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オムニバス ☆ | 光文社 |
姫川玲子シリーズ第10弾。題名から明らかなように、すでに雑誌に発表された7作品を集めたオムニバスです。各編はそれぞれ語り手を変えながら姫川班が担当する事件を描いていきます。 冒頭の「それが嫌なら無人島」は姫川が語り手。マンションの一室で女子大生が殺害された事件を捜査する姫川が描かれますが、これはシリーズ前作の「ノーマンズランド」でも描かれた事件です。「ノーマンズランド」では容疑者として浮かんだ男が別の事件で逮捕されており、この別の事件に焦点があてられたため、女子大生殺害事件の解決が語られませんでしたね。 「六法全書」の語り手は法律の条文を読んで珍妙な言い回しを見つけるのが在庁時の暇潰しという姫川班の巡査部長・中松信哉。五日市署管内で自殺した男の家から女性の腐乱死体が発見された事件の捜査に当たる姫川班が描かれます。身元不明のこの女性は何者なのか。 「正しいストーカー殺人」は姫川が語り手。ストーカー男が殺されたが、犯人として逮捕された女性がストーカーされるほど魅力的ではないと考えた姫川は別の理由があるのでないかと捜査するが・・・。同姓に対しても姫川は厳しすぎますね。 「赤い靴」の語り手は姫川班の女性刑事である日野利美巡査部長。若い女が同居している男を殺したと自首してきたが、名前を“ケイコ”と言うだけで、取り調べに何も話そうとしないため、所轄から姫川と日野が取り調べを依頼されます。果たして彼女は本当に殺害したのか。そして彼女の正体は何者なのか・・・。 「青い腕」の語り手は姫川。前作「赤い靴」のその後を今度は姫川自身が語り手となって描きます。自首をしてきた自称ケイコは、その後も何も語らず、姫川と日野は死んだ男の母親がケイコを知っているのではないかと訪ねていき、そこで、ある重大事件にケイコが関わっていたことを知ることになります。 「根腐れ」は姫川班の中では若手の小幡浩一が語り手。覚醒剤所持で自首してきた売れっ子モデルで女優の女性を取り調べることになった姫川が描かれます。女優ですから嘘をついても表情や口調から悟られないのはお手のもの。さて、姫川はどうするのかというストーリーです。 「それって読唇術?」では事件ではなく、行きつけのバーでひと時を過ごす姫川と前作「ノーマンズランド」で登場した東京地検公判部の検事、武見諒太が描かれます。シリーズファンにとっては、姫川と武見の関係がどう進展するのかが気になるところです。そしてこの作品ではラストで思わぬ事実が語られます。これは驚きの展開です。まさか姫川班にあの人が来るとはねえ。次作でのあの人の登場が楽しみです。姫川との関係はどうなるのでしょう。 今作では勝俣も井岡も登場はほんのわずかですし、姫川と菊田との関わりも少なかったのもちょっと残念なところです。 読んでいるとテレビで姫川を演じた亡竹内結子さんが思い出されます。やっぱり姫川のイメージとしては二階堂ふみさんより竹内さんですよねえ。 |
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フェイクフィクション | 集英社 |
物語は3人の男を描きながら進んでいきます。 ひとりは、五日市警察署刑事生活安全組織犯罪対策課の鵜飼道弘。彼は、東京都西多摩郡桧原村の山道で発見された首なし死体事件の捜査に現場に赴く。二人目は、製餡工場で働く河野潤平。彼は元プロのキックボクサーだったが、初めてKOされて以来、殴られることが怖くなってキックボクサーを引退、仕事を探していた時に製餡工場の社長に声をかけてもらい、以後働き始めて5年がたっていた。そんなとき、従業員として雇われた有川美折に一目惚れをしてしまうが、彼女は新興宗教「サダイの家」の信徒だった。三人目は、「サダイの家」の幹部であり、ヤクザの幹部でもある唐津郁夫。彼は若い頃、反目する組の構成員ともめ事を起こし逃げ込んだのが、今の教祖の父親が牧師をしていた教会だった。それ以降、牧師が新興宗教を開く際にも彼に付き従っていた。 新興宗教というと、いまだに「オウム真理教」のことが忘れられず、私たちの抱く新興宗教のイメージは悪く、ともすれば犯罪集団であり、イコール悪と思ってしまうのですが、この作品での「サダイの家」もまさしくそのイメージどおりの存在です。物語の展開としては、潤平と美折の「サダイの家」からの逃走を中心に置き、鵜飼や唐津がそれにどう関わってくるかというストーリーになっています。最初から鵜飼の怪しげな行動も描かれており、更には「サダイの家」の周りに現れる男女や首切りの殺人者など、サスペンス要素たっぷりの作品に仕上がっています。そんな中で潤平の美折への純愛が際立っています。 |
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ジウX ☆ | 中央公論新社 |
(ちょっとネタバレ) 広尾中央公国内のトイレから生きながら子宮を摘出された女性の死体が発見される。東警部補は捜査に当たるが、2か月がたっても身元が判明せず、事件は未解決のままだった。一方、陣内はNWO(新世界秩序)と関係のあるフリーライターの土屋昭子からある人物の驚護を依頼され、それをジロウに任せるが、ジロウからの連絡が途絶える。時を同じくして、陣内が経営する「エポ」に異様な男女が集団で現れ、歌舞伎町封鎖事件を起こしたNWO(新世界秩序)について話して去っていく・・・。 ジウサーガ第10弾です。今作では、こんなこと描いていいのかと思わせるほど、実際のことを想起させる出来事が描かれます。このモデルってあの人のことではないのかなあとついつい頭に思い浮かんできてしまいます。ここまで描いてしまっていいのかなあと心配するほどです。 今回描かれるのは、NWOの徹底的な中国嫌悪です。そのために政界・財界・学界の有力者たちに本人又は近親者の命の危険あるいはスキャンダルという圧力をかけて、彼らを反中国という自分たちの考える方向へと進ませます。そのための事件が東警部補の捜査する事件という形になります。 一方、陣内ら歌舞伎町セブンは、土屋から依頼されたことがNWOと対立するものだったことから、NWOと抗争することになります。今回、新たに登場したNWOの“キャット”と呼ばれる特殊な技能の持ち主たちとの戦いが読みどころです。 政界・財界・学界がこれだけの中国への強硬姿勢を見せた中で、日本はどう進んでいくのか、また、大きな痛手を負った歌舞伎町セブンとNWOとの戦いは今後どうなっていくのか。特に、相手のリーダーというべき黒のショートボブの女性との戦いはどうなるのか。 更に、“第2の目”である新宿署の歌舞伎町交番勤務の巡査部長である小川幸彦が新宿署から異動することにな り、歌舞伎町セブンを抜けることになる中で、果たして、その代わりは誰になるのかも気になります。 今まで信頼してきた者に裏切られた東の動向も気になるところです。小川と同じ警察官ということで東が歌舞伎町セブンの一員になるのも面白そうですが。 |
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マリスアングル | 光文社 |
シリーズ10弾です。前作「オムニバス」の最終話「それって読唇術?」で予告されていたとおり、別シリーズの「ドルチェ」「ドンナビアンカ」の主人公であった魚住久江巡査部長が姫川玲子シリーズに合流します。思い込んだら猪突猛進の姫川を思うがゆえに所轄の副署長に出た今泉が姫川の力になって欲しいと捜査一課からの誘いを断り続けていた魚住を説得して呼び寄せます。 長く空き家となっていた家で男の死体が発見される。家の一室は監禁部屋として改造されており、果たして男が監禁されていたのか、または監禁する側の人物だったのかはわからなかった。鑑識の結果、男のバンドについていた指紋が、二週間前に交通事故で病院に運び込まれた男の指紋と一致することがわかる。病院を訪れた姫川は男の顔を見て、男が朝陽新聞の会長の甥であり役員をしている葛城隆哉であることに気づく。現在、葛城は会長の孫娘と交際している国内ネット通販最大手ジャングルジャパンの社長・浦賀龍騎が朝陽新聞の乗っ取りを画策しているとして対立していた・・・。 相変わらず、自分がこうと思ったら上司の言葉など聞かずに突っ走る姫川に対し、魚住は物事を冷静に見て、対応していきます。今作では、同じ係とはいえ、直接にコンビは組んでいませんし、なにせ魚住が大人ですから姫川と対立することはありません。姫川も魚住の実績を見て遠慮しているところはあります。今後、二人が直接コンビを組んだ時にどうなるか楽しみですねえ。 ストーリーには在日韓国人、在日朝鮮人の問題や慰安婦問題が深く関わりを見せてきますが、私自身、その問題に対し深く考えることがなかったので、現実には果たしてこのとおりなのかは評価できません。朝陽新聞は、朝日新聞のことだと思いますが、会長の葛城恒太郎は読売新聞の渡辺会長をモデルにしている感じがしますね(誉田さんはウンとは言わないでしょうけど)。 |
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