早見和真さんのデビュー作であり、現在公開中の同名映画の原作です。題名の「ひゃくはち」とは、「108」のことで、仏教でいう人間の煩悩の数であり、一方野球のボールの縫い目の数のこと(煩悩の数であることは除夜の鐘が108鳴るということで知っていましたが、ボールの縫い目は知りませんでした。)。
現在、甲子園では夏の高校野球大会が開催中です。まさしく、今このタイミングで読むべき作品ですね。
神奈川県の甲子園常連校を舞台に、中学野球の有名選手が入ってくる野球部ではレギュラーになれるかどうか崖っぷちのところにいる一般入試で入った少年、青野雅人。物語は彼を主人公に、甲子園を目指す高校球児たちの友情を描いていきます。
高校野球というと、世間の人は(あるいはマスコミかもしれませんが)、それを神聖視し、球児は真面目な高校生だと持ち上げます。でも、ここで描かれる選手たちは、タバコも吸うし、合コンで女の子と遊ぶことに一所懸命な、マスコミが作り上げた球児の姿とは異なる普通の高校生たちです。でも、そんな彼たちも甲子園に対する思いは強いし、それを目指して努力もします。こちらの方がリアルな姿という気がします。でも、酒やタバコなどと聞いたら高野連の人はびっくりでしょうけど。
夏の甲子園を目指す彼らの前に起こった事件のシーンは、感動の場面というべきでしょうが、残念ながら僕自身は醒めた目で見てしまいます。なぜなら、騒動の原因となった少年に同情も何もできなかったし、逆に批判的だったので。中学時代に同じことで悩んだ過去があるのに、自分たちの欲望に負けてか、また大変な事態を引き起こしてしまったのですからね。彼のことを思う主人公より、他の選手たちの気持ちの方がわかります。それまで、おもしろく読んでいたのですが、ここは感動できません。感動できないのは若くないせいなのかなあ。でも、青春小説ですから、楽しんで読みましたけど。 |