MOMENT ☆ |
集英社 |
とある病院で清掃夫のアルバイトとして働く青年を主人公とした連作短編集。その病院には最後の願いを叶えてくれる人がいるという必殺仕事人伝説が噂されていた。主人公と入院している人との関わりを描きながら、果たして必殺仕事人はいるのかというミステリー仕立てで、読む者を引っ張っていく。最後に思いがけない事実が・・・ネタばれになるのでここまで(^^) 一緒に働く清掃婦のおばちゃんのキャラクターがおもしろい。 |
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FINE DAYS ☆ |
祥伝社 |
ちょっと不思議な4つのラブ・ストーリーからなる短編集。最後の「シェード」はO・ヘンリーの短編を髣髴させるような話。まるですてきなおとぎ話を読んでいるような読後感を与えてくれる。でも何といっても一番好きなのは2番目の「イエスタデイズ」である。主人公は余命幾ばくもない父に父が若い頃交際していた人を探すよう頼まれる。ひょうんなことからタイムスリップした主人公は若き頃の父と恋人と知り合う・・・。本の帯にも書かれているが、この作品の中の次の言葉には感動してしまった。「僕は今の君が好きだよ。たとえ、君自身が、やがて今の君を必要としなくなっても。忘れ去ってしまったとしても。僕は今の君が大好きだよ。」
今年度の僕の読了本のナンバー1を争う作品である。 |
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MISSING |
双葉社 |
1994年小説推理新人賞を受賞した「眠りの海」を始めとする5編からなる短編集で、本田孝好さんのデビュー作です。「このミステリーがすごい!2000年版」の第10位にランクインしたことを知って購入した作品です。
5つの作品の中では、平凡を嫌い、型にはめられるのを嫌がっていた自分がごく普通であることに気付いてしまい、悩む女性を描いた「瑠璃」が割と評判が良いようですが、僕としては、幼い頃妹が自動車に轢かれるのを目撃して以来、妹になりきって生活する女性の真意を探る「祈灯」が一番おもしろかったです。真実だと思ったその後ろに、もう一つ別の真実があるというミステリ色豊かな作品です。また、「蝉の証」は、生きていた頃の自分が忘れ去られることを恐れる老人の気持ちが心に染みます。 |
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真夜中の五分前 sideーA sideーB |
新潮社 |
小さな広告会社勤務の主人公は、大学生の頃、恋人の水穂を交通事故で失い、それ以来きちんとした恋愛ができないでいた。水穂は時計を5分遅らせる習慣があり、彼女が亡くなった今も彼の部屋の時計は5分遅れている。今は、カメラマンの助手の女の子と交際しているが、夜を共にしたことはなかった。そんなある日、彼は泳ぎに行ったプールで一人の女性かすみと出会い、交際するようになる。彼女は一卵性双生児の片割れで、ある悩みを抱いていた。
前作の「FINE DAYS」は、ジャンル分けすれば恋愛小説ですが、ファンタジーの要素がかなり強い作品でした。それに対して、今回は本多さん自身も言っているように、まったくの恋愛小説です。ただし、今年巷で評判だったセカチューのような、べたな恋愛小説ではありません。
主人公が僕にはいまひとつ理解できません、というか、こんな男はいたら嫌だなあと思ってしまいます。やり手であるが故に会社内で孤立している女性の上司から、他の人より評価されています。しかし、その人からの評価を得るためにがむしゃらになって、頑張っているようには思えず、ただ淡々と仕事をしているにすぎないのに、それなりの仕事をしてしまう、いってみれば、できる男です。それゆえ、他の社員から距離を置かれているが、そのことを本人は全然気にしていません。強い男ですよね。そのうえ交際しているカメラマン助手にしても、他の人がうらやむようなかわいい子です。仕事にも、恋愛を含めた人間関係にも、どこか一歩引いたところがありますが、いったい何が不満だろうかと、僕などは思ってしまいます(どうしても感想というより妬みになってしまいますね(^^;)。本当はクールでありながらも、傷つくことを恐れているのでしょうか。そんな主人公より脇役の女性上司や主人公が交際しているカメラマン助手の女の子の方が魅力的です。自分で考え、自分で決めていく強い人間です。
side-Aでは、主人公とかすみとの恋愛関係が描かれます。最後には恋愛小説としてのクライマックスがありますが・・・。 side-Bは、side-Aの1年7ヶ月後が舞台となります。ネタ割れとなるので、細かいことは言えませんが、一転してミステリアスな展開となっていきます。脇役たちもAとがらりと変わってきます。通常恋人を失った主人公の話ですので、当然そこから立ち直って、ハッピーエンドという結末を予想しますが、本多さんはそんな簡単なストーリーを考えていません(当たり前ですが)。主人公は最後にある決断をします。あ~そう来たかと思いますが、やっぱり、僕としてもそう言うのだろうなあ。 |
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正義のミカタ~I’m a loser~ ☆ |
双葉社 |
前作「真夜中の五分前」から2年半ぶりの本多さんの新作です。題名からして目を引きます。「正義のミカタ」ですからね。期待して読み始めましたが、期待が裏切られることなく、これがおもしろい。途中で止めることができずにいっきに読み終えてしまいました。
物語は、高校時代までいじめられっ子だった主人公蓮見亮太が、一念発起をして三流大学に入学し、ひょんなことから「正義の味方研究部」に入って、“正義のミカタ”としての活動をしていく様子を描いていきます。
題名が「正義の味方」ではなく「正義のミカタ」になっているのは、「ミカタ」は「味方」ではなく「見方」ではないかと僕としては思うのです。しょせん「正義」なんていうものは、その「見方」によってどうとでも言えます。こちらの「正義」とあちらの「正義」はぶつかることだってあるでしょう。自分たちで「正義の味方」なんていうのは、驕っている、そういう輩は信じられないと僕などは思ってしまうのです。「正義の味方」は他人がそう評価してくれるから「正義の味方」なんです。
ラスト近くで亮太が先輩に尋ねます「正義の味方だから、悪者はやっつけなきゃいけなかった。(中略)その中に、それをやっている自分をかっこいいって思う気持ち、全然ないですか?正義の味方である自分に酔っている気持ちって、まったくないですか?」 「正義」って、それを標榜している者にはすごく気持ちいいものですし、すべてが許される通行手形なんですよね。でも、その「正義」が間違っているとしたら・・・。この作品もある人物の登場によって、「正義」というものを考えさせられることになります。
それはともかく、この作品は青春小説です。いじめられっ子が、大学に入学して初めて本当の友達を持ち、女性に恋をするという姿に、ああ青春だなあ、亮太ガンバレと声援したくなります。楽しい作品でした。オススメです。 |
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チェーン・ポイズン |
講談社 |
(ちょっとネタばれ)
本多さんの新作はミステリーですが、本の帯に書いてあるように「生」の意味を問いかける作品でもあります。
ちょっと感想を書くのが難しい作品です。余計なことを書くと、ミステリーとしての種明かしをしてしまうことになりそうです。読者の前に提示された事実が、読者をある方向へとミスリーディングしていきます。
連続する服毒自殺事件を追う雑誌記者。人生に疲れ、死を考えるようになった30代のOL。話はこの二人の交互の語りで進んでいきます。0Lの前に現れ、彼女に「本当に死ぬ気なら1年待ちませんか? 1年頑張ったご褒美を差し上げます。」と囁いた人物の正体は誰なのか、雑誌記者が追う服毒自殺事件とどうリンクしてくるのかと注意深く読み進んだのですが、OLの語りは児童養護施設でボランティアをしている様子が語られていくだけ。これはミステリなのかなあと思い始めたのですが、結局この時点ですっかり本多さんが仕掛けた罠に見事にはまっていたのですね。ところどころ、おかしいなあと感じる点はあったのですが、本多さんのリーダビリティにすっかり騙されました。
出だしは安保闘争時代を生き、自ら命を絶った高野悦子さんの「二十歳の原点」からの引用ですが、学生時代に夢中で読んだ身としては、これだけでこの話に引き込まれてしまいました。でも、「二十歳の原点」があんなふうに使われるとは・・・ |
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WILL ☆ |
集英社 |
死を前にした患者の願いをかなえようとする大学生・神田の活躍を描いた「MOMENT」の続編になります。
「MOMENT」から7年、前作の主人公神田はアメリカに在住しており、今回は神田の幼なじみ、葬儀屋の森野が主人公です。7年がたち、神田と森野の関係も進展し、アメリカと日本に分かれているとはいえ、恋人同士といえる間柄になっているようです。
葬儀屋である森野の元には、死んだ父親の幽霊が現れるという女性、愛人の葬式をやり直して欲しいと依頼する女性、死んだ夫の生まれ変わりが現れたという女性が訪ねてきます。彼女らから持ち込まれる依頼を通して描かれるのは、生きるということの意味のような気がします。死者を扱う葬儀屋である森野の目を通しているからこそ、その正反対にある人間の生がよく見えてくるのではないでしょうか。
言葉遣いは男勝りで素っ気ない口ぶり。肩幅は神田よりあるくらいと「MOMENT」で描写されていた森野ですが、最後はとてもかわいらしいと思ってしまいました(そんなこと言うと怒られそうですが)。
本当に素敵なラストです。「MOMENT」以後の描かれない7年の間に神田も本当にいい男になったようです。本を読んで心が温かくなるというのは、こんな感じを言うのだろうと思います。誰かに勧めたくなる1冊です。「MOMENT」を読んでいなくても楽しめますが、素敵なラストを味わうためにも「MOMENT」から順番に読んだ方がいいですね。 |
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at Home ☆ |
角川書店 |
家族の再生をテーマに書かれた4編からなる短編集です。
これは読ませます。中でも表題作でもある「at Home」が一番です。父親は泥棒、母親は結婚詐欺師、長男は偽造屋という犯罪者一家。そんな一家の母親が危機に陥り、家族は協力して母親を助けようとします。どうして、母親がそんな危機に陥ることになったのか、その理由が泣かせます。そして、母親を救出する中で、予定外のことが起こったときに、責任を取ったのが父親という、理想的な家族の姿が描かれます。家庭内暴力、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス等々家族という繋がりが希薄となっている現在、彼ら家族の繋がりは素敵です。なぜ、そんな理想的な家族なのかが明らかとなるラストはグッときます。家族って、ただ血のつながりだけではなく、いつも家族という関係を作っていくよう努力しなければならないのでしょうね。改めて“家族”という形を考えさせられる作品です。
「at Home」と並んで好きな作品が「共犯者たち」です(この「共犯者たち」という題名が、読むとわかりますが内容にピッタリです。シャレていますね。)。20年前に失踪した父親と偶然会ってから毎年会うことになった息子が、そんな父親と協力して家族としてあることをする物語ですが、とにかく、登場する父親が素晴らしいです。妻子を捨てて家を出た夫が実は・・・とわかるところが父親という立場からは、あまりにかっこよすぎ!と思いながらもグッときます。
「日曜日のヤドカリ」は、敬語で会話する男と妻の連れ子である女の子との話。最近、児童虐待でよくニュースになるのは、妻の連れ子に暴力を振るうというケースが多いですね。この作品で描かれる男と妻の連れ子が敬語で話をするというのは、それだけ聞くと、二人の間によそよそしさを感じてしまうのですが、ところが実に二人はいい関係を保っているんですよね。女の子に殴られた同級生の男の子が親に連れられて謝罪を求めに来た後の二人の会話は愉快です。
残りの1作は、借金返済のため、やくざに頼まれて外国人女性と偽装結婚することとなった男を描く「リバイバル」ですが、4作品とも、いわゆる“普通の家族”とは異なる家族の姿が描かれています。でも、どれも、こういうのが本当の家族じゃないかと思わせられます。読後感もいいです。おすすめ。 |
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ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1 ☆ |
集英社 |
(ネタバレあり)
今までの本多孝好さんの作品とはちょっと雰囲気が異なったアクション作品です。
主人公は、超人的な能力の持主の昴、隆二、良介、沙耶の4人。彼らは自分の持つ能力を使って、代議士の渡瀬から依頼された様々な裏の仕事をしていた。一方、世間ではアゲハと名乗る者たちによる惨殺事件が頻発していた。
ACT-1では、貴重な資料を持ち出して失踪した大物政治家の娘を捜すよう渡瀬から指示された昴たちとアゲハたちとの攻防が話の中心となります。
そんな中で、主人公の昴たち以上に活躍するのが、娘を連れて逃げる元全共闘の闘士で、現在はいかがわしい出版社社長の三井と元ホストで街頭スカウトの伸吾。特に、全共闘の闘士で、あの学生運動の時代を引きずり目的もなく生きてきた三井が、娘を追う追っ手から逃れる中で、しだいに昔の自分を取り戻していく様が描かれており、このあたりは彼が主人公のようです。
ACT-1では昴たちがなぜ超人的な能力を持つようになったのか、まだ明らかにされていません。また、昴の能力もアゲハたちから「未来を読む」と考えられていますが、はっきりとしません。そして、アゲハの集団も何らかの能力を持っているようですが、隆二と同じ能力を持つ少年以外これも明らかにされていません。昴たちが渡瀬に使われながらも殺したいと思っているという両者の関係も理解できないところです。まだ、物語の序盤でわからないことが多く、今後の展開が大いに気になります。当然ACT-2では昴たちとアゲハとの闘いが繰り広げられるのでしょう。アゲハの能力に昴たちは立ち向かえるのか。ACT-2が待ち望まれます。 |
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ストレイヤーズ・クロニクル ACT-2 |
集英社 |
シリーズ第2弾です。今回、渡瀬から昴たちに下された指令は、国際会議にやってくるアゲハの生みの親である科学者をおとりに、アゲハたちを捕まえろというもの。いよいよ昴たちとアゲハたちの戦いが始まります。さらに両者の戦いに世界を壊したいと考えるセキュリティ会社社長の神谷と彼に雇われた暴力を厭わない男たち、そして渡瀬の下で働く元自衛隊員で警備会社の社長井原たちが加わり、凄惨な状況になってきます。
今回、前作に登場した壮以外のアゲハたち個々の特殊能力が明らかになってきますが、どう考えても昴たちが対抗できそうもありません。昴たちの特殊能力といっても沙耶は鋭敏な聴力ですし、良介は記憶力ですから、積極的に戦うことができるのは超人的な運動能力を持つ隆二だけ。昴にしても攻撃をかわすことはできるでしょうが、こちらからの攻撃となると未知数です。アゲハたちにも殺戮を繰り返す事情があるようですし、今後の展開が気になります。
この話を読んでいると、胸の内に浮かんでくるのは、石ノ森正太郎さんの「サイボーグ009」という漫画です。悪の組織によって兵器として改造されたサイボーグO09たちが、組織を裏切り、それぞれの特殊能力を使って世界平和のために戦うという話です。彼らを倒すために改造され、彼ら以上の能力を持ったサイボーグとの戦いが、この作品の昴たちとアゲハとの戦いのように思えてなりません。 |
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ストレイヤーズ・クロニクル ACT-3 ☆ |
集英社 |
いよいよシリーズ最終章です。いったい渡瀬浩一郎という政治家は何をしようとしているのか。昴たちは亘を助け出すことができるのか。学ら“アゲハ”は渡瀬を殺すのか。すべての解答がラストの富士山の裾野に広がる自衛隊の演習場での昴たち、アゲハ、渡瀬の三つ巴の戦いの中で明らかにされます。
冒頭、渡瀬から昴の殺害を依頼された武部という暗殺者の話から始まります。前半は昴たちと“アゲハ”らの行動とは別に、昴を狙うこの武部という人物の視点が加わりますが、衝撃的な展開にびっくりです。いやぁ~やられました。ものの見事に本多さんにミスリーディングさせられました。
自分たちを作り出した者たちを殺ず“アゲハ”たちを見ていたら、「ブレード・ランナー」の悲しい運命を背負って生まれてきたレプリカントを思い浮かべました。若くして寿命が尽きるなんて、まさしくレプリカントと同じです。それに、壮と隆二の闘いの幕切れは、ブレード・ランナーのハリソン・フォード演じるデッカートとルトガー・ハウアー演じるロイ・バティーの闘いそのものです。あまりに悲しすぎる“アゲハ”たちの運命です。 |
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MEMORY ☆ |
集英社文庫 |
「MOMENT」、「WILL」の森野、神田が脇役として登場する5編が収録された文庫オリジナルの短編集です。
“シニガミガリ"に行く友だちに連れられて行った先で、“死神"こと森野に捕まってしまった純。森野から森野葬儀店のガラスにひびを入れた者を3日以内に連れてこいと言われて困惑するが、偶然出会った神田にその話を打ち明けると・・・(「言えない言葉」)。ミステリらしい趣向もあって、ラストあっと言わせてくれます。二つの恋を描いた、この短編集の中では一番好きなストーリーです。
出会い系サイトのティッシュ配りをしていた浅沼に、偶然通りかかった小学校時代のクラスメートの大沢が声をかけてきたが、ある嫌な思い出があって、彼女から逃げるようにバスに乗る。バスを降りた駅前で出会った男子高校生に彼は小学校のときにいじめられた思い出を語・・・(「君といた」)。彼女の最後のことばで心温まります。
高校時代ソフトボール部でエースピッチャーだった結城雛乃は、今ではうつ病を病んでいたが、恩師から部の後輩の森野に偶然出会った話を聞き、森野に会いに行き、自分の今を語り始める・・・(「サークル」)。今後に希望を見出せるラストにホッとします。
死んだ作家の書き残した本を出版しようとする妻はある男に会いに行くが・・・(「風の名残」)。アメリカで翻訳とエージェントの仕事を行っている神田が作家の妻の誤解を解きほぐしていく話です。
看護師の美佳は、ときどき姿を隠す入院患者の老人に手を焼いていたが、ようやく見つけた彼がいた場所は・・・(「時をつなぐ」)。全体を通して語られていた森野が教師を階段から突き落とした事件の真相が明らかにされるほか、ラストでは、このシリーズの締めくくりとして、森野と神田の現在をかいま見ることができるファンとしてはたまらない作品です。たぶんこれで最後であろうシリーズの幕引きに大きな拍手です。 |
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君の隣に |
講談社 |
(ちょっとネタバレ)
6人の語り手によって描かれていくストーリー。冒頭の好きだった男を死に追いやったと周囲から白い目で見られている女子大生のアヤメの章、次の時々大学生の早瀬が経営するデリヘルを利用する一流企業の課長の吉田の章を読んだときには、早瀬が経営するデリヘルで働く女性やそこを訪れる男性たちのそれぞれの人生を描いた連作短編集かと思いましたが、アヤメや吉田の章はこの物語の舞台となる早瀬のデリヘルを紹介するための導入部みたいなもの。その次の早瀬のデリヘルの前身の店を利用していた小学校の先生、星野の章と早瀬から依頼されてデリヘル嬢の行方不明事件の情報を元部下から入手する退職した警官の満村の章を読んで、ようやく早瀬と早瀬のアパートに住む少女との関係が描かれ、ストーリーの方向が見えてきます。
果たして、星野が担任になった生徒・進藤翼の母親・レイカは、星野が思っていた人物だったのか、であればレイカはどこに消えたのか。物語はしだいにミステリーの様相を見せてきます。
坂巻の章の落としどころとしては、あの展開はどうかなと思います。ここで少女を関わらせる結果になるのは納得いきません。なぜなら彼女は真実を知っているのですから。彼女がなぜそういう行動を起こしたのかも理解に苦しむところです。
ラストの豊の章はそこまでの展関からはちょっと意外な心がじ~んとくる方向へ。でも、結局アヤメや吉田はどうなったんだろうと気になります。 |
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魔術師の視線 |
新潮社 |
ビデオジャーナリストの楠瀬薫の前に、かつて超能力少女と騒がれ、その後薫の取材によって嘘が暴かれ、世間から糾弾された少女・諏訪礼が現れる。今では14歳になった彼女はストーカーから逃れるために、彼女に「何かあったら電話して」と声をかけた薫を頼ってきたのだった。彼女を匿った薫は週刊誌記者時代の編集長で今は探偵事務所を開いている友紀に礼の引取先として母親と離婚して家を出て行った礼の父親探しを依頼するが、やがて友紀が死体となって発見される。薫が週刊誌記者時代に美人大学教授との不倫現場をスクープした政治家・寺内の周囲で人が死んでいることを知った薫は彼への疑いを持ち、取材を進めていくが・・・。
取材を進める中で、スクープの裏側に隠されていた事実が次々と浮かび上がって、信頼していた人物が実は別の顔を持っていたことが明らかになるなど、驚くべき展開を見せていくのですが、それはいってみれば傍流の話です。
肝心な話はやはり諏訪礼のことです。果たして、礼のストーカーの話は薫が考えるように狂言なのか、であれば礼はなぜ薫の元にやってきたのか。かつて礼にインチキを伝授した超能力者の宮城と会って、薫は恐るべき事実を知りますが、その先には薫が直面しなければならない更なる驚きの事実が待っていました。非常に後味の悪いラスト、というより怖ろしいラストです。薫は耐えられるのでしょうか。
このところ本多さんはで異能の人物たちを登場人物にした「ストレイヤーズ・クロニクル」3部作を著しましたが、この作品も同じ系統の作品です。ただ、異能の者とそれを排除しようとする者との戦いが描かれた「ストレイヤーズ~」と異なって、こちらはもう少し心理的な要素が強いです。
もうだいぶ前、超能力ブームが起こり、ユリ・ゲラーのスプーン曲げがテレビで話題になっていた頃、世聞から超能力少年と言われた少年が実はインテキをしていたことがわかり、パッシングを受けたことがありましたが、この作品がそのときのことを下敷きにしているのは明らかです。 |
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dele ディーリー |
角川書店 |
社員が所長の坂上圭司と3ヶ月ほど前に雇われたばかりの真柴祐太郎の2人だけの 「dele. LIFE」は、死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除することを仕事にしている。今日も、亡くなった人からの依頼のデータ消去の仕事に取りかかるが・・・。
パソコンやスマホが普及した今だからこその作品です。「dele. LIFE」の仕事の流れは、前もって依頼者と契約時に交わされていた事態が生じると(例えば、24時間パソコンを起動した形跡がない等)、依頼主が死んだのではないかと、祐太郎がその裏を取り、確認がなされると圭司が前もって仕込んでおいたプログラムによりデータを遠隔操作で削除します。しかし、淡々と依頼されたデータの削除を実行しようとする圭司に対レ祐太郎は残された者のために果たしてデータを削除することが正しいのかどうか悩みます。その祐太郎の思いが圭司を動かし、二人は契約者がデータの削除に込めた思いを明らかにしていくという体裁になっています。
多がれ少なかれ、パソコンの中に人には見られたくない情報は誰でも持っていることでしょう。それがアダルトな情報であったとして、死後、残された人たちにそれがわかってしまうと考えると、かなり恥ずかしいですね。でも、この作品での情報はそれとはまった
く違います。
収録されたのは5編。悪事から手を引き再出発しようと考えていた青年はなぜ殺されたのか(「ファースト・ハグ」)、老人がパソコンに保存しておいた写真に写っていた女性は誰なのか(「シークレット・ガーデン」)、交通事故で意識不明の元引き龍もりの青年は果たして自殺しようとしたのか(「ストーカー・ブルーズ」)、幼い子を残して死に行く女性がデータの削除に込めた思いは(「ドールズ・ドリーム」)、亡き父の銀行口座から大金が消えていたのはなぜか(「ロスト・メモリーズ」)という5つの謎が圭司と祐太郎によって明らかにさ
れていきます。
どの話も死んだ(あるいは意識不明の)契約者の思いに胸を打たれます。中でも「ドールズ・ドリーム」の余命宣告を受けていた母親の娘への思いには涙腺が緩みます。
今回の作品だけでは、圭司がこの会社を始めた理由や祐太郎がフリーターでいた理由など、二人についてのことがほとんど語られていません。本多さんは続編を書かれる予定なので、今後はそのあたりの話にも期待したいです。 |
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Good old boys ☆ |
集英社 |
少年サッカーチーム「牧原スワンズ」は、市内最弱、その中でも4年生のチームは今まで勝ったことはおろか、一点も取ったことがないというチーム。そんなチームでも監督やコーチは勝負に拘らず、子どもたちは仲良く楽しそうにサッカーをしている。そんなチームの練習の手伝いや試合の応援に来ている父親たちは、皆それぞれ心の中に悩みを抱えていた・・・。
物語は「牧原スワンズ」の4年生チ一ムに所属する8人の子どもたちの父親を描いていきます。彼らは、なぜか最近妻との間がうまくいかなくなったユキナリの父親、元サッカーの地域リーグの選手だったが、チームがJFLに昇格とともに解雇されたユウマの父親、引き寵もりになった長男とどう向き合えばいいのか悩むヒロの父親、日本人の妻と結婚しブラジルから日本にやってきたが、日本の生活に馴染めないリキの父親、子どもたちに強く当たってしまい、彼らから避けられているショウの父親、血の繋がらない長男を他の子と分け隔てなく育てるダイゴの父親、突然妻から離婚を申し入れられ、娘からも引き離されることに戸惑うハルカの父親、認知症になって容姿の自分のことをわからなくなった養父に戸惑うソウタの父親と、それぞれ様々な悩みを抱えていますが、8人の父親たちの中にどこか自分の姿を見るような気がしないでもありません。
ハルカの父親の章だけがちょっと異色ですが、ここで明らかになることが、序章で「あれっ?」と思ったことに繋がっていたことに気づきます。
なぜ監督はチ-ムが勝つことを目的にしようとしないのか。ハルカの父に語る監督の思いに、すでに子どもたちが手を離れた僕としても、いや離れてしまったからこそ考えさせられます。また、コーチの水島がショウの父親に強豪チームのコーチのことを語るところにも大いに考えさせられました。
悩む父親たちとは別に子どもたらはある目的のために勝利を目指します。ラストはストレートな感動シーンですが、これもありですね。
子供を持つお父さんたちにおすすめの1冊です。 |
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dele2 |
角川文庫 |
シリーズ第2弾。3話が収録されています。
依頼者がデータの消去を依頼したパソコンには、弟が作曲・ボーカルを務める人気バンドの曲が入っていた。作曲をしていたのは弟ではなく、兄ではなかったのかと祐太郎は疑うが・・・(「アンチェインド・メロディ」)。イケメンの弟と不細工な兄との悲しい兄弟関係が描かれる一作です。よくあるパターンの話に終わらず、更にそこから捻りのあるラストに余韻が残ります。
“dele LIFE”に中学生の女の子・ナナミが亡くなった隣室の女性の携帯に“モグラ”を仕掛けたのは誰だと突然訪ねてくる。依頼された女性の携帯のデータを消すために携帯を渡すようナナミに求めるが彼女は拒否する・・・(「ファントム・ガールズ」)。SNSの中で演じている自分と現実の自分との間で苦しむ女性があまりに悲しい一作です。今のネット社会の中ではありそうな話ですね。
モグラが反応して祐太郎が調査に乗り出した依頼人は、祐太郎の妹・鈴が亡くなった大学病院の元教授だった。消去するデータのあり場所を探す中で、元教授が祐太郎と同じ姓の“真柴”という人物から連絡があることを恐れていたことを知る・・・(「チェイシング・シャドウズ」)。妹の鈴の死が医療過誤だとして訴えようとした祐太郎の家族に降りかかった様々な出来事の理由が語られていく一作です。そして、祐太郎が“dele LIFE”で働くことになった隠された事実が明らかになり、祐太郎と圭司の関係も転機を迎えるという読み応えのある話となっています。 |
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dele3 |
角川文庫 |
冒頭の「リターン・ジャーニー」は、“dele LIFE”を辞め、遺品整理業の仕事を手伝っていた真柴祐太郎の元に、坂上圭司の姉である舞から圭司が行方不明になったと知らされるところから始まります。手がかりは事務所に残されたパスワードでロックがかかったパソコン。祐太郎は以前の事件で知り合ったデジタルに詳しい不登校の中学生・ナナミに協力を求める。ロックを破って開けたパソコンのファイルには、国からの金がペーパーカンパニーに流れている証拠が残されていた。圭司はこのデータのために拉致されたのか、それとも自ら姿を消しているのか・・・。「dele2」で名前が出てきた、圭司が“dele LIFE”で働くよう裏で画策した夏目が登場。といっても、電話でだけで、性別もはっきりしない謎の存在です。
二話目の「スタンド・アローン」は前話とは一転して、故人から生前依頼されたデータの削除を行う通常の“dele LIFE”の仕事の話に戻ります。モグラが反応し、依頼主の生死を確認する電話をかけたところ、電話に出たのは死んだはずの依頼主。死亡したのは中学生の娘で、親のクレジットカードを使用して“dele LIFE”と契約していたことがわかる。なぜ、中学生の娘がデータの消去を依頼したのか。祐太郎とナナミが彼女が通う中学校の友人に接触して話を聞くが・・・。前話をきっかけに“dele LIFE”に入り浸るようになったナナミの成長物語としても読むことができる作品になっています。 |
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アフター・サイレンス |
集英社 |
30歳過ぎの臨床心理士で公認心理師の高階唯子を主人公とする5編からなる連作集です。唯子は警察職員ではなく、大学の心理学科の研究員で、県警からの委託を受け、犯罪被害者へのカウンセリングを行っています。
カウンセリングの対象となったのは、「二つ目の傷痕」では不倫相手の会社の後輩に刺殺された男の妻、「獣と生きる」では自動車のひき逃げで兄を亡くしたペルー国籍の日系三世の若者、「夜の影」では25年前に起きた若い女性が殺害された未解決事件で被害者女性の余命を宣告された父親、「迷い後の足跡」では未成年者誘拐の被害者となった女子高校生、「ほとりを離れる」では7年前、唯子がカウンセラー駆け出しの際に担当した姉を殺害された弟ですが、被害者側の誰もが皆、心の中に吐き出すことのできないものを抱えています。これらの対象者に向かい合って、彼らの心に寄り添おうとする臨床心理士または公認心理師の仕事は本当に大変ですね。
実は唯子の父は15年前に殺人を犯し刑務所に収監中。そのため、唯子自身が加害者側の家族です。そんな唯子が被害者側に寄り添うということは相当の覚悟がなければできないだろうことは想像できます。「夜の影」の最期に唯子の人生に大きく関わる人物が登場し、ここから話は唯子自身の話に比重が移ってきます。ラストの「ほとりを離れる」で被害者家族に向き合い、唯子がある行動に出ますが、この行動はカウンセラーとして力不足であった自分を罰するものなのか、それとも加害者側にいる自分ですべてを完結させようとしたものなのか・・・。その意味を推し量ることは第三者には難しいです。
帯に「大切な人が殺された時、あなたは何を望みますかー」とあります。死刑廃止が叫ばれる中の議論にもありますが、死刑の存続には意味もなく愛する人を失った被害者遺族の厳罰を求める感情を考慮すべきだという考えがあります。5編の中の「夜の影」「ほとりを離れる」は、特にこのことを深く考えさせる話になっています。 |
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