃除屋”のシンちゃんが嫌々ながらメンバーに入ります。再び7人のメンバーとなった“歌舞伎町セブン”の再出発です。今作で“歌舞伎町セブン”が請け負ったのは女性を乱暴して自殺に追い込んだ元大学のラガーマン。相変わらず彼らの制裁は凄惨ですね。
 「凱旋御法度」は歌舞伎町で働いていたエジプト人を殺害した半グレが標的です。ここではミサキのキャラが強烈です。色っぽい顔をしてあの暴力は凄すぎとしか言いようがありません。
 「売逃御法度」では杏奈の元へある女性から死んだ友人の元彼氏の殺害依頼が飛び込みます。今回のストーリーはちょっと複雑。ラストで陣内があるものを始末してきたというセリフがカッコいいです。
 「改竄御法度」は新メンバーのシンちゃんが主人公。やくざに追われている少女から、やくざに捕まっている幼馴染を助けたいと聞いたシンちゃんは、その幼馴染の姿かたちから、それが自分が処理した死体だと知り、どうにか女の子を助けたいと考えます。この話、背後の隠された事実が複雑です。
 「恩赦御法度」では、“歌舞伎町セブン”と敵対する“新世界秩序(NWO)”に関わりのあるフリーライター、土屋昭子から陣内が助けを求められます。上岡の代わりの新メンバーを誰にするかというときに俎上に上がった晶子が今後どうなるのかも気になるところです。 
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背中の蜘蛛  双葉社 
 池袋署管内で男性の刺殺事件が起きる。捜査は難航したが、ある日捜査本部に詰める池袋署刑事課長の本宮は、捜査一課長からある人物を調べるよう密かに命令される。本宮が部下に命じてその人物を調べると、犯人に繋がる手がかりが出てきて、犯人は逮捕される。それから半年後、麻薬の売人・森田を追っていた警視庁組織犯罪対策部の植木は、森田を狙った爆弾の巻き添えを食って怪我を負う。植木が入院している間に、密告電話により、爆弾犯が逮捕される。事件の経過が納得できない植木に捜査一課の管理官となった本宮が声をかけてくる・・・。
 第1部と第2部で、それぞれの犯人の逮捕の経緯に納得のいかなかった刑事たちが第3部で真実を明らかにしていく様子を描いていきます。その彼らと対峙するのが本宮の後輩警察官であり、アメリカのFBI研修から帰ってきた上山。そして、そんな彼ら警察の話とは別に第3部から理(オサム)と名乗る男と前原涼太・幹子という姉弟の話が挟み込まれて物語は進んでいきます。
 違法収集証拠は裁判では証拠として採用されないため、正義の名の下に警察が取ったある手段。果たして、それは許されることなのでしょうか。監視社会の中で、一般市民としてはこの物語の中で語られることは非常に恐ろしいことだと思わざるを得ません。正義の名の下にといっても、今の社会を見ていると、権力者が自らを律して、きちんと道具を使用できるわけではないと思わざるを得ません。自分たちの権力を守るために使用するのではないかという危惧が大いにあります。本宮や植木のような警察官がいるとも言えませんし。 
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もう、聞こえない  ☆  幻冬舎 
 警視庁捜査一課の武脇はかつての同僚の依頼で所轄で起きた事件の加害女性、中西雪美の取り調べを行うこととなる。事件は、雪美が自室で男に襲われそうになり、テーブルの上にあった置物で殴って殺害したというもので、雪美自身が通報し、殺害も認めていることから簡単な事件かと思われた。しかし、雪美が、所轄署の強面の刑事の取り調べに泣いてばかりで供述が取れず、武脇が駆り出されたが、武脇の前でも、雪美は頭の中で女性の声が聞こえると供述したことから、話がややこしくなってくる。さらには被害者である浜辺友介の身元はわからないままであった・・・。
 物語は事件の取り調べと交互に“ゆったん”と“みんみ”という対照的な二人の女性の幼い頃から大人になるまでの友情を描いていきます。そこで語られるのは“みんみ”こと足立美波の殺害事件。果たして、美波の殺害事件と今回の事件との関係はあるのか。思わぬ設定が語られることによって、通常の誉田作品の警察小説を期待していると裏切られるかもしれません。個人的にはこういう設定は嫌いではありません、というより割と好きです。
 冒頭から作者の誉田さんはある点に読者のミスリードを誘いますが、それも中盤で自ら明らかにしてしまいます。まずはここで、「あぁ!やられたなあ」と驚くのですが、美波の殺害事件の動機にもびっくりですし、ラスト明かされるもうひとつの事実にも驚かされます。そうきましたか。 
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