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平石貴樹の本棚

  1. 潮首岬に郭公の鳴く

潮首岬に郭公の鳴く  光文社 
 函館有数の資産家である岩倉家の孫娘・咲良が高校から帰る途中で行方不明となる。浜には遺留品と咲良のものらしい血の付いた鷹の置物が発見される。岩倉家の家長であり咲良の祖父である松雄は、咲良の行方不明が岩倉家で所有している4枚の短冊に書かれた松尾芭蕉の俳句を見立てたものではないかという。湯ノ川署の舟見と山形は捜査を進めるが、やがて、俳句に見立てた第2の殺人事件が起きる・・・。
 資産家の家を襲う見立て殺人からは、横溝正史さんの作品を思い起こさせます。資産家によくある多くの愛人関係や三人の孫娘と美少年との異様な性的関係など、その設定だけ見れば横溝作品のような爛れた一族の物語ですが、時代設定が戦後の混乱期ではなく現在ということもあってか、読んでいて横溝作品のようなおどろおどろしさは感じられません。
 また、警察の捜査が続いているのに、それを尻目に次々と殺人が起こるのは、横溝作品にもよくあるパターンですが、金田一耕助のような名探偵の登場はあるのかと思いきや、途中でそれらしき人物が登場するのですが、なかなか物語の表には出てきません。舟見らによる地道な警察の捜査が描かれるだけ。それも、犯人らしき人物が浮かんでは容疑が晴れるという具合でなかなか真相が見えてきません。
 それでも、最後は、本格ミステリらしく名探偵がみんなを集めて推理を披露するところは読みどころです。 
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