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平山瑞穂の本棚

  1. 忘れないと誓ったぼくがいた
  2. 桃の向こう
  3. 3・15卒業闘争

忘れないと誓ったぼくがいた 新潮社
(ネタバレあり)
 「ラス・マンチャス通信」で2004年度ファンタジーノベル大賞を受賞した平山瑞穂さんの受賞第1作です。今回もファンタジーと言っていい作品ですが、いわゆるライトノベルな雰囲気であっという間に読んでしまいました。
 1人の少女を好きになってしまった高校生の男の子タカシの恋を描いた物語。と書けばありきたりの初恋のラブ・ストーリーになってしまいます。しかし、彼の恋した女子高生あずさはこの世界から消え去る運命にあったのです。
 どうして彼女が世界から消え去らなければならないのか、その理由は最後まで明かされません。それゆえ、一途に彼女をこの世界にとどまらせようと努力するタカシの気持ちがあまりにも切なく、泣けてしまいます。ラストシーンのあずさの言葉にもジーンときてしまいました。こういう話には弱いんですよねえ。ど真ん中直球の恋愛小説です。深く考えるといろいろ疑問が生じてしまいますが、それを抜きにして“タカシとあずさ”のストレートなラブストーリーにどっぷり浸かりましょう。
 表紙カバーの女子学生の写真、顔が写っていないところが哀しいです。
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桃の向こう 角川書店
 この物語は、作者の平山さんが言うには、「ロスト・ジェネレーション世代の、10年にわたるほろ苦い群像劇」だそうです。

 “ロスト・ジェネレーション”とは、「もともとは第一次世界大戦での体験から既成の価値観を拒否したヘミングウェイやF・S・フィッツジェラルドらの作家を指した言葉だが、『朝日新聞』はバブル崩壊後の「失われた10年」に大人になった若者たちをこう名付けた。バブルの豊かな時代に生まれて少年時代を過ごしてきたが、大学卒業間近の時期に戦後最長の不況期に当たって、思うとおりの就職ができず、フリーターのままで過ごさなければならなくなった者たちを指している。」そうです。(Yahoo辞書より)

 そういうわけで、この作品で描かれるのはバブル崩壊後の時代に大学生活を送り社会へ出た同級生の来栖幸宏、多々良晃司、仁科あきこの三人だったはずなんですが・・・。帯にはこの3人の“失われた10年を駆け抜けたほろ苦い恋と運命の行方は?!”とありますが、これは内容を的確に言い表していません。誇大広告みたいなものです。
 社会人となった来栖が迷い込んだ場所で偶然見かけたあきこの姿から話は大学時代へと遡って行くのですが、あきこの描き方が中途半端です。途中、彼女自身のモノローグもあるのですが、その後は来栖と多々良の話の中で彼女の消息が語られるだけです。話が展開していく中で重要な登場人物かと思ったら、結局途中からどこかへ消えてしまって話に登場してきません。だいたい、最初のシーンで来栖は彼女を見てそのあとどうしたのでしょう。題名の「桃の向こう」というのは、この最初のシーンを意識して付けられたものではないのでしょうか。それだけに彼女という存在は重要だと思ったのですが。
 青春小説と謳われる小説を読むのは好きですが、今回は帯に騙されてしまいました。最初から来栖と多々良の物語と思って読めば、感想はまた違ったのでしょうけど。
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3・15卒業闘争 角川書店
(ちょっとネタばれ)
 作者自身がラスマン回帰作品と称しているように、デビュー作の「ラス・マンチャス通信」と同じ系列の作品のようです(残念ながら「ラス・マンチャス通信」は未読です。)。
 不可思議な世界の物語です。中学校を舞台にしていますが、その中学校はいつ卒業ができるかわからないし、そもそも卒業した者がいるのかさえわからないという設定です。主人公の“僕”でさえ30歳という年齢ですが、遥か年上の人もいます。しかし、その年に至るまでどう生活していたのかも覚えていないし、また、両親はいると認識しているが、顔はというと思い浮かべることもできません。この世界では戦争も行われているらしいのですが、それがどこかもわかりません(このあたりは、三崎亜記さんの「となり町戦争」みたいです。)。さらに、世の中には“不適格者”という人々もいますが、この人たちがどういう人なのかもわかりません。とにかく、この世界についての説明をまったくすることなく、平山さんは話を進めていきます。
 アカという教師に恨みを抱く“僕”は、彼を殺すことを目的としたベルゼブブ生命保険相互会社をクラスメートの介良と二人で設立し、彼を殺すことを夢想します。その彼に「卒業準備委員会」という、この中学校から卒業することを目的とした組織が近づいてきます。果たして、彼にとっての敵か味方か、気になる展開になってきます。
 最初は題名から青春物語かなと思っていたのですが、まったく違いました。映倫でいうところのR+15あるいはR+18というような描写もあり、読んでいて決して爽やかな気持ちになることはありません。でも、先の展開が気になってページを繰る手が止りませんでした。平山さんのリーダビリティのなせるところでしょうか。いっき読みしてしまった不思議な作品です。
 ただ、ラストに至っても平山さん自身はこの世界のことを明確に説明していないので、何となく自分の中で想像はできるのですが、消化不良のところは残ります。
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